ともだち

40代になって友達と会って話すことが楽しくなってきた。人と会うのが楽しくなって、夫の話が面白いことを再発見した。

ともだち

結婚して子どもが出来てから、友達が減った。それで何も困らなかった。夜はあまり出かけられないし、出かけたいとも思わない。子どもたちを寝かせたら家事、それから夫といろんな話をして寝る。それが何よりの寛ぎだったし、楽しかったから。

一家でオーストラリアに引っ越したいまは、私は月の半分は東京で一人暮らしだ。子どもとは朝晩FaceTimeでお喋りするから淋しくない。でも当然、一人の時間が増えた。

このごろ、もう長い付き合いになる数少ない友人たちや、仕事で知り合った気の合う仲間たちが声をかけてくれるようになった。
みんな、これまで遠慮していたのだ。ママなんだから忙しいよね、って。

正直言って、誘われても会うのがしんどい時期もあったのだ。30代、それぞれの人生が大きく変わって行く10年。みんな、うまくいくときもそうでないときもあるし、自分の選択が正しかったのか不安になるときもある。そういうときに集まると、比べっこになったり詮索し合いになったり、なんだか疲れることが多かった。相手が女でも男でも、同じこと。

ところがいまは楽しい。40代になったこともあってか、比べっこよりも笑い話が増えたし、おのおの諦めのついたことも多い。話していると発見がある。何より、なんだか励まされて、よし私も頑張って働くぞ! って気になるのだ。

仕事で知り合った人ともご飯を食べに行く機会が増えた。30代で場数を踏んでいないから、私はレストランをよく知らない。東京っていろんなお店があるんだなあ……と夜の街並を新鮮な気持ちで歩く。

仕事場でないところでゆっくり話すと、改めて自分の至らなさを知ったり、仕事のヒントもいっぱいある。人と会うって、楽しいことだったんだ。

毎日、帰宅すると夫とFaceTimeで、今日あったことを話す。こんなこと考えたよ、あれはどうしたらいいだろう?
何でも夫と話すのは以前と変わらないけど、殆ど夫とだけの人間関係を生きていたころよりも、友達と会うようになったいまの方が、夫の話が素直に聞ける。

あれ? 彼ってこんな面白い人だったんだ……。彼の視点は、ハッとするほど示唆に満ちている。えー? 大好きだけど、今までわりと平凡な人かと思ってたよ!

ほんとに失礼な話だが、私は夫に対して多大なる感謝を感じつつも、話が面白いと思ったことはそれほどなかった。面白くなくてもいいと思っていた。一緒にいて穏やかな気持ちになれればいい。

でも彼は多分ずっと、面白い人だったのだ。

私がそれに気がついていなかったのは、彼がそばにいるのが当たり前の毎日で、彼としか話さなくなっていたから。
月の半分は彼と離れて、いろんな人と会うようになったら、彼の面白さが分かった。

距離を置く、って言うと穏やかならざる感じがするけど、こうして出稼ぎ生活でやむを得ず距離が出来てみると、関係の視野が広がった。

スナフキンの言ってたことはほんとだね。
旅に出るとムーミン谷の素晴らしさが分かる だから行くんだ って。
 

小島 慶子

タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族と暮らすオーストラリアと仕事のある日本を往復する生活。小説『わたしの神様』が文庫化。3人の働く女たち。人気者も、デキる女も、幸せママも、女であることすら、目指せば全部しんどくなる...

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