コンプレックスは隠さず、笑いに昇華するのも“芸風”です【主婦ブロガーこだまさん】
私小説『夫のちんぽが入らない』で鮮烈なデビューを飾った主婦ブロガーのこだまさんが、新作『ここは、おしまいの地』を上梓。自身が“おしまいの地”と呼ぶ集落に生まれ育ったこだまさんに、田舎やコンプレックスをテーマにお話を伺いました。
2017年1月、実話を元にした私小説『夫のちんぽが入らない』(扶桑社)を出版し、その衝撃的なタイトルと繊細な文章で話題を集めた主婦ブロガーのこだまさん。2018年1月25日には2作目となる『ここは、おしまいの地』(太田出版)を上梓しました。
これは、『Quick Japan』での連載「Orphans」に大幅な加筆修正を加えた作品。育った集落や家族、親族との素朴な出来事を綴ったユニークなエッセイとなっています。今回はこだまさんに、新刊について田舎やコンプレックスをテーマに語ってもらいました。
■インターネットのおかげで人生が変わった
――前作の『夫のちんぽが入らない』はとても大きな反響がありました。今回は身近な体験を綴ったエッセイで。生み出す際、ギャップなどはありましたか?
いえ、どちらかと言うと前作の方が自分にとってやったことのない、「私小説」でした。だから、今回の方が今までずっとやってきたブログをちょっとよそ行き風に書いたことに近いというか。『Quick Japan』では、特に詳細なテーマを言われなかったので私の方で題材を上げて、自分のペースで書きやすいテーマを書かせていただきました。
――自分の家族や集落のことを書くのは、人によっては抵抗があると思います。こだまさんは作家活動を家族に秘密にしていらっしゃいますし、このテーマで書くことに勇気がいったのではないでしょうか。
これ、あまりフェイクなども入れずに丸出しで書いていますね(笑)。だから、周りの人に「大丈夫なの?」と心配されるのですが、家族自体が本を読みませんし、集落自体に本屋がありません。文芸に本当に疎い地域なので、バレることはないかなぁと。
――そんな環境の中、なぜこだまさんは文化的なものに興味を持つに至ったんですか?
小さい頃から友達があまりいなかったので、よく本を読んでいました。でも、それより日記ばかり書いていましたね。別に、作家になりたいとは思ったことはありませんでした。田舎なので、そういう活動は東京じゃないとできないと思っていましたし。ただ、自分のためだけに書いていました。
周りはヤンキーしかいないような集落だったので、私のように本を読んでいる子=暗い子と思われていました。インターネットが普及してからは、全然知らない方に読んでいただけて、そこから同人誌に書くようになり、Twitterで広まっていった感じです。
――こだまさんにとっては、インターネットが救いだったと。
そうですね。もともと、『ネット大喜利』というすごくマイナーな投稿サイトがあり、投稿していたんです。そこに投稿していたメンバーとは、ネット上でハンドルネームだけ知っている程度のつながりでしたが、彼らと一緒に「文学フリマ」で同人誌を出しました。
田舎の人の方が、おそらくガンガンネットに書き込んで発散している気がします。私はネットがなければ人と関わらず、家からも出ず、夫だけが話し相手だったと思います。だから、ネットのおかげで人生がガラリと変わりました。
■集落から飛び出したとき、自分の無知さや学力の低さに気づいて恥ずかしかった
――こだまさんにとって集落はどのような存在でしたか?
住んでいるときは何もない地域だなと自分でもわかっていました。周りはその地域から出ていくこともなく、地元にいついて「マイルドヤンキー」になるような人が多かったです。私は進学することだけは決めていたので、地方の大学に行って、変わろうと思っていました。
――田舎の「ヤバさ」というのは、一度外に出てみないとわからないこともあります。集落から大学進学のためにちょっとした都会に出て、どこに一番落差を感じましたか?
私が通っていた高校はすごく頭の悪い学校だったので、その中で私はまあまあ勉強ができる方だったんです。そして、地方のまあまあレベルは高くない大学に進学したので、みんなそこまで勉強はできないのではないかと思っていたら、全員が私以上に勉強ができたんです。まず、学力の壁にぶち当たりました。私が一番底辺なんだと気づいて……。
また、私よりも田舎から出てきている人もいませんでした。その地域の名前を出せばバカにされるような地域だったので、大学の人から「あんなところから出てきたの!?」と言われてさらに自分の集落の田舎具合に気づくというか。
住んでいるときも田舎すぎてヤバイなと思っていたのですが、出てさらにカルチャーショックを受けました。みんなは音楽や文学に、レベルの低い大学なりに詳しいんです。でも、私は何も知らなくて恥ずかしかったです。
■シミやホクロをレーザー除去しても、コンプレックスはいつまでも残る
――タイトルには「おしまいの地」と表現されていますが、この「おしまい」に込められた意味は何でしょう。
住んでいるときは諦めて暮らしていました。この地域にいても先が見えてしまっているので、平凡に過ぎていくのだろうと考えていて。でも、離れてみて今、この歳になると「別にここでも大丈夫じゃないか」と思えてきました。
――ということは、今は集落が好きですか?
今は、集落の何もない部分や世間とのズレに面白みを感じるようになり、愛着が湧いています。
――本の中の「川本、またお前か」の章では小学生時代、生まれつきこだまさんの顔にあった痣や首の後ろにあったホクロをクラスメイトの「川本」に「うんこ」とからかわれたことが書かれてあります。男の子って本当にひどいですよね。
これ、書いていながら当時の先生はスルーしていたんだなと気づきました。
――私も子どもの頃、手足が毛深くて男子にひどいあだ名をつけられました。大人になってからはレーザー脱毛をして毛に悩まされることはなくなりました。これは、こだまさんが痣やホクロをレーザーで除去したときの気持ちと同じだなと思いました。
男の子はあだ名をつけるんですよね(笑)。毛は女の子にとって大打撃です。でも、レーザー治療などで毛やシミ、ホクロなどをとってもらえればコンプレックスがなくなるのかと思いきや、まだ引きずっています。今回はすごく短く書いたんですけど、川本君との思い出だけで1冊の本にしてもいいというくらい、良くも悪くも強烈な出来事です。
――最後に、田舎コンプレックスを持っている方にアドバイスがあればお願いします。
こ:そのコンプレックスを面白がって笑ってくれる人たちもいるので、隠す必要はないのではないかなと思います。でも、コンプレックスはコンプレックスなんですよね。自分としては恥ずかしいことですが、笑い話として昇華して、自分は人の知らない情報を持っているんだという、田舎特有のネタにするのもアリかなと思います。
こだまさんプロフィール
おしまいの地に住む主婦。2017年1月、実話を元にした私小説『夫のちんぽが入らない』でデビュー。累計発行部数は13万部(2017年12月現在)。『ブログ大賞2017』エッセイ・ノンフィクション部門ノミネート。『Yahoo!検索対象2017』小説部門賞を受賞。2018年、映像作品とマンガで展開予定。2作目は自伝的エッセイ『ここは、おしまいの地』(太田出版)。現在、『Quick Japan』と『週刊SPA!』で連載中。
Text/姫野ケイ
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