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10年で300万、300軒。私のスナック偏愛が止まらない理由

スナックを愛する女性「スナ女」の第一人者として、夜な夜なスナックに通いながら、スナックに関する連載やオフィスにスナック空間を取り入れるなど、スナックと何かを掛け合わせる新たな取り組みをしている五十嵐真由子さん。スナック探訪を始めて10年、スナックの魅力はどこにあるのか。スナック偏愛歴を綴っていただきました。

10年で300万、300軒。私のスナック偏愛が止まらない理由

ちょうど10年前。何の気なしに、私はとある温泉街のスナックを訪れました。それが、無類の「スナック女子(略してスナ女)」になるきっかけになるとは、そのときは夢にも思いませんでした。それから丸10年。今ではすっかり、スナックを偏愛する女性のひとりに。

暗闇に光る怪しげな看板、重厚な木の扉、そして中からかすかに聞こえる演歌の音色。それらは、当時の私にとって未知なものであり、また同時に、妖しい魅力を感じさせるものでもありました。冒険の入り口に立ったかのような気分を、今でもはっきりと覚えています。

「いらっしゃーい」。

酒焼けのしゃがれたママの声に迎えられ、カウンターに腰掛けた私は、たどたどしい姿で席につく。想像以上に広い店内には、赤いベルベットのソファに陣取る、地元の常連であろうおじさまたちがいました。

「お! 若いねーちゃんがひとりできたぞ!」

その雰囲気に気圧されていた私に対し、「どこから来たの?」「ひとりでスナックに来るなんて、悩みでもあるの?」と、すかさず気遣ってくれるママ。妙に濃い水割りとママの手料理ですぐほろ酔い気分になった私は、瞬く間に、その場を好きになっていることに気づきました(その理由は後述します)。

さらに、常連の方々と歌を歌い、酒を酌み交わすようになると、旨い店や絶景スポットなど、その土地に住んでいる人しか知らない有益な情報を惜しみなく教えてくれたのです。そのとき私は、久しぶりに他人の温かさに触れ、開放感と幸福感に包まれました。

そんなスナックデビューを経て、私は、スナックをこよなく愛するスナ女になったのです。

■巡ったスナックは300軒。600~700回の訪問で使ったお金は300万

スナックに通い始めて約10年。それこそ、全国津々浦々のスナックを訪れてきました。その数およそ300軒。同じ店に何度か通っていることも考えると、スナックへの訪問回数は600~700回くらいになるでしょうか。

1回の訪問で利用する金額は、平均すると4500円ほど。それが600~700回なので、これまでに270万~315万は使ってきたことになります。実に、約300万円の出費です。

お金を使っているから愛の深さが測れる、というわけではありません。ただ、それだけの出費に見合うだけのものを、私はスナックから得られていると考えています。その証拠に、私のスナック手帳には常に、行ってみたいお店の名前がズラリ。

これからも飽きることなく、新たなスナックを開拓していくつもりです。

■スナックの魅力は“ママ”にあり

そんなスナックの魅力は、一体どこにあるのでしょうか。

私はやはり、そこの主人である「ママ」あるいは「マスター」にあると思います。ママの人柄、ママの年齢、ママの特技によって、その店の雰囲気も接客も、そして通い詰める客層も変化する。そのため、スナックの個性はママの個性と言えるかもしれません。

聞き上手なママもいれば、話し上手なママもいる。場合によっては、「〇〇好きのみ入店可」という店もあります。だからこそ、自分の興味や関心に合わせて、いろいろなスナックを訪れる楽しみがあるというものです。

過去に私がお邪魔したスナックにも、特徴的なママがたくさんいました。

足を一歩踏み入れた瞬間、「入ってくるときは、お邪魔します、でしょ?」からはじまり、「ちょーすごい」「うけるー」と話す女性に対しては、「そういう言葉使う人は出て行ってもらうわよ」と説教が続くママ。しかし時間が経つと、親身になって女性たちの相談を受け止め、一緒に涙していました。

また、離婚歴をもつママが多いのも特徴です。個人的な感覚値として、9割ほどではないでしょうか。バツ3やバツ4も多いスナックのママは、人間関係に関する経験も豊富です。

とあるスナックでは、恋愛に傷ついた女性のみ「飲み放題・食べ放題」にし、手料理と的確なアドバイスでもてなしていました。圧巻だったのは会計後。店の外までお見送りするママが差し出す袋には、「笑顔があなたに幸せを運んでくるの。明日も笑顔でがんばって」というメッセージが添えられたおにぎりが。

そっと背中を押してくれるような、人情味あふれる接客。そのやさしさに触れると、こっちまでうれしくなる。通常のレストランや居酒屋では味わえない、そんな人情劇場が待っているのも、スナックならではの魅力です。

■より良いスナックやママに出会うために。10年で見出した方法

以前は、看板だけが唯一の情報源であったスナック。より良い店、ママに巡り合うために、10年間でさまざまな手段を見出してきました。

例えば、扉に貼られているシールやプレートから、どのような業態か、地域飲食店組合に入っているか、危ない人は来ないか、カードが使える店だと単価は高いのでは?(最近ではそんなことはありませんが)などをチェックします。

また、ダクトや換気扇の下でタバコか、手料理の匂いか、扉を5センチ程度開けてどんな客人がいるか、どの年代の歌が聞こえてくるのかなどもチェック。

地方に行った場合は、あえて日中にスナック街を歩き、外に出されている使用済みおしぼりで客の数、お酒の空き瓶から酒の種類なども確認したりします。このような目線で店の雰囲気が推測できます。

しかし、これまでのチェック項目ではママの人柄を知ることはできません。そのような場合はお店に電話します。直接話すことで、ママの人柄、女性客に対する対応、後ろから聞こえる店内の様子を知ることができるので非常に効率が良い。

その際は必ず「女性ひとりでも入って良いのか?」「料金はどのくらいか?」なども確認します。中には女性お断りのお店もあるので……。

■スナックに通って、私の人生はより豊かになった

そのように魅力が詰まったスナックも、今や、閉店が相次いでいます。その背景には、ママやマスターの高齢化や、東京オリンピックに向けた再開発など、さまざまな要因があります。

明るい兆しとしては、女性客が増えていることでしょうか。親身に話を聞いてくれるママやマスターの存在と、年齢や性別、役職などにとらわれることなく一体感が得られる空間が、癒しの場となっているのかもしれません。

たしかに、初めてのスナックに入るのは腰が引けるもの。しかし、重厚な扉の向こうには、精一杯のもてなしであなたを癒してくれるママと、楽しい時間を共有できる常連客がいます。事実私は、スナックに通うことで、人生がより豊かになったと感じています。

実りの多い人生を送るために。あなたもぜひ、「ただいま」と言えるようなスナックを見つけてみてはいかがでしょうか。

Text/五十嵐真由子

CM音楽制作会社、楽天を経て独立。Make.合同会社代表としてストーリーブランディングを手法としたPRコンサルティングを提案・提供している。プライベートでは、全国のスナックを巡り歩く「スナ女」として、連載やメディア出演を通したスナック女子認知拡大普及活動に取り組む。社内コミュニケーションに地域のスナックやオフィスにスナック空間を取り入れる「オフィススナック」の活動や、スナック初心者に向けた「スナック入門講座」、「スナック女子向けツアー」も精力的に行う。
http://makepr.pro/snack/

2月特集「身を焦がす偏愛」

DRESS編集部

いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。

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