「台湾好きをつなげたい!」台湾を愛しすぎてるカノジョの想い
C-POP(チャイニーズポップ)300曲の歌詞を自力で翻訳、台湾の情報サイトを持ち出しで制作……と、台湾のために費やした時間・お金は数知れず。子どもが生まれてからも台湾愛を糧に精力的に活動を続ける、「Howto Taiwan」編集長の田中伶さんにインタビュー。
台湾のディープな魅力を、日本人視点で発信するウェブメディア「Howto Taiwan(ハウトゥータイワン)」。グルメ・カルチャー・エンタメ・ローカル旅などの旬の情報が、フォトジェニックな写真とともに紹介されています。
このサイトの特徴は、「台湾が好き!」がにじみ出るような強烈な熱量。編集長を務める田中伶さんに、偏愛する台湾との関わりを語っていただきました。
「Howto Taiwan」
■台湾留学でハマったC-POP 300曲を自力で翻訳!?
――そもそも、台湾と出会ったきっかけって。
大学時代に中国語を学んでいて、台湾に留学したことがあるんです。それをきっかけにめちゃくちゃハマっちゃって、結局、大学を休学して2年くらい台湾にいました。
――どういうところにハマったのでしょうか。
わたしが留学していたのは中部の台中だったんですけど、台湾人ってものすごく人情に厚くて、親切で。
普通なら留学生って、言葉の壁があるし、本当の意味で仲良くするのは難しいと思うんです。でも、台湾の人たちは全然そんなことなくて。「週末は何してるの? 用事ないんだったら、うちの実家に一緒に帰ろうよ」とか、「今夜、すごく仲のいい友達の集まりがあるから、伶を連れていきたいな」って。
――なかなかそこまでは踏み込めないですよね。
そうやって親しくしてくれたおかげで、中国語がしゃべれるようになった。そこにもすごく感謝してるんです。
――大学を卒業してからも、台湾に通っていたんですか?
実は留学から帰ってきたあとは、仕事で忙しくしていたのもあって、頭の片隅にずっと台湾のことはありながらも8年間くらい行かない時期があったんです。でも、留学時代にハマったC-POPだけはずっと追い続けていて……。
――C-POP?
チャイニーズポップです。日本ではあまり知られてないんですけど、たとえば周杰倫(ジェイ・チョウ)という歌手は、映画監督もプロデュースもマルチにこなすアジアのスーパースター。C-POPのマーケットは、中国大陸だけじゃなく実は世界中にあるんです。
――K-POPは知っているけど、C-POPは聴いたことがないかも……。
ですよね。で、「みんなにもっとC-POPを知ってほしい!」という思いから、中国語の歌詞を日本語に翻訳するブログを開設しました。台湾に行けてない間も、音楽だけはずっと追いかけていて。
歌詞の翻訳は合計300本くらい、誰に頼まれたわけでもないのにやっていたんですよね。そのブログは8年くらい続けました。
■「純粋に好きなものを、身銭を切ってでもやりたいだけ」
ただ、C-POPは日本ではまったく流行らなくて。興味がない人に「聴いて!」と伝えるだけじゃだめなんですよね。
同じC-POP好きな友達と「どうやったら皆に聴いてもらえるだろう?」と話し合っていたときに、まずは“台湾好き”層を広げるためのメディア「Howto Taiwan」を立ち上げようと思ったんです。
それから、ちょうどそのタイミングで、仕事で台湾に行くことになって。8年ぶりの台湾で「やっぱりいいな」と再度目覚めた感じですね。
――いろんなタイミングがぴたっとハマったんですね。
そうなんです。社会人になって広報として働く中で、「マスにどう届けるか」を勉強したこともすごく大きくて。
メディアとして怪しくなく、素直に愛をぶつけられるようなおしゃれなサイトをきちんと作れば、今までと違う台湾好きを集められるんじゃないのかなって思ったんです。
――“今までと違う台湾”とは?
当時は台湾といえば小籠包や九份、マッサージ……など、そのほとんどが年配の方をターゲットにしたものだったんですよね。もちろんこれらも台湾の魅力でもあると思うのですが……でもわたしたちが知ってる台湾とは、全然違う。
おしゃれなコーヒーのお店、フォトジェニックなスイーツ、ローカルな街並みの魅力。そういうものをもっとファッショナブルに伝えたいっていう気持ちとの掛け合わせで「Howto Taiwan」ができました。
――「Howto Taiwan」は、田中さんにとって「仕事」ですか? それとも「趣味」?
仕事と言えるかは微妙かも(笑)。もともとわたし含め3人で小さく始めて、最初はわたしがまったく別の仕事で稼いだお金を全部「Howto Taiwan」に投資する形でやってました。
――それ、すごい話ですね。持ち出しでメディアを運営するっていう。
旅行ついでに現地を取材しながら、細々と記事を作り続けました。
メンバーたちも同じ想いで、「最初から儲けに行こうぜ」じゃなくて「純粋に好きなものを、身銭を切ってでもやりたいだけ」っていうスタンスで、とにかくおもしろいものを作りたいという思いがありましたね。
――熱量がすごい。台湾には、これまで何回くらい行ったんですか?
20回くらいかな? 仕事を兼ねることもありますがほぼプライベートなので、渡航費用も基本は持ち出しですね。
――20回!
ただ、あんまりお金を使ったっていう感覚はないんです。日本と比べると物価も安いので。2泊3日で、飛行機代と宿泊費とお小遣い、全部含めても5万円くらいです。
――とすると、渡航費だけでも100万円以上……。
そっかあ、そうですね。でも、散財している感覚はあまりないかもしれないです。
お金以上に費やしているのが時間だと思います。C-POPの翻訳も、誰にも頼まれてないのに、ずーっとやっていましたし。
わたし、好きなものを人に伝えずにはいられない性格なんです。とにかくみんなに知ってほしい、聴いてほしいっていう気持ちで。むしろ、「仕事じゃなくてもやりたい」と思えることを見つけられてうれしいなと思っています。
■自分のため、誰かのために、台湾を愛する人たちをつなげたい
――偏愛の対象を持つことで、人生が豊かになるんですね。ところで田中さんは1歳半のお子さんがいらっしゃるそうですが、出産を経て台湾との関わりって変わりましたか?
子連れで行くと、まったく違う角度から台湾が見られて。また新しい台湾の魅力を知れたと思います。
――具体的には、どんなふうに変わりました?
純粋に皆さん、優しいんです。電車の中で席を譲ってくれたりとか、話しかけてくれたりとか。同じ年くらいの子どもを連れてるママさんとも交流できたりして、子ども同士が楽しそうに遊んでいたり、自分ひとりで行くのとは違う楽しみ方がある。
――子どもができるとどうしても、「好きなものから離れないといけない」空気があると思うんです。時間もお金も、ひとりのときみたいには費やせなくなる気がしますが、どうですか。
うーん、そうかなあ? あんまり変わらない気もします。
わたしの場合、台湾を訪れることだけが“関わり方”じゃないと思うんです。たとえば日本にある台湾料理屋さんを巡るとか、台湾料理を作るとか、カラオケでC-POPを歌うとか、グッズを買うとか、子どもと一緒でも、国内でもできることもたくさんある。
それから、いま4月に出版予定の“子連れ台湾旅行”の本を書いているんですけど、これも子どもがいなかったらできなかったことだと思うんです。
いまは「台湾×子連れ旅」だけど、そのうち「台湾×シニア」になるかもしれない。自分のライフステージによって関わり方は変わりながらも、なんらかの形で台湾にはずっと関わっていくだろうなと思ってます。
――ライフステージに合わせて、「好き」の形も変化していく。
台湾子連れ旅の本を出すために、いろんなママさんに声をかけて情報を集めたんです。そうしたら、ものすごくたくさんの人が協力してくれたんですよ。
そういうこともあって、最初は「台湾が好き」だったんですけど、最近は「台湾が好きな人が好き」になりつつあります。
――台湾というキーワードによって、好きな対象がさらに拡大しているんですね。
そうですね。わたしが今やっていることは、根底は全部「台湾好きをつなげたい」なんです。わたしたち世代の台湾好きがつながる場を作りたい。
台湾愛を語り合える友達がいなくて肩身の狭い思いをしているとか、カラオケでC-POPを歌えなくて悲しいとか、それを思いっきり発散できる場所。それは、自分のためでもあり、誰かのためでもあるんです。
――好きを突き詰めていくと、できることもどんどん広がっていきますね。
実は去年、台湾のすごく好きなアーティストの曲の日本語の対訳を頼まれたんです。8年間ひとりでひたすらにやっていたことが、初めて仕事になった瞬間です。
好きなことを突き詰めていけば、未来でつながる瞬間がきっとある。だからわたしは、自分の「好き」を世の中に発信し続けることが大切なのかなって思います。
Text/大泉りか
Photo/高城つかさ
HowtoTaiwan[台灣指南]|今よりもっと台湾が好きになるハウツーメディア
http://howto-taiwan.com/台湾をこよなく愛する日本人のキュレーターたちがお届けする、台湾をもっと楽しめるようになるためのハウツーメディアです。グルメ・カルチャー・エンタメ・ローカル旅など、最旬の情報をお届けします。
いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。