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自分が信じるものを、自分で決める――『サラバ!』が教えてくれた大切なこと

西加奈子さんの作家生活10周年記念作品『サラバ!』(西加奈子/小学館文庫)の文庫版が、今秋発売されました。上中下3巻に渡る長編ながら、読みやすい文章と鮮やかな人間描写で、ワクワクしながら読み進められる作品です。現代を生きる私たちに訴えかけてくる、作品からの力強いメッセージをご紹介します。

自分が信じるものを、自分で決める――『サラバ!』が教えてくれた大切なこと

■『サラバ!』ストーリーをちょっと紹介

主人公の圷歩(あくつあゆむ)は、父の赴任先イランで生まれる。家族はやさしくて真面目な父、美人だけど奔放な母、我が強くて問題児の姉の4人。

母と姉の確執、日本への帰国、エジプトへの赴任、エジプトでの運命の出会い、父母の離婚、その後の日本での生活。歩が生まれた頃から37歳までの家族の関係や、歩が学校や社会で何をどう感じながら育っていくかが、歩の一人称の語りによって描かれる。

■不完全な人間が作る不完全な家族を、温かいまなざしで丁寧に描く

西加奈子さんといえば、『漁港の肉子ちゃん』や『あおい』、映画化された『きいろいゾウ』など、人間を生き生きと色鮮やかに描く作品が印象的だ。

『サラバ!』でも、人間がとにかく丁寧に魅力的に描かれている。歩の人間性が家族のメンバーからどういう影響を受けてできあがっていったのか、小学校や中学校に進学するにつれて育ってくる自意識の「あるある感」(集団の中での自分の位置づけなんか読んでいてくすぐったくなる)、姉のぶっ飛んだ行動の奥にある心情など、キャラクターが細かく描かれているので、読んでいると登場人物たちが人格を持って目の前でいきいきと動き出すような感覚になる。

また、家族のメンバーがみんな不完全だ。自分勝手、優しさゆえに弱い、繊細すぎる、残酷、自意識過剰、逃避グセ……人間のどちらかというとダメな部分がわんさか出てくる。

でも、不完全な人間が不完全な家族として生きていくのが実にリアル。現実の人間もみんな不完全で、どこの家族も何かしら問題や欠落を抱えているのだから。きれい事ばかりだとしらけてしまう。

そんな不完全なメンバーが作る不完全な家族を、筆者が温かいまなざしで重苦しくなく描いている。

■「自分が信じるものを、自分で決める」という強いメッセージ

作品の根底に、「自分が信じるものを、自分で決める」という強いメッセージを感じる。

揺らいで、悩んで、もはや迷走したと言ってもいい登場人物たちも、苦しんだ末に確固たる信じるものを見つけていく。そこに達した彼らには、人が変わったように安定感と芯がある。

信じるものは、宗教でも価値観でも信念でも哲学でも愛する人との信頼関係でも、自分の中で確固たる存在であれば何でも良い。作品の中でもさまざまだ。大切なのは誰かからのお仕着せではなくて、何を信じるか自分で見つけて自分で決める、ということ。

このメッセージにはドキリとさせられた。自分は果たして、自分が信じるものを見つけているだろうか、と。

完全に「大人」と言われる年齢になっても、私自身まだ自分と他人とを比べてしまうことはあるし、多くの人が選んでいるからとか無難だからといった理由で、何かを決めてしまうこともある。

自分で一度決心しても、親や世間の目を気にして心が揺らぐこともある。信じるものが定まっていないどころか、はっきり言ってブレブレだ。

■あなたが信じるものは、なんですか?

現代の女性は、ある程度自由だ。どう生きるかを自分で決められる。だからこそ迷う。

さらに、一見自由なようで実際には古くからの「こうして当たり前」という価値観、社会の風潮、周囲の目などいろんな要素に影響されるため、結局自由なのか束縛されているのかもうこんがらがってしまって、気持ちや考えが揺れまくっている人は多いんじゃないだろうか。

だから、「信じるもの」を見つけるにいたる登場人物らの迷走を追いながら、彼らと一緒に考えてみるのはどうだろう。「私の信じるものは、なんだろう?」

吉原 由梨

ライター、コラムニスト。1984年生まれ。東大法学部卒。外資系IT企業勤務、教授秘書職を経て、現在は執筆活動をしながら夫と二人暮らし。 好きなものは週末のワイン、夢中になれる本とドラマ、ふなっしー。マッサージともふもふのガ...

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