六十代になって、びっくりするほどおしゃれが自由に、楽しくなった。
身体は枯れ、心身ともに余分なものが落ちたせいか、苦手だったスポーティなスタイルが心地よくなり、人生初の白い服にも挑戦した。
手に取るものすべてに発見があり、まさに未知との遭遇である。
(2ページより引用)
『白いシャツは、白髪になるまで待って』から楽しい歳の重ね方を知る
【積読を崩す夜】33回目では、『白いシャツは、白髪になるまで待って』(著:光野桃)ご紹介します。年齢を重ねるごとに、今まで着ていたものが似合わなくなる。その代わりに何を着たら良いのか、はたとわからなくなるときがあります。先を生きるおしゃれの先輩が、そんな迷いの乗り越え方を教えてくれます。
たとえぱ30歳や40歳。節目の年を迎えると、今までのおしゃれが、なんとなくしっくりこないということ、よくあります。
先を走る女性の先輩たちは、どんな風に折り合いをつけながら、毎日のファッションを楽しんでいるのでしょうか。
すべての女性がおしゃれに迷ったときに役に立つ80のヒントから、一部をご紹介します。
■できないことを許し、できることを楽しみ尽くす
著者は、第一線を走り続けたファッションエッセイストの第一人者。その著者は、60代になってから、おしゃれすることが自由で楽しくなったと冒頭から語っています。
20代・30代は人の目が気になり、40代・50代は身体と心、家族や仕事の変化に揺れた時期であったのだとか。しかし、今は台風が過ぎ去った後のように、晴れ晴れとした青空が自身の中に広がっているようだといいます。
しかし、歳を重ねることは、やはりいいことばかりではないようです。腕が上がらなくなったり、腰痛で颯爽と歩けなかったり……。
だからこそ、できないことはすぐに許して執着しない。逆に、できることは、とことん楽しみ尽くすことができるようになるのだといいます。意外なようですが、無駄なことに悩まない分、若いときよりもパワーがあるようです。
そして、著者はこんな風にいいます。若く見えることにしがみついているうちは、若者チームの最年長。それをきっぱり振り切ったら、大人チームの1年生になる。新しいスタートラインに立つ、心の切り替えが重要なようです。
大人のおしゃれのコツは、たとえば、デザインよりも質感を重視すること。似合うものがわからなくなったら、そんな風に発想を切り替えると良いのだとか。気に入った質感を肌に覚えさせて、肌が深く息づくのを感じるというおしゃれがあるようです。
表面的ではない、そんなファッションの楽しみ方は、まさに大人の特権であるといえるでしょう。
■白いシャツには「似合い時」がある
「白いシャツの似合う女」伝説がある。わたしが二十代の頃から今日にいたるまで、もう四十年くらい続いている根強いおしゃれ伝説だ(中略)
白シャツには「似合い時」があるように思う。コリッと骨っぽく、肩のラインにも肉を感じさせない若者か、余分な肉が削げ落ちて肌も枯れ、欲も見えも薄くなり、ゆったりと人生を楽しんでいる笑顔のきれいな老婦人か、そのどちらかがもっとも似合うのではないだろうか。
(22〜23ページより引用)
白いシャツは、どんなに時代が移り変わろうと、定番のおしゃれアイテムとしてあり続けるでしょう。
しかし、ベーシックであるがゆえに、生地の良さや着こなしが問われる難しいアイテムは、なかなかないと感じてしまうものです。
伝説化している理由として、実際に白いシャツが本当に似合っている人を、私たちはほとんど見たことがないからであると著者はいいます。
そして、この伝説には、「飾り立てないのにゴージャス」「マニッシュで粋である」というふたつの価値観が隠されていて、だからこそ日本人にとってのおしゃれコンプレックスになっているのではないかと著者。
白シャツには似合い時がある。白髪の女性が、明るくクリアな色のストールやアクセサリーとともに着こなす白シャツは、想像しただけで素敵。
白シャツが似合うその日を夢見て。歳を重ねるのが、なんだか楽しみになってきます。
■先の人生を思い描き、腕時計を買い換える
腕時計を買い換える。それは、これからの先の人生の在り方を思い描くこと。
若い頃のように、ファッション性やブランドだけで選ぶのではなく、これからどんな時間を送りたいか、をイメージする。時間を計るだけなら携帯でいいけれど、ある年齢になったら、腕時計はそのひとの人生観を表現するから。
(102ページより引用)
たとえば、「大きな仕事をなし終えたから、ご褒美に特別な時計を買おう」という発想は、ある程度おしゃれが好きな女性であれば、若い頃から持っているものでしょう。
しかし、年齢を重ねてきたら、腕時計を買い換えるということ自体がもう少し深く、異なる意味を持つようです。
それは、先の人生の在り方を思い描くということ。
別のページで著者は、ネイルについても言及しています。ネイルは奥が深く、手元を見れば、暮らしだけではなく、心の乱れもわかるといいます。たしかに、素敵な指先の大人の女性は、場の空気を左右する存在。
ネイルと同様に、どんな時計をつけているのかは、その人となりが何となくわかるものです。
手は人生の歴史を映すものであると著者はいいます。その手が生き生きと見えて、明るい未来が思い描けるような時計を、いつの日か身に着けてみたいものです。
著者 光野桃さんプロフィール
東京都生まれ。
小池一子氏に師事した後、女性誌編集者を経て、文筆活動を始める。1994年、デビュー作『おしゃれの視線』がベストセラーに。以後、ファッション、自然、身体を通して女の人生哲学を描く。