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妬ましいってことは、自分もそうなりたいってことですよね

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エッセイスト・吉玉サキによる連載『7人の女たち』では、とある7人の女性たちが抱えてきた欲望や感情を、それぞれへのインタビューを通じて描きます。今回は、姉や友達への嫉妬を重ねれば重ねるほど、自分はダメだと落ち込んできた理央さんのお話し。

妬ましいってことは、自分もそうなりたいってことですよね

居酒屋のトイレで会ったとき、理央ちゃんは「嫉妬についてだったら2時間くらい余裕で話せます!」と言った。

私が飲み会の席で「大きな声で言えないような生きづらさについて話を聞かせてくれる女性を探している」と言ったからだ。

「嫉妬すること、めちゃめちゃありますよ。今はだいぶマシになったけど、昔は手当たりしだい嫉妬してました!」

今はだいぶマシになったと聞き、私はその理由を知りたいと思った。

けれど、たくさんの友達がワイワイしている飲み会で話すような内容ではないだろう。後日話を聞かせてもらう約束をして、私たちは飲み会の喧騒に戻った。

◾コミュニケーションが上手な人に嫉妬する

理央ちゃん(仮名)は30歳。以前、私が働いていた山小屋に彼女がバイトで入ってきたことで知り合った。

彼女は6歳から19歳までをアメリカで過ごした帰国子女だ。流行にとらわれないファッションや、堂々とした飾らない雰囲気がかっこいい。明るい笑顔が魅力的で、山小屋でもみんなから好かれていた。

そんな彼女は「17歳くらいから、姉や友人たちに対して嫉妬心を抱くようになった」という。

私は嫉妬という言葉に、相手を妬んで嫌がらせをするようなイメージを持っていた。けれど理央ちゃんの場合は、嫉妬の対象に憎しみを感じることはないそうだ。憎しみは、相手ではなく自分に向かうという。

「姉も友達もすごく素敵で、大好きなんです。だから羨ましいのに、自分はそうなれない。周りの人たちを尊敬すればするほど、自分はダメだって落ち込むんです。そんな自分が嫌で」

相手のどんなことに対して嫉妬を感じるのか尋ねると、彼女は「コミュニケーションですね」と言った。

「私、コミュニケーションが苦手なのがコンプレックスなんです。人見知りだし、大人数だとうまく喋れないし……。周りの人たちみたいに気が利く人になりたいのに、どうしてもなれないから嫉妬しちゃいます」

私から見て、理央ちゃんのコミュニケーション能力には問題が感じられない。彼女は充分に気が利くと思うし、バイト先でも人気者だった。
私がそう言うと、彼女は「ありがとうございます。でも、私なんか全然ダメです」と言う。

彼女の表情は真剣そのもので、謙遜ではなく本当にそう思っているように感じられた。

■「自分が恵まれていても、自分より持っている人に嫉妬しちゃうんです」

理央ちゃんはアメリカにいた頃、周りの人たちの人間関係に嫉妬していたという。

「みんなから好かれてる子が羨ましくてたまらなくて」

しかし、理央ちゃんが嫌われていたかといえば、そうではないらしい。彼女は仲の良い友達もたくさんいて、学校生活を謳歌していたそうだ。彼女が通っていたアメリカの学校はさまざまな人種の生徒がいたけど、理央ちゃんは差別された経験がないと話す。

「私も充分に恵まれてるのに、人に嫉妬しちゃうんです。たとえば、自分よりも友達多い人と比べて羨ましくなったりとか」

理央ちゃんより友達が少ない人はいなかったのだろうか。
そう尋ねると、「いたけど、自分よりも友達が少ない人と比べることはないんですよね」という答えが返ってきた。

その言葉を聞いて、以前ある友人が言った「自分の下を見て『あの人よりはマシ』って優越感持っても、それで満足できるわけじゃない。下見てもキリがないけど、上見てもキリがないから」という言葉を思い出した。


理央ちゃんは19歳のとき、日本に帰国した。住み慣れたアメリカを離れたくなかったけど、ビザの関係で21歳までしか住めないため、しかたなく日本に帰ってきたのだ。

彼女は関西の大学に通いはじめた。けれど、大学の友達といても話題についていけない。日本で流行っていたものがわからない。

理央ちゃんは、共通の話題で楽しそうに盛り上がっている人たちに嫉妬するようになった。また、自分より先に帰国していたふたりの姉がすっかり日本に馴染んでいることにも、激しい嫉妬心を抱いたという。

「姉たちも友達も好きなのに、嫉妬しちゃう。そんな自分が嫌で、すごく苦しかったですね」

そう言って、彼女は困ったように眉を八の字にした。

■さまざまな価値観に触れるうち、人と比べることが減った

大学を卒業した彼女は、そのまま関西で保育士として就職した。26歳のとき、京都にあるゲストハウスに転職。スタッフとして、世界中から訪れる旅行者たちと接するようになった。

ゲストハウスでは年齢も職業も国籍もさまざまな人たちと出会い、ときには食事を共にすることもあるという。理央ちゃんは旅行者たちと関わるうちに、人と比べることが減ってきたと話す。

「それまでは、周りも自分と似たタイプの人ばかりだったんですよ。だからこそ比べちゃってたんだと思います。でもゲストハウスでは、それまでなら絶対に友達にならなかったタイプの人ともたくさん出会って、仲良くなったりして。自分と価値観が違いすぎる人とは比べようがないんです」

そう語る彼女は当時のことを思い出したのか、目がキラキラしていた。

「それに、あまりにもたくさんの人と出会うから目まぐるしくて、いちいち比べたらキリがなくて。気づいたら、人と比べて嫉妬することが減ってました。

とはいえ、理央ちゃんは今も嫉妬することがあるという。

「やっぱり今も、自分よりコミュニケーションが上手な人には嫉妬しちゃいます。それに比べて私はダメだ……ってへこみますね」

私から見て、理央ちゃんはとても自己肯定感が低い。本人にその自覚はあるのか、尋ねてみた。

「そうそう、友達からよく自己肯定感低いって言われます! 私も前はそのことで悩んでて……。でも最近は、自己肯定感とか考えないようにしてます。考えたところで変わらないし、考えすぎるとしんどくなるから」

自己肯定感について考えるのをやめた彼女は、「目の前のこと」を考えるようにしているという。

「とりあえずは、目の前のことに集中するしかないのかなって。生活とか仕事とか、目の前の相手を大切にすることとか」

そう言って、彼女は屈託なく笑う。

■嫉妬することで見えてきた理想の自分

現在、理央ちゃんは住み込みのアルバイトを転々としている。

彼女は「何をやりたいのかわからない」という。しかし、やりたいことはわからなくても、理想の自分は見つけているそうだ。

「理想は、周りを幸せにできる人ですね。今まで、姉や友人たちのどんなところに嫉妬してきたかを考えると、周りを幸せにできていることなんですよ。それが妬ましいってことは、自分もそうなりたいってことですよね」

私が「嫉妬はなりたい自分を映す鏡?」と尋ねると、彼女は「そう、それです!」と微笑んだ。


私も、自分の嫉妬心に振り回されて苦しくなってしまうことがよくある。

そのたびに「嫉妬してしまう自分はダメだ」と自責する。嫉妬しないようにしなければ、とも。

けれど、自分の嫉妬心を分析することで、「なりたい自分」を知ることもある。理央ちゃんの話を聞いて、そのことに気づいた。

今度誰かに嫉妬を感じたら、じっくりと自分の心を覗いてみようと思う。

『7人の女たち』の連載一覧はこちらから

7人の女たち#1
どうせ食べるなら、罪悪感なく笑顔で食べたいじゃない

7人の女たち#2
「この人と恋愛しても幸せにはなれない」。なのに、身体が勝手に相手を選ぶ

7人の女たち#3
親になっても、自分のために怒っていいのだと思えた

7人の女たち#4
今の生活を変えたいんだけど、変えるのがめんどくさいんだよ

7人の女たち#5
20代の頃は、「自分は変われる」って思ってたんだよ

7人の女たち#6
妬ましいってことは、自分もそうなりたいってことですよね

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吉玉 サキ

1983年生まれ。noteにエッセイを書いていたらDRESSで連載させていただくことになった主婦です。小心者。

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