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仕事が楽しい。でも出産のことも考えなきゃ。ひとりの女性が抱えた葛藤と衝撃

子どもを理由に、これまで積み重ねてきた自分の仕事を中断したくない――これは、多くの人が抱える気持ちではないでしょうか。

仕事が楽しい。でも出産のことも考えなきゃ。ひとりの女性が抱えた葛藤と衝撃

女性のライフスタイルが多様化している現在、誰もが「子どもが欲しい」と思うわけではないし、「産まなければならない」というわけでもありません。

どの生き方を選んで、今の自分があるのか。

かつては「子どもは産まない」と考えていた宮沢香里(以下、宮沢さん)さん。今は1歳になる男の子のお母さんです。

自分の人生において“仕事”が楽しくて仕方がなかった宮沢さんが、キャリアの中断にもなってしまう妊娠・出産、そして子育てをしている現在に至るまで、どのような思考の変化があったのか、そしてどのような選択をしてきたのか聞いてみました。

■「夫婦で最低限のことはしよう」から始まった子作り

――お子さんは結婚した当初から欲しかったのでしょうか。


今と同じように、当時もフリーランスで仕事をしていたのですが、軌道にのってきて、仕事も自分でコントロールできるようになりつつあった時期で。子どもは、あまり欲しいとは思っていなかったですね。妊娠・出産によってキャリアが分断されるのも怖かったですし。


――今は、1歳のお子さんを育ててらっしゃいますよね。子どもを産もう、という気持ちになったのは何かきっかけがあったのでしょうか。


「よし、じゃあ子どもを作ろう!」と決心したわけではありませんでした。

私の中では友達がどんどん出産していくことで自分のコンプレックスが募ったりとか、あとは年齢的な問題というのもあったのかな……。何もしないまま、女性の機能として産めなくなるときを迎えたらやっぱり後悔をするんじゃないかとか、思ったので、最低限のことをしよう、という話を夫としたんです。


――パートナーの方が、子どもがほしいということは……。


夫のほうには特に焦りもなかったみたいです。

友人に子どもが産まれてもそんなに影響を受けることもありませんでした。だから、私に付き合ってくれるっていう感じでしたね。「最低限のチャレンジはしないと後悔するね」ということで、ゆるく子作りに取り組んでいて。できなかったら無理はしないというところだけは、お互いの中で意見が合致していました。

■実際に妊娠したときには「幸せ」よりも「衝撃」

――「ゆるく」ということは、実際に子どもができたとわかったとき、多少は動揺もあったのではないでしょうか?


そうですね。検査薬で検査して陽性反応がでたんですけど、それをみたときの自分の気持ちっていうのが「マジか……」っていう。衝撃を受けて、「わーやばいぞ」って。


――そこには、想像をしていなかった気持ちが生まれたんですね。


とにかく、びっくりしたんです。
心のどこかで、子どもはできないだろうと思っていたんです。生理がくるたびにがっかりはしていたんですけど、いざ陽性って出たときに、えーっ! って。

検査をしたときは夫もいたので報告したら、彼もまず顔面が蒼白になりました。ふたりで途方に暮れていましたね。


――「幸せ」ではなく「衝撃」だった。その気持ちは、その後どのように変わっていったのでしょうか?


変わっていきませんでしたね。「子どもを産む」ということを、全然ポジティブに捉えられませんでした。

夫と途方に暮れたあとには、怒りのようなものが自分の中から湧き上がってきたんです。


――怒り……ですか?


そのころ、仕事は楽しかったし、心地よく仕事ができていたから、これでキャリアが分断されるのかっていう怒りだったんだと思います。号泣しましたね。

それで、自分たちで子どもを授かっておいて、なにを言ってんだって話なんですけど、夫に向かって「絶対、子どもに自分のキャリアを邪魔なんてさせないから」って宣言していました。

――子どものことを考えたきっかけが、周囲からのプレッシャーだったり、子どものいる友人との関係の中で生まれたコンプレックスだったりしたことも大きいとは思います。ただ、その気持ちはおなかの中で赤ちゃんが成長してきても変わらず?


妊娠しておなかが大きくなったら、母性って自然と湧いてくるのかな、って思っていたんですけど、全然そういうことはありませんでした。

おまけに、もともとメンタルで通院をしていたんですけど、本当に不安が大きくなりすぎて、入院しちゃったんです。

とにかく妊娠期間中って辛い記憶しかないんですね。楽しみだから、とかではなく、体が辛いから早く産んでしまいたい。自分が楽になりたいから、早く出産したい、そういう気持ちで過ごしていました。まったくネガティブな妊娠生活でしたね。


――心境は変わらず地続きのままだったんですね。


そうですね。産むしかなくなって。産んだら育てるしかなくなったので育てている、という感じです。子どもはかわいいですけど、産んだからと言って、なにもかもがハッピーな子育てライフが始まるわけでもないですし。

■子どもが産まれてから変わった仕事への関わり方

――では、今の子どもがいる生活の中で楽しいことってなんでしょう?


子どもが日々成長すること、っていうのがたぶん正しい答えなのかなって思ったんですけど……もしそれがあるとするなら私にとっては2番目で、1番目はやっぱり仕事ができることですね。


――逆に辛いな、と思うことはなんでしょうか。


子どもの病気ですかね。やっぱり仕事が一番のベースになっているので、それを妨げるものが不安材料というか。自分の手元にある仕事を考えて、子どもを保育園に預けられないとなったら、じゃあどういうスケジュールを立てようか、とか。そういうことで煩わされるのが辛いです。


――出産前と比べて、仕事に対する姿勢はどのように変わりましたか?


以前はできるだけ仕事をやりたい、すごいハングリー精神を持っていました。でも、今は、子どもの世話があるので、ある程度はやっぱり抑えなきゃいけないな、という諦めを持っています。

仕事ができる時間がびっくりするほど少なくなったので、やっぱりそれを自分で把握したうえで仕事を受けないと、どこかで破綻することはわかっていますし、子どもを犠牲にすることはできないので。

あとは子どもが生まれるまでは考える時間がいっぱいあって、そのせいか多くのことに心がとらわれて、悩んだり、イライラしたり、喜んだり、感受性がとても豊かだったと思います。


――今はそんな自分を受けいれていらっしゃる?


欲が少し減ったことと、ほぼ二年間キャリアに空白ができたので、今は「久々にシャバにでてきた」みたいな感覚があるんですよ。意識的に、業界の情報はシャットアウトしていましたし。

でも、また仕事の場に戻ってきてみて、今は若い世代がすごく勢いがあるんだな、というのを実感しています。今の人たちは自分からどんどん行動して、発信していくっていうのが主流なんですよね。

でも今の私にはその時間もないし、気力もないので、自分の個性で勝負したいというよりは、期待されたことに対して最大限の結果を出すことに注力していったほうがいいんじゃないかな、と思っています。

■子どもが産まれてからは夫婦の関係がうまくいかなくなった……だけど今は希望が持てる

――これから子どもやパートナーの方との関わり方をどのように考えていますか?


子どもがいる・いないに関わらず、一番大事なのは夫婦の関係が円滑であることじゃないかって私は思っていたんです。だけど、出産してから夫との関係がうまくいかなくなったんですよ。


――子どもができた途端にパートナーが変わってしまった?


夫の“すごく心配症で怖がり”っていう部分がものすごく顕著にでたんです。私はわりとずぼらで楽観的で適当。

とにかく子どもの「安全面」と「衛生面」の意識の違いが顕著に出て、ぶつかることが増えました。子どもが生まれてからつい最近まで夫婦仲が悪くて、離婚も考えたぐらい。

子どもが少しずつ成長することで、「何をやっても危ない」とか、「何をやっても清潔にしなきゃいない」っていう時期は過ぎていくじゃないですか。
おかげで夫の意識も少しずつ下がって、夫婦の関係もちょっとずつよくなっているのが本当によかったな、と思っています。このまま昔みたいに夫婦ふたりで仲が良かったころのように、そこに子どもがいるみたいな感じでやっていければいいかな、って思いますね。

(編集後記)

宮沢さんのお話は、働く女性が多かれ少なかれ考えていることではないか、という印象を受けた。

そんな気持ちの中で「子どもを持たないこと=コンプレックス」と感じていた宮沢さん。

「今の自分がコンプレックスを持っていたころの自分になにかアドバイス的なものをするとしたら『人をうらやましいとか、外的な要因を受けて作って育てられるほど、子どもって簡単なものじゃないから』って言うと思います」

彼女は戸惑うように微笑みながら、こう言った。

少しの反省とともに、彼女は自分の人生に責任をもって生きていく。

5月特集「人それぞれな子どもの話」では、子どものことをどのように考えているのか、女性たちのリアルな話を、その人自身の声で話していきます。

5月大特集「人それぞれな子どもの話」

https://p-dress.jp/articles/6759

5月特集は「人それぞれな子どもの話」。「子どもを持つ・持たない」について、現代にはさまざまな選択肢があります。子どもを持つ生き方も、持たない生き方も、それぞれに幸せなこと、大変なことがあり、どちらも尊重されるべきもの。なかなか知り得ない、自分とは異なる人生を送る人のリアルを知ってほしい。編集部一同そう願っています。

ふくだ りょうこ

シナリオライター。1982生まれ、大阪府出身。大学卒業後、2006年よりライターとして活動を始める。現在は胃が虚弱な痩せ型男性と暮らしながらラブストーリーについて考える日々。焼き鳥とハイボールと小説、好きなアイドルのライブに...

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