介護中、義母を「愛おしい」と感じました【さとういもこ】
介護について考え始める人も増えるDRESS世代。既に介護を経験している女性のリアルな声を聞いてみませんか。今回登場するのは、ブログ『さとうさんちの介護な日々』で義母・サトコさん(故人)について綴っていたイラストレーターのさとういもこさん。サトコさんを介護した日々を振り返っていただきました。
「義母を介護する生活にようやく慣れてきたと思ったら、妊娠がわかりました。でも、はじめは内緒にしていたんです」。そう語るのは、イラストレーターのさとういもこさん。
のちに介護&育児のダブルケアに突入する彼女が、ブログ『さとうさんちの介護な日々』を更新しながら、妊娠中からどのように義母の生活を支えてきたのか。さとうさんにお話を伺いました。
■取り繕ったらダメ。心の内を正直に書かないと
――ブログを拝見させていただきました。さとうさんはイラストレーターをされていますが、ブログでは主に漫画で描かれています。なぜ漫画で描いたのですか?
初めは漫画というより日記といった感じで、絵を交えてメモしていたんです。同居する義母・サトコ(以下サトコ)の介護はしんどさもあるけれど、ユーモラスな行動や出来事もある。ある日、ノートに漫画で彼女の様子をササッと描いてみたんです。描きながら「うふふ」と笑ってしまって。
客観的にサトコの様子を見てみると、面白いだけではなく、しんどさを笑いに昇華させることができ、描くことでなんだか気持ちがすっとしました。それから大変なことがあっても、「漫画のネタができたぞ!」という気持ちになり、大変さから気持ちを切り替えることができるようになりました。
ブログという形をとったのはたまたまで、エッセイ漫画の賞に応募したこともあったんです。いくつか描きためたものを発表したい気持ちが大きくなり、『さとうさんちの介護な日々』を2015年2月15日にスタートさせました。
漫画は趣味程度でしか描いたことがなかったのですが、もともと私の絵自体、漫画との相性が良かったのだと思います。また仕事で、漫画のように吹き出しをつけたイラストを描いていたこともあって、その延長と思って始めました。
――ブログで同居のお姑さんを「サトコ」と親しみを込めて呼ぶ姿が印象的です。お義母さんについて教えてください。
「親しみ」というよりも、いちキャラクターとして客観視するためにブログ内ではそう呼称していますが、普段は「お義母さん」呼びですよ(笑)。サトコとの同居は結婚当初からです。2011年頃からサトコが肺炎、腎盂炎、リウマチと、次々に病気にかかり、入退院を繰り返すようになりました。
2012年に自動ドアに挟まれ転倒し、大腿骨を骨折したことから手術を含め4カ月入院しました。この入院中に物忘れが始まったのですが、病院の先生の診断は認知症ではなく「せん妄(*1)」でした。実は認知症と診断されたのは、今年の2月になってからで、それまでは病気ではなく、加齢による物忘れの範囲内だと思っていました。
物忘れ外来などの専門医に診てもらおうかと何度も悩んだことがありました。でも、認知症という病気のお墨付きをもらったとしても、彼女の飲むお薬が増えたり、通院に付きそう家族の負担が増えたりすることは、サトコのQOL(*2)の向上にはつながらない気がして踏み切れませんでした。
出かけることが好きな人ではありませんでしたし、家族が彼女の生活をフォローしていれば、生活に支障のない程度でしたので、今もその判断を後悔していません。
*1 病気や薬、環境の変化などの影響で意識障害が起こり、混乱した状態になること。時間や場所がわからなくなる、幻覚を見る、興奮するなどの精神症状が出ることもある。
*2 クオリティーオブライフの略。医療や福祉の分野で重視されている、人々の生活を物質的な面から、数量的にだけとられるのではなく、精神的な豊かさや満足度も含めて、質的にとらえる考え方。生活の質、人生の質などとも訳される。
――ブログで介護漫画を描く際、実のお母さんではないので、彼女のことを良く描かなくてはと思いませんでしたか? その後、ブログを始めて3〜4カ月経った頃から、だんだん内容がぶっちゃけて面白くなっていきます。それはどうしてですか?
実在の人物を描く以上、彼女の尊厳を脅かすようなことは描かないよう心がけています。良く見せなくては……という気持ちは多少あったかもしれません。今でもブログ読者のヒントになること、タメになることを書かなくてはという思いはありますが、心の内をぶっちゃけると読者からの反応が良いことがわかったんです。
サトコの行動や出来事を綴るだけではなく、自分の心の中にあるものをブログにもっと出さなくてはと考えるようになりました。私が付き添っていたにもかかわらず、義母が自動ドアに挟まれて転倒してしまったこと、それが原因で長期入院したこと、その際の複雑な気持ちを記事にしたことがありました。
自分の中でまだ整理しきれていないものを人目に触れさせるのは少し怖い気もしたのですが、読者の方からのレスポンスもあって、勇気づけられました。そこから、心の折り合いのついてないことでも、ブログに投げかけて大丈夫なんだと思えるようになったと思います。
■「かわいいおばあちゃんだな」 介護しながら義母を愛しく思えた理由
――ご自身の妊娠に気づかれるのはいつごろですか?
2015年7月です。妊娠を希望していてもなかなか恵まれませんでした。高齢出産でリスクも多く、万一のことがあってもガッカリさせたくないという気持ちがあって、サトコにはしばらく内緒にしていました。
なので、それまで通りサトコのお世話や通院の付き添いはしていましたが、お腹が大きくなってくると、重いものを持ったり、しゃがんだり、できない動作が出てきます。例えば、靴下を履かせてあげたり、寝ているのを起こしたり。お手伝いがキツくなってからは、夫に任せることが多くなりましたね。
――旦那さんは介護を一緒にしてくださる方だったんですね?
一緒に……一緒にしない方が不思議なんですが、一般的にはどうなんですかね? 夫は自分の父を先に亡くしています。そのときに父親を一番支えていたのも自分だった、と夫は話していました。世話好きな面もあり、介護でも育児でも「えっ、そんなことまでしてくれるの?」というくらい積極的です。この人と結婚してよかった! って何度も思ってしまいますね(笑)。
我が家は自宅で自営業をしていて、サトコと夫のサトシは親子でもあり、仕事仲間でもありました。仕事のことではよく意見が分かれ、家庭内でも険悪なムードを引きずることがあったような気がします。ですが、サトコの具合が悪くなり仕事に関わらなくなると、そういった喧嘩も自然になくなっていきました。
サトコが要介護状態になったことで普通の親子関係を取り戻せたんじゃないかと思います。家庭内の不協和音が減ったので、結果的には良かったことですね。私も家の仕事を手伝うことがあるので、サトコのことは上司であり仕事仲間、尊敬しなければ、立てなければと思っていたのですが、彼女にとってはそれが距離を感じるというか、居心地の悪さもあったんじゃないでしょうか。そういった関係が解消された時、かわいいおばあちゃんだなと思えるようになりました。
――どうしてそう思うようになったのですか?
サトコは背が小さくて、138センチしかないんです。横に並んで手をつなぐと、子どもと手をつないでいるような格好になります。まだその頃は子どもがいなかったせいか、私の母性の行き場と言いますか、手をつないで見下ろしていると、育児を疑似体験しているような錯覚に陥ることがありました。
枕草子の「ちひさきものはみなうつくし」ではありませんが、サトコと手をつないでいると、自然と「かわいい!」という気持ちが湧いてくるんです。彼女の性格や見た目に助けられた部分も大きいと思います。「かわいいは正義」ですね(笑)。
あと、スキンシップって大切だなあと思わされたことも多かったです。サトコがデイサービスに行かない日は、私も裸になって彼女をお風呂に入れることがありました。「裸の付き合い」じゃないですが、実際に体験してみると、こんなに簡単なことで心が通うのかと。着替えさせたり、手を握ったり、そういう毎日の積み重ねが愛着を生み、放っておけない存在へと変えてくれたのだろうと思います。
■介護を続けるうちに、周囲からの信頼が厚くなった
――サトコさんを愛しく思えるようになったのに、2015年11月18日のブログに「めんどくせえなあ〜」と書いてありますね(笑)。
あはははは(笑)。介護って、めんどうくさいこと多いですよね? やってみてわかったのですが、子育てにおいて、子を愛しいと思う気持ちと、育児中に感じる息苦しさは別のものだと思うんです。介護でも対象者を愛しいと思う気持ちと介護中のめんどうくささは別物ですよ。
――どんなことがめんどうくさいですか?
自分のペースで物事が進まないことですかね。デイサービスや病院に出かける前など、ご飯を食べて、薬を飲んで、トイレに行って……と時間を見積もって、30分くらいで済むと思いきや、絶対に終わらない。出かけるまで時間を逆算して声をかけても、その通りにいかないことが多くてイライラしていました。
でも今、子育てをしてみるとそんなことばかりで、時間通りにいくことなんてないんです。でも、当時の私にはわからなかった。自分勝手に人を動かそうとしていたんだなって今では思います。そのイラつきの原因が自分の未熟さにあるってことも。
――2015年には、お義母さんを動かすのは大変とおっしゃっていましたが、今年2月に寄稿されたウェブサイト「りっすん」での原稿では、「義母のことに時間を使うのは、結局『自分のため』になる」と書かれています。なぜ、そんなに達観できたのですか?
達観はできていないですね(笑)。サトコが元気ですごすことがわたしの利益につながる、という極めて利己的な理由です。同じ家で暮らす家族ですから、元気な方がいいじゃないですか! そのための手間はなるべく惜しまないようにしたいな、という主旨の寄稿をさせていただきました。
ただ、介護を通してトクしたなと思うこともあって(笑)、サトコの介護をする私の姿を、家業の取引先の方やお客さんが褒めてくださるようになって。なんと言うか、周りの人たちからの信頼がすごく厚くなっていきました。夫からも当のサトコからも信頼され、頼りにされているのが実感できましたし、家庭内での居心地が良くなりました。
――介護をすることで自分の信用が付いてきたというのは、面白い考えですね。
仕事は仕事、介護は介護ではなく、介護込みの私を周りの人がちゃんと見ていてくれましたね。私の仕事の方もお世話や病院通いに応じて都合を付けてもらえたり。変な言い方ですけど、サトコの介護をすることで私の株が上がったぞ! という感じです(笑)。
(後編へつづく)
さとういもこさんプロフィール
イラストレーター。義母の介護と子育ての漫画を描いたブログが注目を集める。
http://satouimoko.hatenablog.com/archive
Text/横山由希路
プロ野球の見すぎで「やきうモンスター」とあだ名されるライター&編集者。エンタメ系情報誌の編集を経て、フリーに。コラム、インタビュー原稿を中心に活動。ジャンルは、野球、介護、演劇、台湾など多岐にわたる。
イラスト/さとういもこ
いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。