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たった10秒、されど10秒。私が握手会を愛する理由

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CDを買い、時間をかけて会いに行っても、話せるのはたった一瞬。一見「コスパ悪すぎない?」と思われるアイドルの握手会。「10秒のため、準備に準備を重ねて臨む」というアイドルオタクのもぐもぐさんに、握手会へ行く理由を語っていただきました。

たった10秒、されど10秒。私が握手会を愛する理由

久しぶりに、好きなアイドルNMB48の握手会に行った。数カ月ぶりだ。
楽しかった。とっても楽しかった。まさに私の“偏愛”の震源地である。

握手会というワードは一般的になって久しいけれど、おそらく、この世界の結構な割合の人は「何がおもしろいのか全然わからん」と眉をひそめるんじゃないだろうか。
かくいう私もアイドルオタクになった当時はまさにそう思っていた。

「1000円(CD1枚の値段)でたった数秒でしょ?」
「……コスパ悪すぎない??」


AKB48や坂道グループの握手会の場合、CD1枚で約10秒、1対1の時間が与えられる。10秒ってほんのちょっとじゃん! と思うじゃないですか。それが、案外そんなことないんですよ!

試しに誰かと喋ってる時に測ってみてほしい。例えるなら「Twitterの140字って、フルに使えば意外にいろいろ書けるな」という感覚に近い。
漫然と流せばすぐ過ぎ去るが、真剣に挑めば2〜3往復はやりとりできるし、きちんと「会話」した感覚が与えられる程度の時間なのだ。

握手会の楽しみ方は人それぞれで、ただ好きな女の子に会えるだけでうれしいとか、応援の気持ちを直接言葉で伝えたいとかいろいろあると思う。私の場合は10秒というタイトな時間制限のある超ミニインタビューみたいな感覚でハマっていった。

「この雑誌のインタビュー、微妙に聞きたいこととズレてる!」
「こないだブログにあげてた写真のエピソードが知りたいな~」

なんていうのを直接本人に直撃できるのだ。
表に出ている情報と、自分だけが聞きえた情報を合わせて、ひとつの物語を編んでいくのはおもしろい。

アイドルとしての本分以外のことを聞けるのも好きだ。私はアニメや舞台も好きなのだが、趣味が合うメンバーとオタトークに花を咲かせるのはかなり楽しい。

渡辺麻友さんと宝塚の話をしたり(「まゆちゃん、宝塚の話していいですか?」「え! しよ! 何組が好き?」)、山本彩さんとBLの話をしたりしてきた(「さやかちゃん、◯◯先生の新刊読みました?」「読んだ! マジ最高すぎたよね!」)。

好きなものの話をすると、女の子たちの目がキラキラして、テンションが上がるのがよくわかる。アイドルとして登場する雑誌やテレビで趣味の話をすることはそんなにないわけで、こういう表情は握手会だから出会えるものだなと思う。

ステージの上で歌って踊る彼女たちは神々しく、もはや信仰の域なのだが、机を挟んでほんの数十センチ先にいるひとりの女の子として、親近感を感じられるのはそれはそれですごく楽しい。

数時間かけて目まぐるしく何百人のファンに対応する握手会は感情労働の極地だし、本人たちは本当にどんなにか大変だろうと思う。
そこに自分も加担している以上は同罪なのだが、せめて彼女たちに一方的にもてなされるだけでなくて、少しでも楽しんでおしゃべりしてもらうにはどうしたら……と思うと、たった10秒のトークスクリプトをめちゃくちゃ練り上げて挑むことになる。

“事故る”(うまく喋れずに失敗する)こともままあるが、「こういう聞き方はわかりにくいからやめよう」「詰め込みすぎて時間切れになった、次は気をつけよう」なんて、PDCAサイクルを超高速で回すことができて、上達の実感がある。


なんだか仕事の話みたいになってきたが、現に握手会に通いまくったおかげで、問いを答えやすい形にアレンジする能力と、10秒に言いたいことを要約する能力と、相手の返答をいくつか想定して、そのあとの会話分岐をシミュレーションする能力は確実に身についた。
仕事で初対面の人に会うとき、ヒアリングをするときなんかに結構生きている、気がする。


今は年に数回になってしまったけれど、一番多いときには月に2〜3度は全国の握手会に行っていた。
毎回CD10~20枚相当分の握手券を持っていたとして……年間数十万円は投じたことになる。
いやはや、存外大きな額だった。自分で計算してびっくりした。

逢瀬のあとに残るのは、CDの山だけだ。「コスパ悪すぎない?」と感じる人もいるだろう。
その気持ちは正直わかる。
自分ですら、しばらく握手会に行かないと「あれ、何が楽しかったんだっけ?」ってなりますから。

準備に準備を重ねて、ガッチリ噛み合った奇跡のような10秒は「うまくしゃべれたーー!!」という喜びでアドレナリンがドバドバ出まくるのだ。
だから、久しぶりに行くたびに「楽しかったな~」としみじみ思える。忘れていた喜びを思い出す。
そう思うと、握手会で買っているのは体験ですらなくて、一瞬の感情なんだろうな。

なんて書いてたら、早くまた行きたくなってきた。
今度は大好きなあの子たちと、何を話そうかな?

Text/もぐもぐ

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DRESS編集部

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