「貯金なんて知らない、でも今が一番楽しい」韓流アイドルの“特別なファン”を目指すオタク
知人に勧められた東方神起をきっかけに韓流アイドル沼にハマり、今では自他共に認めるオタクとして日々活動に勤しむmaoさん。恋愛感情とは違うの? CDは何枚買うの? そこまでお金をつぎ込むモチベーションは? 「オタ活」のこと、根掘り葉掘り聞きました。
韓流アイドル沼にハマり、サイン会、プレゼント、“推し”の誕生日……と、つぎ込んだ額はもはや計算不可能。
インタビュー当日は韓国のイベントから直行(!)してくれました。そんなmaoさんに、「オタ活」のこと、根掘り葉掘り聞きました。
■たまたま訪れたコンサートで衝撃の出会い
――今日は韓国から帰国して、空港からそのまま来てくださったとのことですが……韓国へは何をしに行ったんですか?
推しのAくん(仮名)に会いにです。テレビ収録の観覧に行ってきたんですが、今回は突然出演が決まるという特殊ケースで、数日前に案内が出てから即効スケジュール調整して弾丸で行ってきました。
――その行動力、すごいですね! Aくんにハマったきっかけは何ですか?
まず、韓流にハマり始めたのが6〜7年前。新卒で入った会社の同期に、東方神起が大好きな女の子がいて、ある日「とにかく聞いてみて!」と東方神起のDVDを強引に渡されたんです。
家に帰って早速見てみたら、ダンスも歌もものすごく上手で感動しちゃって。それがすべての始まりですね。それまでは、何かのオタクになったことなんて一度もなかったのに……。
――その後はどういう流れで韓流にのめり込んだのでしょうか。
東方神起をきっかけに他のグループも見てみたくなって、自然といろんなグループを見るようになって……東方神起→(中略)→BTS(防弾少年団)と来て、今の推しのAくんにたどり着きました。
――Aくんにはどんなきっかけで出会ったんですか?
たまたま知人に誘われて、Aくんが出ているコンサートを見たのがきっかけですね。
あまり気が乗らなかったんですが、いざステージを見たら「え、なにあの人すごい! かっこいい!」と衝撃が走っちゃって。
――彼の何がそんなにmaoさんの心をつかんだんですか?
顔ですね。顔が天才。
――潔い(笑)。
顔はもちろん、韓国のアイドルってものすごく完成されているんですよ。歌もダンスも完璧で。がっちりした子、華奢な子、かわいい系、王子系といろんなタイプがいますが、みんなスタイルが良くてイケメン。安心して見ていられるんです。
――顔以外で好きなところは?
Aくんは顔も最高なんですけど、性格もおもしろいんですよ。サイン会に行ってみたら、その顔でそんなこと言う!? っていうギャップがよくて、もっと知りたくなってハマっちゃいました。
■「推しに覚えてもらうことがモチベーション」CDを200枚爆買いしたことも
――普段の「オタ活」って、どんな感じなんですか?
CDが出たら、まずはCDを買ってサイン会の抽選に応募しますね。
――やっぱりCDはたくさん買うものですか?
人気があってなかなか抽選に当たらないグループの場合は、200枚近く買ったこともあります。
――200枚……すごい。でも、サイン会にはそれほどの価値があるということですよね。
韓国のアイドルは、ファンとの距離がものすごく近いんです。サイン会ではけっこう長い時間話せるし、ポストイットに質問を書くとそれに答えてくれるサービスがある場合もあります。
あと、来日イベントではツーショットを撮れるときもあります。
これは、この前のイベントで撮ったツーショットです。
maoさん「狭い世界なので身バレが怖くて……このくらいで勘弁してください」
1回5000円くらいで撮れるんですけど、顔がいい人とツーショットって最高じゃないですか? スマホ持って、自撮りで撮ってくれます。ポーズをふたりで一緒に決められることもあります。
それに、何回もサイン会やイベントに行くと、ちゃんと覚えてもらえますよ。
――覚えてもらえるんですね。それはうれしいかも。
私にとっては、それがオタ活の醍醐味なんです。推しに覚えてもらうことがモチベーションです。
「コンサートに行くだけでいい」とか「SNS見るだけでいい」とか応援の仕方はいろいろあると思いますが、私はやっぱり接触(会うこと)が好き。
推しに覚えてもらったら、次はグループの他のメンバーにも「この子、Aのファンだよね」って認知される楽しみがあります。
――はっきりとした目標があっていいですね。
サイン会でちゃんと話せるように、韓国語もがんばって勉強しました。
昔、せっかく韓国まで行って参加したサイン会で全然しゃべれなくて、すごく落ち込んだことがあったんです。もう、宿に帰ってから号泣(笑)。それを機に語学学校にも通って、本腰入れて勉強を始めました。
せっかくお金をかけて行ってるのに、サインもらってる間ずっと無言とか、絶対いやなんです。「ありがとう」「愛してる」って言われるだけじゃ何もうれしくない。自分にしかできない話をしたいですよね。
推しには安心してしゃべってほしいじゃないですか。「この人には気を許してもいい」と安心してほしいから、韓国語をきちんと話したいなって思ってます。
――他にはどんな活動をしていますか?
大事なのは誕生日ですね。
韓国には推しの誕生日を盛大にお祝いする習慣があって。私も誕生日のお祝いのために、1日で10万以上使ったことがあります。
あと、ファンが駅に看板広告を出したりできるんですよ。
――え、どういうことですか?
ファンが広告を出すのを斡旋する業者がいて、駅とか街中に推しの誕生日を祝う巨大広告を出せるんです。場所や内容にもよりますが、25〜30万円くらいで出せます。地下鉄の駅にポスター出したりとか、けっこうみんな普通にやりますよ。
私は、自分で編集した映像広告をカフェで流したことがあります。推しを周知するための活動ですね。これは1回1万円くらいでできます。
――すごい、そんなことができるんですね。
「広告出したよ!」ってSNSで告知すると、推し本人が見に行ってくれることもあります。
何人かのファンでお金を出し合うこともできますけど、私はやるならひとりでやりたいですね、感謝を独り占めしたいから(笑)。
■多いときは3週連続で韓国へ 「貯金なんて知らない(笑)」
――これまでのオタ活にいくら費やしたかとかって……。
え、全然わからない……でもちょっといい車買えるくらいの額は確実に使っていますね。年間100万円くらいはいってるかも。お金のかかり方、年々悪化してます(笑)。
――韓国に行くだけでもお金かかりますよね。
そうですね、多いときは3週連続で行ったりするので。今はフリーランスだから、スケジュールをある程度柔軟に調整できますが、会社員だった頃は土日しか休めなかったので、毎週末で細切れに行くしかなくて。時期によっては航空券も高いし、交通費がものすごくかかってました。
――お金を理由に「このイベントは行くのをやめよう」と思うことはないんですか?
航空券が往復10万円を超えるとさすがに考えますが……基本的にはないですね。イベントの重要性にもよりますけど、だいたい行きます。「貯金」とかもう、知らない(笑)。
――これまで韓国に行った回数は?
50回以上になります。
――そこまで好きなものがあるって、むしろうらやましくもあります。
よくそう言われますけど、なかなか大変ですよ。でも今が人生で一番楽しいですね。
――オタ活していて、どんな瞬間に幸せを感じますか?
この前、すごくうれしいことがあったんですよ。私がプレゼントした服を、推しが着てくれてたんです。
雑誌で推しのインタビュー記事を見てたら、「この服似合ってるなあ……って、私があげたやつじゃん!」と。
だいぶ前にあげたので、私自身忘れかけてたんですが、気づいた瞬間は沸きましたね。オタクやっててよかった! と思いました。
――プレゼントした洋服をメディア出演時に着てくれるとは……! プレゼントはよく渡しているんですか?
今の推しにはよく服をあげていますね。彼の顔にこの服を合わせたら最高! と思う服を選んでます。好みもしっかりリサーチして、ニーズに合わせたものを渡しているつもり。
「着てね」って言って着てもらってもおもしろくないので、いかに自発的に「着たい」と思ってもらえるものを選べるかが勝負です。
■自分のお金は、自分が気持ちよくなるために使いたい
――これ、すっごく気になるんですけど……「ファン」と「恋愛感情」は違うんですか?
うーん、私は違いますね。だって、付き合えないことはわかりきってますよね。大人だから(笑)。
――そこまで冷静なのに、お金をつぎ込んで尽くせるのはどうしてですか? 自分が応援すればするほど人気が出て、ライバルも増えちゃいますよね。
アイドルは絶対に「ありがとう」って言ってくれるじゃないですか、うわべでも。現実世界の男性に尽くしても、感謝されるとは限らない。アイドルのほうがコスパいいですよ(笑)。
だからなるべく、ファン(ライバル)が増えても昔からの恩を忘れない、ファンに感謝し続けてくれる子を選んで応援しているつもりです。
――大人だ……。
私は「恋人になりたい」じゃなくて、「特別なファンになりたい」んですよね。「ファン」でいいと思うんですよ。私が見ているのって、きれいな表面だけだから。
「本当は性格悪い」とか、別に知りたくない。きれいなところをきれいに応援して感謝される。それだけで十分なんです。そこはもう、割り切っています。
――お互いにとっていい関係性ですね。アイドルはお金をかけて応援してもらえるし、ファンは尽くしたぶんだけ「ありがとう」が返ってきて自己肯定感が上がる。
そうですね、自己肯定感を上げるためにオタ活をやってるのかもしれないです。
――オタクになってから、自分の中で変わったことってありますか?
いろんなことをためらわずにするようになりました。行動力がついたというか。
たとえば、ひとりで海外に行くなんて昔は考えられませんでした。推しを追いかけて韓国の地方を回ったりとか、今では当たり前のようにやっていますけど……。
未経験のことに対して「やってみよう、やりたい」と思えるようになりました。何かをひとつクリアするとまた新しい課題が現れて、またそこにチャレンジして……オタ活は日々のエネルギー源ですね。
――使っている金額はものすごいですが、そこに悲壮感はなく、むしろとてもポジティブですよね。
ポジティブなオタクってよく言われます(笑)。
たとえば、前の推し(BTS)につぎ込んだお金が惜しいかと聞かれたら、全然そんなことない。今の推しはAくんだけど、BTSのお金をAくんに回せたら……とは全然思わないですね。
そのときはそのときで、幸せだったはずだから。
すべては自分が楽しむためにやっているので。対応が悪い子を追っかけて落ち込んでいる友達を見ると、不思議なんですよね。なんで好きでやってるのにそんなに落ち込まないといけないんだろう? って。
私は、この子対応悪いなと思ったら、推すのをやめて潔く別の子を探します。自分のお金は、自分が気持ちよくなるために使いたいですからね。
Text/べっくやちひろ
Photo/高城つかさ
▼好きが高じて、韓流オタク仲間3名でK-POP追っかけ本を発売したmaoさん。初の著書はこちらです▼
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