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松岡茉優「まだ思春期を抜けたばかり。でも、誰かのためにお芝居がしたい」

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カンヌから最高賞「パルム・ドール」を持ち帰ってきた映画『万引き家族』が、6月8日にいよいよ封切りとなった。家族の一員である亜紀を演じた、松岡茉優さんにインタビュー。

松岡茉優「まだ思春期を抜けたばかり。でも、誰かのためにお芝居がしたい」

目を細めてにっこりと笑う松岡茉優は、本当にさわやかだ。にじみでる気立てのよさは、大勢の人前でも、数人しかいない取材部屋でも、変わらない。

だから、ゲストとして招かれた映画論の講義で、自身をネガティブだと評したり「ねたみ・そねみばかりの時期もあった」と話すのが、とても意外だった。

子役からスタートしたキャリアは長いけれど、まだ23歳。どんなことを乗り越えながら、そのあたたかい微笑みを身につけてきたのだろうか。

■変化は、ちっとも怖くない。

『万引き家族』は、松岡にとって念願の仕事だったという。オーディションを受けては落ち、受けては落ち、を繰り返していた高校時代からずっと、いつかは是枝監督のもとでお芝居をしたいと願っていた。そんな現場で、彼女はいままでと違う“お芝居”に出会う。

「ちょっとでも作為的な演技をすると、監督からOKが出ないんです。私には『カメラがこう寄ってきたら、ここで視線を外す』みたいなマニュアルというか、お芝居のクセみたいなものがあって、いままではその経験則でクリアしてこれたんですけど……そういうのを全部なくして、私本体でその場にいなきゃだめで。だから撮影が進むにつれて、むき出しの卵みたいになっていく感覚がありました」

さまざまな仕事で培ってきたスキルが、役に立たない。これまでのすべてを手放して、レベル1からはじめる“お芝居”は、手強いけれど心地がよかった。彼女は現場を振り返って「本当に、息がしやすい場所」だと語る。

緻密につくりあげられる演技を脱いで“役のままに存在すること”。
新しいやり方に、戸惑いはなかったかを聞いてみた。

「私はまだ、一つひとつの作品で、いつも変化しているんです。どの現場でも、きっとワンカットずつ学びがある。だから、変わっていくことは怖くありません」

真剣な表情のまま、かすかに口角が上がる。

「いまの私がまだ思春期の延長で、多感な23歳だということも関係していると思います。生きるのがとても上手というわけではなさそうなので、考えなくてもいいことまで考えて悩んだり……そんな思春期が、私はちょっと長かったんですよね」

この1、2年でようやく思春期を抜けた気がする、という。すこしだけ昔を思い返すと、考えすぎている自分が恥ずかしい。でも、ある意味でほほ笑ましい時期を過ぎたいまは、どんどん肩の力が抜けていく。だから、変化はちっとも怖くない。

「この冬は、ずっと憧れていた是枝さんと三谷(幸喜)さんと、立て続けにお仕事ができたんです。10年間も思い焦がれていた方々とのお仕事が、たった4カ月に凝縮された、夢のような期間でした」

彼女はまだすこし、信じられないような面持ちで微笑む。
この4カ月間は、これからの自分にどんな変化をもたらすと思いますか?

「……いまはまだ渦中だけど、きっとこれから、自信が持てるようになるんだと思います。これまでは、自信なんて持ち方さえわからなかったけど、ようやくきっかけをつかめたかもしれません」

そんな彼女は、是枝監督に「20代で一番うまい女優」と言わしめた。

■どんな役もすべて、細胞は私。

いま、松岡は「人生のチャプター1が終わった」という。

現場で目の当たりにした、樹木希林や安藤サクラの芝居には、まだとても太刀打ちできない。だからこそ、チャプター2ではもっと自分を深めていきたいと思う。

「撮影をともにして、樹木さんやサクラさんの“女性としての豊かさ”を強く感じました。人としての年輪を重ねないと、あんなお芝居はできない」

そこで言葉を一度区切ったかと思うと、次は息もつかずに。
身体の奥のほうから言葉があふれ出たかのように、続ける。

「だって、いままで演じてきた役の誰一人として、“まったく私じゃない人”なんていないんです。役をつくるというよりも、自分のどこかを伸ばして、役に近づけていくような感覚なので。今回の亜紀ちゃんも、是枝さんが褒めてくれた『問題のあるレストラン』の千佳ちゃんも、『桐島、部活やめるってよ』のとっても意地悪な沙奈ちゃんも全員、私の一部。どんなに意地悪な子も、どんなにいい子も、細胞は私というか……私のどこかから出てくるんです。だからこそ、人間として成長していかないと、樹木さんやサクラさんみたいなステージにはたどりつけないと思いました」

数年前に出演した作品を見返して、みずからの演技に愕然とするときがある。「私はこんなに少ない選択肢でお芝居をしていたのか」と、役に申し訳なく思ったことも、一度や二度ではない。

でも、もう止まれないのだ。女優として成長するために、自分を豊かにしていくと決めた。

それが、たったひとりの心と身体で、多くの役に命を吹き込むということなのだろう。自分らしく生きることが、新たな表現へとつながっていく。

「いろいろなものや人と出会ったり、新しい価値観を知ったり、そうやってもらったエネルギーが私の糧となって、お芝居の選択肢を増やしてくれると思う。日々たくさんのことに感動して、もっと豊かな人間になっていきたいです」

■お芝居で、誰かに笑ってほしい。喜んでほしい。

生きるのがあまり上手ではないとか、ネガティブだとか言っていたのに、彼女は前に進むことばかり考えている。理由を尋ねると、一瞬考えて、ころんと笑った。

「……後ろを向くのって、楽しくないと思うんです。だから、できないことがあっても、それはそれ。また次に進まなくてはいけないんですよね。その先で、私にとっての是枝さんや樹木さんみたいに、誰かから『この方とお仕事がしたかった』って思ってもらえるような人になりたい」

誰かを嫉んだり、誰かに憧れたり。多感な思春期を経て、揺れ動きながら、松岡茉優は少しずつ歩みを重ねてきた。その根底にあるのは、誰かの心を動かしたいという気持ちだ。

「子どものとき、テレビの物真似をしていたら、家族や親戚が笑ってくれたんです。私がお芝居をし続けているのは、あの時間の延長線上。誰かに笑ってほしいし、喜んでほしいという気持ちだけ。自分がお芝居をしている快感とか、全然ないんです」

自分のお芝居を観た誰かから「学校に行こうと思いました」「友達をつくりたいって感じました」という手紙が届く。そんな反響が、なによりもうれしい。

「もちろん、お芝居をしていて楽しいときはいっぱいあります。でも、そういうことではないんです。自分の気持ちよさが目的になるくらいなら……潰れてしまえって思う」

まっすぐなまなざしでそう言った直後、みずからの考えを反芻したのか、言葉をつなげた。

「……でも、たとえばパンを好きな方が、パン屋さんで毎日楽しそうにパンを焼いていたら、それってすごく素敵ですよね。本人が気持ちよく作ったパンのほうが、おいしいかもしれない……ということは私も、楽しくお芝居できるなら、それでいいのかな。気持ちよくお芝居しているときのほうが、おいしいパンができるのかも……って、いま思いました」

自分が発する言葉の意味を、あらためてなぞりながら、考えを深めているようだった。

松岡茉優はこれから、どんな女優になっていくのだろう。まだ、決まった道も、定まったスタンスもない。変化をいとわずに進むし、自問自答をしながら、自分に合ったやり方を探していける。だからこそ彼女は、強い。

「これからもおいしいパン、つくります」というおちゃめな笑顔が、しばらく目の奥に焼きついていた。



Photo/池田博美

映画『万引き家族』 絶賛公開中
出演:リリー・フランキー 安藤サクラ 松岡茉優 池松荘亮 城桧吏 佐々木みゆ 緒形直人 森口瑤子 山田裕貴 片山萌美 / 柄本明 高良健吾 池脇千鶴 / 樹木希林
監督・脚本・編集:是枝裕和
音楽:細野晴臣(ビクターエンタテインメント)
配給:ギャガ
公式サイト:http://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku/

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菅原 さくら

1987年の早生まれ。ライター/編集者/雑誌「走るひと」副編集長。 パーソナルなインタビューや対談が得意です。ライフスタイル誌や女性誌、Webメディアいろいろ、 タイアップ記事、企業PR支援、キャッチコピーなど、さまざま...

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