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【誰でもできる、本業で社会貢献】#4 実践編~LIXIL

「誰でもできる、普段の仕事を通じた社会貢献」について解説する連載【誰でもできる、本業で社会貢献】第4回目からは、実際に本業で社会貢献に取り組んでいる日本企業を見ていきます。今回登場するのは開発途上国にトイレを贈るプロジェクトを行っているLIXILです。

【誰でもできる、本業で社会貢献】#4 実践編~LIXIL

本業で社会貢献。この連載を通じてご紹介してきたテーマですが、「そんなこと本当にできるの?」とやっぱりちょっと懐疑的な方もいらっしゃるかもしれません。あるいは「外国の会社ならありそうだけど、日本では聞かないよね」という方も?

今回から、日本で積極的に「本業で社会貢献」に取り組んでいる会社にインタビューし、各社が実践する本業での社会貢献をご紹介していきます。

■「待ち望まれていた」トイレ

「ひとつお買い上げいただくと、途上国の誰かにもひとつ寄付されます」

こんな商品、目にすることってありますよね。靴やメガネ、食事など、ひとつ購入すると困っている誰かにも1足の靴や1食の食事が寄付されるという仕組み。今回ご紹介するLIXILは、トイレで同じことをした会社です。そう、「トイレ」です。

それは「みんなにトイレをプロジェクト」というキャンペーン。日本でシャワートイレ(いわゆる、おしりを洗ってくれるトイレですね)を1台購入すると、少量の水で使用できる簡易トイレ「SATO」を衛生環境の整備されていない発展途上国に1台贈るというものです。

「このトイレは日本人からすれば、とてもシンプルな製品。けれど途上国では待ち望まれているプロダクトなんです」と話すのは、今回お話を伺ったLIXILコーポレートレスポンシビリティ(CR)グループ グループリーダーの小竹茜さん。SATOは途上国で大喝采を持って受け入れられているトイレなのです。

そして、2017年4月から半年間行ったこのキャンペーンでLIXILが寄付する予定のトイレは、なんと20万8805台! ということは同じ数のシャワートイレが日本でも売れたということ。

靴やメガネなどと違って、トイレって頻繁に買い換えるものじゃないし、気軽に買えるものでもない。ここまでの台数を売るのは、営業の皆さんが大変な思いをして売ったのではないだろうか、そう思いますよね。

けれど、小竹さんはこう言います。

「このキャンペーンの話をすると、多くのお客様が『すごくいい活動だね。是非うちのショールームにも飾りたい』とおっしゃってくれるんです」

そうしたお客様からの好反応に勇気づけられ、営業担当者のモチベーションも格段に上がったのだそうです。

これこそ、本業で社会貢献のあるべき姿。とはいえ、LIXILはここまでに、どのような道のりを辿ってきたのでしょうか。

■本業で社会貢献する、ということ

そもそもLIXILという会社は2011年に誕生した会社。皆さんがよくご存知のトイレのブランドであるINAXを含む5社が合併してできた、「古くて新しい」会社です。

そんな誕生したばかりの会社では、「いろいろなことをゼロベースで作っていく必要があった」のだと、小竹さんは振り返ります。自社を評して「7万人の従業員がいるベンチャー企業」と呼ぶ人もいるのだとか。

そしてLIXILが「本業で社会貢献」に舵を切ることになる転機は、2014年にやってきました。現在、LIXILのコーポレートリスポンシビリティ(CR)委員会のリーダーを務める外国人の経営幹部が着任したのです。

彼女は外国の大手企業でキャリアを積み、グローバル企業が意識している社会的責任や、実践している社会貢献を最前線で見てきた人物。そんな彼女の目には、「日本流CSR」は少し変わったものと映ったのでしょう。「もっと本業に近いところでやってはどうか」という提案のもとに活動を見直すことにしたのです。

とはいえ、LIXILという会社にはさまざまな事業ラインがあり、組織の中には数え切れないほどの仕事があります。そして解決が必要とされる社会問題も、前回ご紹介した「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals: SDGs)を見てもわかる通り、その領域は多岐に渡ります。

本業のどんな仕事を通じて、どんな問題を解決するべく目標を立てて活動すべきなのか。まずはこれを特定することから、新しいCR活動はスタートしました。

そして外部の力も借りながら、活かせる自社の強みと、それによって解決に貢献できる社会問題を特定し、2016年3月より正式に全社レベルでの活動を始めたのです。

■気持ちだけじゃなく、リアルなインパクトも

今、LIXILは本業に邁進しながら、それをすることで社会貢献も推し進めています。冒頭のSATOのように、製品自体が社会貢献に役立っているというものもありますし、安全でさまざまなバックグラウンドの人たちが働ける職場を提供していることもそう。水に関わる会社だからこそ、水資源を無駄にしないためにあらゆる場面で工夫を凝らしていることもあります。

そして、小竹さんはそんな会社の活動を社員に知ってもらい、積極的に参加してもらうべく知恵を絞っています。例えば、SATOを提供しているアフリカのコミュニティの様子を映像に収めて社内上映会を開催しているのもその一環です。

それを見ると社員の皆さんは、「自分の仕事をとても誇りに感じるし、ただ営利目的のためだけにものを売るのとは違う充実感やモチベーションを感じてくれています」と小竹さんは言います。そしてこうした誰かの役に立つ喜びは、世代を超えてみんなが持っているのです。

そして、「本業で社会貢献」がもたらす効果は「やる気」や「好印象」といったことだけに留まりません。社員のやる気は生産性アップや実際の売上げの向上にもつながります。例えば「みんなにトイレをプロジェクト」を実施した期間の売上げは、前々年と比較すると拡大しています。キャンペーンだけが売上増のただひとつの理由ではないとしても、影響はあったでしょう。効果は、こうした実数としても現れるのです。

他にもあげられる大きな効果の一つとして「社会的な認知」もあります。近年、注目されている投資にESG投資と呼ばれるものがありますが、その分野でもLIXILは認知され、評価を受けています。

ESG、そのアルファベットはEnvironment(環境)、Society(社会)、Governance(企業統治)を指し、これらを基準として企業の価値を指数化して投資を行うのがESG投資。利益率など、お金にまつわる情報を投資の判断にするのが常だったこれまでと比べて、「本業で社会問題の解決に寄与すること」が評価される時代ならではの投資基準です。

そしてLIXILはそのESG指数として世界的にも有名な、ダウ・ジョーンズ・サステイナビリティ・インデックスの指定銘柄に選ばれています。日本企業でこの銘柄に指定されている会社は多くありません。

これは「本業で社会貢献している優良企業!」とのお墨付きをもらったようなもので、投資家を引きつける材料になります。平たく言えば、必要なときにお金を出してくれる人も、応援して株を買ってくれる人も増えるわけです。

LIXILの「本業で社会貢献」は、立派な形ある「実績」につながっているのです。

■既成概念にとらわれずに「本業の可能性」を見つけよう

順風満帆に見えるLIXILでの活動ですが、悩みもないわけではありません。小竹さん曰く、「やっぱり一人ひとりのマインドを変えるのは難しく、一朝一夕に変わるものではありません」と言います。

おそらくこれは「本業で社会貢献」を進めようとする企業が直面する、大きな壁の一つでしょう。連載第2回でも触れたように、本業をもって社会貢献活動としようとするとき、それが「いつもの仕事」であるがゆえに、マインドを切り替えるのが難しいという側面もあるのです。

例えば、資材や原材料の調達という仕事を例に考えてみましょう。社会貢献の観点から言えば、不当に労働者を搾取したり、環境を汚染することにつながらない「責任ある調達」をすることが、求められる調達のあり方です。

けれど利益を中心に考えれば少しでも低コストで仕入れができたほうがいいし、それを良しとする空気は、どの会社にもあるでしょう。となると、責任ある調達がやるべきことだとわかっていても、このマインドをすぐに切り替えるのは難しい。

LIXILにもこうした壁は存在し、小竹さんのチームでは一人ひとりのマインド・チェンジを促すために活動しています。先ほどの映像上映会もそうですし、社員の社会貢献活動を促進する、リクシル コミュニティ・デーという活動作りなどにも取り組んでいます。

地道な活動で、すぐに成果が出るかもわからないし、その成果も目に見えるものばかりとは限りません。小竹さんを「本業に社会貢献」に向かって突き動かす原動力とはなんでしょう? そう尋ねると、こんな答えが返ってきました。

「トイレを通じた衛生環境の向上や、水資源を大切にすることを本業としている企業だからこそできる社会貢献がある。そして、本業を通してやるからこそ、より多くの方に、より持続的に、ソリューションをお届けすることができます。だからこそ本業を通じた社会貢献が今求められ、LIXILもやるべきなのだと感じた」と言うのです。

そして、企業で働く人は「日本では本業で社会貢献はうまくいかない」とか、「日本の消費者は『責任ある消費』にあまり興味はないし、日本では受けない」というような既成概念にとらわれてはいけないとも言います。

「日本の消費者は今、責任ある消費に興味があるし、そうした製品を求めているんだと思います。なので、ぜひ、この活動をより多くの方に知っていただきたいと思います」と笑いながら話す小竹さんの表情には社業への誇りがありました。

従業員7万人のベンチャー企業。その取り組みは今後も私たちを巻きこみながら、広がり続けていくことでしょう。

今回お話を伺った方

小竹 茜さん

株式会社LIXIL
コミュニケーションズ & CR部 コーポレートレスポンシビリティG シニアマネージャー

高校、大学で1年ずつアメリカに留学し、国際基督教大学教養学部国際関係学科を卒業後、株式会社プラップジャパンに入社。外資、日系企業のPRや、クライシスコミュニケーションを担当。また、プロボノ活動として、NPOライトハウスの広報活動をサポート。2013年、ロンドン大学ゴールドスミスカレッジで、修士号(デジタルジャーナリズム)を取得。2014年株式会社LIXILに入社後、コーポレートレスポンシビリティを担当。

佐々木 希世

コミュニケーション設計士。10代からの10年を米国で過ごす。採用や転職支援、ビジネススクールでのプログラム開発や講師業務に従事し、社会人のキャリア形成や成長への支援をやりがいとしてきた。3年間イタリアに移住したことをきっかけ...

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