結婚が健康に及ぼす影響は?【結婚は、本から学ぶ#3】
「結婚している人は寿命が長く、生活習慣病のリスクも低下する」といった研究結果があります。でも、本当にそうなのでしょうか? 今回は、80年にわたる長寿研究をまとめた『夫の存在が妻の寿命を縮めている』から見えてくる、結婚と寿命の関係について考えます。
結婚している人は、長生きするの?
書籍から結婚、夫婦関係、パートナーシップについて学ぶ本連載の第3回は『夫の存在が妻の寿命を縮めている』という衝撃的なタイトルの本がテーマです。
本書は11章に分かれており、年収、性格、交友関係、食事、睡眠……など、さまざまな要素がどれだけ寿命に影響するか? という長寿研究について書かれています。
第4章では「結婚・離婚・死別」という、それぞれの結婚の形や終わり方が、実際のところどれだけ寿命と関係があるのかが説明されています。
これまでに見聞きした国内外の研究から、「一般的には、結婚している人は、そうでない人に比べて健康で長生きする」という印象をもっていたので、実際のところはどうなのだろうと思い、手に取ってみました。
『夫の存在が妻の寿命を縮めている』書籍情報
結婚と寿命の関係は、男女で大きく違う
本書では、日本を含めて世界のさまざまな研究結果が紹介されているのですが、その研究者のひとりがルイス・ターマン博士というスタンフォード大学の教授です。
ターマン博士は、結婚組、再婚組、離婚組(離婚後に再婚しなかった人たち)、独身組と分けて寿命を調べています。
彼の死後も引き継がれたこの研究では
・男性は結婚組のほうが離婚組よりも寿命が長い(離婚組は3分の2が70歳になる前に死亡)
・男性の再婚組は離婚組よりは長寿だけれど、結婚組には及ばない
という結果になりました。
こちらの結果だけを見ると、結婚していることが長生きに貢献しているということになります。
そして女性の場合は、
・結婚組は再婚組よりも長生き
・離婚して再婚しなかった場合は、男性の結婚組と同じくらいの寿命
という結果になりました。
つまり、女性の場合は、無理をして結婚生活を続けるくらいなら、離婚して独りで生きる方がはるかに精神的に健康だと言える、と著者は結論付けています。
ちなみに、一生結婚しなかった女性は、結婚組よりは短命であるものの、再婚組よりも長生きという結果になったそうです。
このデータの結果自体も興味深いのですが、本書ではさらに、女性の自殺率にもふれており、40歳を超える女性の自殺は、独身者よりも既婚者のほうがはるかに多いとも指摘されています。
日本の女性は年齢に関わらず強いストレスにさらされており、また高齢者カップルでは、特に女性が家事全般を担わなければならないという場合において、結婚に対する満足度が低いとも書かれています。
結婚直後の幸福度アップは一時的なもの
本書の第3章にある「幸福度と寿命」のなかにも、結婚と幸福度という項目があり、ここでは「結婚という出来事が幸福感を左右する大きな因子だが、これによる幸福度の上昇は一時的なもの」と書かれています。
たしかに、婚約した後から実際に結婚するまでの期間を「結婚するというイベント」ととらえると、その期間は数カ月から1年程度というのが一般的でしょう。
ですが、結婚した後に始まる「結婚生活」は、それよりは長期にわたって継続していくものなので、幸福に関係する因子は結婚後に変化していき、だからこそ「結婚していれば幸せ」とはならない……と著者は主張しています。
私と夫も結婚生活15年になりますが、振り返ってみれば、移住・出産・転職・再び移住……など、さまざまなライフイベントがあり、今までの生活における幸福度は一定ではありませんでした。とくに生活環境が大きく変わる出産や引っ越しというイベントは、それ自体が大きなストレスのかかる状況でもあります。
お互いに気持ちの余裕がなくなり、ぶつかり合うことも多くなるので、それが長期間続くと精神衛生上にもよくないし、実際に身体にも影響が及ぶこともあるでしょう。
私と夫の間では、結婚前に受けた「結婚準備講座」とも呼べるプレマリッジ・セミナーで培った基盤から、なにかふたりで解決できない問題があるときにはカウンセリングを受けることが普通になっていたので、大きなチャレンジも今のところ乗り越えることができています。
「成功する結婚」はプレマリッジセミナーを体験した筆者が、結婚前の話し合いについて大切なことを記していく連載です。
でも、夫婦の間での問題を誰にも相談できないままに、長期間ずっと苦しんでいるカップルもいるでしょう。
心のうちを誰かに話して聞いてもらうだけで、気持ちが軽くなることもありますし、さらに深刻な場合には、プロの助けを借りることが普通にできるような社会になればいいのに、と常に考えています。
死生観はひとそれぞれ。私の場合は……
本書で紹介されているデータを読む限りでは、結婚相手とうまくやっていけないと寿命に関わる……と、少し暗い気持ちにもさせられるかもしれません。
縁あって結婚した相手と、お互いに幼少期に親との間で得られなかったものを与えあうことで癒し合えるのか、あるいは切磋琢磨してお互いに成長していく間柄なのか、カップルによっても違うでしょう。
いずれにしても、多くの場合では、赤の他人が家族になろうとするのですから、多少のぶつかりあいやストレスのかかる状況は起こります。
もちろん、一方的な支配関係や暴力などといった関係にある場合には、とにかく外に助けを求め、あるいはその関係から脱する方向で行動していただきたいです。
でも、そうではなく基本的には愛情に基づいた関係で、一生懸命に相手のこと、ふたりのことを考えていても、ときには衝突してしまう……といった場合には、関係を良好に保つためのスキルを身につけるなどして、歩み寄る努力をするのではないかと思います。
そうするうちに、自分も相手も変化していき、やがてふたりだけのルールができあがり、家族になっていく。その過程それ自体が結婚生活とも言えるのではないでしょうか。その一連の、とても面倒くさいけれども得るものも大きいプロセスに魅力を感じる人は、ぜひ結婚にチャレンジしてみてほしいなと思います。
長生きするために何をしても(あきらめても)よいか、というのは、個人の死生観によるでしょうが、私自身は、価値観の転換が結婚の醍醐味のひとつだと思っているので、今の夫といることでたとえ少しくらい寿命が縮んだとしても、それはそれで悪くない人生だと、現時点では思っています。
それと同時に、この本で指摘されている「高齢カップルにおける死亡リスクと配偶者の有無の関係」のデータを真摯に受け止め、ふたりでできる限り長く、仲良く健康に暮らしていけるよう、日々工夫していきたいと気持ちを新たにしました。
この本は、すでに結婚している人におすすめです!