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どうせ食べるなら、罪悪感なく笑顔で食べたいじゃない

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エッセイスト・吉玉サキによる新連載『7人の女たち』がスタート。とある7人の女性たちが抱えてきた人にはあまり言えないような欲望や感情を、それぞれへのインタビューを通じて描きます。今回は、「暴食」を抱えてきた夏美さんのお話しです。

どうせ食べるなら、罪悪感なく笑顔で食べたいじゃない

「仕事忙しいときはストレスでいっぱい食べちゃう。でも、それがダメなことなんて思ってないよ。頑張ってる自分へのご褒美だからね」

そう言って、夏美ちゃんはスープカレーを美味しそうに食べる。彼女はいつ会っても明るく、溌剌としている。

「どうせ食べるなら、罪悪感なく笑顔で食べたいじゃない。美味しいもの食べて満足して、幸せな気分で今日を終えたいの」

今でこそ自分の食欲を肯定している彼女だけど、過去には暴食の罪悪感に苦しみ、自己否定に陥っていた時期があるという。彼女の中で、いったいどのような変化があったのか。スープカレーをたいらげて、近くの喫茶店で話を聞くことにした。

■寂しさを埋めるために食べてしまう

友人の夏美ちゃん(仮名)は33歳。本業はプログラマーで、週末はスポーツジムでエアロビのインストラクターをしている。1年ほど前から付き合いはじめた彼氏とは順調で、よくふたりで食べ歩きや登山をするそうだ。ややふっくらした体型とサラサラの黒髪が色っぽい。

彼女は小学校からずっとバスケ部で、運動するぶんよく食べる子だった。食欲が爆発したのは、大学進学のために一人暮らしを始めたときのこと。

「当時は1日4食かな。夕飯も食べるんだけど、眠れないときは夜中にラーメン屋とかマック行ったり。あとは、課題やりながらスナック菓子食べてた」

ひとりの夜の寂しさ、課題のストレス、恋愛がうまくいかない悲しみ。そういったものを感じるたび、心の穴を埋めるように食べていた。「こんなに食べちゃダメだ」と思っても、気づいたら手が食べ物に伸びている。食べた後は罪悪感に苛まれ、自己嫌悪に陥っていたそうだ。

「でも、私の場合は過食症ではないと思う」と夏美ちゃんは言う。彼女は一気にドカンと暴食するわけではない。日常的に、平均以上の量を食べ続けていたのだ。

嘔吐をするわけではないので、食べたら食べたぶん太る。子どもの頃からガッチリした体型ではあったけど、大学に入ってからはどんどん体重が増加し、「デブ」の領域になってしまったという。

「依存症みたいなものだよ。たぶん、お酒が飲める体質だったらアルコール依存症になってたと思う」

彼女が食べることに執着したのは、失恋による影響が大きい。

「私の中では『6月の悪夢』って呼んでるんだけど、なぜか毎年、6月に好きな人と友達が付き合い始めるんだよね。告白したわけじゃないから、失恋のうちに入らないかもしれないけど」

相手に告白しなかった理由を尋ねると、「当時は自分に自信がなかったから告白もできなかった。どうせ選ばれないし……って思ってたから」という返事が返ってきた。

その頃の彼女の口癖は「どうせ」「でも」「だって」。

「卑屈なブスの三原則? 三種の神器? とにかく、ずーっと言い訳か自己否定ばっかり言ってたんだよね」

そんな彼女を変えたのは、就職してすぐに始めたエアロビクスだった。

■エアロビに夢中になっていたら、いつの間にか痩せていた

大学を卒業した夏美ちゃんは、IT関係の会社に就職した。研修期間中はスーツを着る決まりだけど、そのスーツがきつすぎてダイエットを決意。スポーツジムに入会することに。

そこで、彼女はエアロビクスと出会う。興味があったわけではない。たまたま、通える時間帯にやっていたのがエアロビのレッスンだったのだ。

痩せるために始めたエアロビだったけど、彼女はだんだんとその楽しさにハマっていった。

「スタジオって鏡張りだから、踊ってる自分の姿が見えるんだよね。だんだん、もっと上手に、もっと美しく踊りたいって気持ちが強くなって」

結論から言うと、夏美ちゃんはエアロビを始めて痩せた。だけど、もはや痩せることはどうでもよくなっていたという。

「当初の目的はダイエットだったんだけど、そんなことも忘れちゃってた。エアロビに夢中になってたら、いつの間にか痩せてた感じ」

気づいたら、彼女は暴食しなくなっていた。その理由を、彼女はこう分析する。

「それまではストレスで食べてたの。だけど、エアロビでストレス解消するようになったから、あまりたくさん食べなくてもよくなった。もちろん、我慢はしたくないから好きなものは食べるけどね」

そう言って、夏美ちゃんは髪をかき上げながら艶っぽく微笑んだ。

■好きなことを仕事にしたら、自分に自信を持てた

彼女に更なる転機が訪れたのは26歳のとき。エアロビのインストラクターに転職したのだ。フリーランスとして複数のジムと業務委託契約を結ぶ働き方だ。

「この頃が私の『無敵期』だったよ」

彼女いわく、フリーのインストラクターは人気商売。レッスンが良いと評判になれば生徒さんが増える。

もともと明るくてテンションの高い夏美ちゃんは、この仕事が合っていたのだろう。水を得た魚のように、レッスンの契約が増え、生徒さんがどんどん増えていく。仕事がうまくいくにつれて、自分に自信を持てるようになった。

ちょうどその頃、恋愛もうまくいくようになった。

それまでも恋はしていたけど、実らなかったり、実っても短期間で悲しい終わり方をすることが多かった。けれどこの頃から、彼女自身が幸せを感じる恋愛ができるようになったのだ。

このとき交際していた男性とは、後に遠距離になったため夏美ちゃんのほうから別れた。けれど、ひとりの人と長く付き合えたことで、恋愛にも自信が持てるようになった。

仕事と恋愛、両面で自己肯定感が高まり、気づけば「どうせ」「でも」「だって」を口にすることはなくなっていた。

■昔と今とでは食べる理由が違う

彼女は30歳で二度目の転職をする。またIT業界に戻り、プログラマーになった。

「単純に、もっとお金を稼いでみたくなったんだよね。インストラクターの仕事は好きだったんだけど、収入がそこまで良くないからさ」

平日5日間は会社でデスクワークをして、早めに退勤できた日はジムに行く。土曜は個人的にジムに行き、日曜はインストラクターとしてエアロビのレッスンを受け持った。

しかし、納期前になると退勤時間が遅くなり、土曜も出勤になる。そうなると、運動できるのは日曜だけ。これが、夏美ちゃんには物足りない。

彼女はストレスを運動で解消している。そのため、ジムに行く時間が充分に取れないと、蓄積されたストレスが食欲に向かう。彼女は納期前だけ、暴食をするようになった。

「でも、昔とは気持ちが違うかな。昔は『穴埋め食べ』だったけど、今のは『ご褒美食べ』だもん」

彼女は独特の造語センスで話を続ける。

「昔は寂しさを埋めるために食べてたんだよ。でも、どれだけ食べても満たされないんだよね。しかも、暴食しちゃった自分を責めるから苦しくて。でも今は『仕事頑張ってる自分へのご褒美』って気持ちで食べてるの。だから、食べたらそのぶんちゃんと満たされるし、罪悪感も自責もない。納期前だけのことだしね」

第三者の目には、昔も今も、夏美ちゃんの暴食は同じものに映るかもしれない。

けれど、今の彼女は昔とは違い、納期前に暴食してしまうことも含めて、「これでいいんだ」と受け入れているという。

それを聞いて、自分を肯定できる彼女に強さを感じた。

私は自己否定に陥りやすい。私が彼女の立場だったら、いつまでも自分を責めて落ち込んでしまうと思う。

私にとって、自分を肯定することはとても難しい。いつか、夏美ちゃんのように、自分自身のことを「これでいいんだ」と思える日が来るのだろうか。

そんな私の漠然とした疑問を置き去りにするかのように、閉店間際の喫茶店に蛍の光が流れ始めた。

Illust/緒上ゆき(@ogamiyuki

『7人の女たち』連載一覧ページはこちらから

7人の女たち#1
どうせ食べるなら、罪悪感なく笑顔で食べたいじゃない

7人の女たち#2
「この人と恋愛しても幸せにはなれない」。なのに、身体が勝手に相手を選ぶ

7人の女たち#3
親になっても、自分のために怒っていいのだと思えた

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吉玉 サキ

1983年生まれ。noteにエッセイを書いていたらDRESSで連載させていただくことになった主婦です。小心者。

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