講談師(講釈師):一龍斎 貞鏡(いちりゅうさい ていきょう):講談協会:女性講談師
http://www.teikyo-ichiryusai.jp/女性講談師、お江戸日本橋亭、お江戸広小路亭など講談協会定席の他、学校寄席、中野講談会、渋谷講談会、地域寄席等で日本六十余州津々浦々廻っております。
高座に上がり、独特の語り口調で歴史話を繰り広げる講談。講談師である父親に弟子入りし、若手ながらもテレビ等で活躍する女性講談師・一龍斎貞鏡(いちりゅうさい・ていきょう)さん。仕事においては、人と人とのつながりが大切だという彼女に、人間関係の築き方を聞く。
――「講談」という仕事をする上で大切にしていることはありますか?
我々の仕事は、人との信頼関係で成り立っているんです。一回でも信頼関係が崩れちゃうと、その仕事は全部おじゃんになる。自分自身がしっかりしないと仕事も舞い込んでこないし、続かないので、そこはすごく気をつけるようにしています。
私は今「二ツ目」の階級。師匠方の手伝いをする見習い・前座とは違い、一本立ちをするので、自分で営業をかけて仕事をいただきます。講談協会には所属していますが、協会が仕事をくれるわけではありません。
ありがたいことに、ここ数年、ひとつのお仕事が、ふたつ、3つにつながることが増えてきました。どこかで講演をして、そこに来た方が「じゃあ今度は俺の会社でもやってよ」と声をかけてくれたり。そこで聞いた人が、さらに誰かに紹介してくれて広がったり。
――人との関係を、丁寧につくられているなと感じます。
人間キレイな面だけではありません。妬み嫉みもあるから、できる限りそれを受けないように、できることをまっすぐやっていくしかないですよね。ずる賢いことをしていると、絶対にひずみが生まれてしまう。
あとは、人の悪口を言わないこと。悪口を言うって、とても愚かな行為だと思っているし、大嫌いなんです。人がうわさ話を始めても、「私はよくわかんないから」と逃げるようにしていますね。
――仕事や対人関係を良好にするために、日々心がけていることはありますか?
芸だけでなく人間も磨いていくことですね。それを学んだのが、昨年NHKの番組でモノマネ芸人のコロッケさんと共演したこと。コロッケさんって、人の悪口をいっさい言わない方なんです。
それから、誰にでも平等に接してくれる。打ち上げの席では、私みたいな名前も通っていない若手に対しても、大御所の里見浩太朗(さとみ・こうたろう)さんに対しても同じ。スタッフ、製作側の方々に対してもまったく同じ態度で、感銘を受けました。「私、女版コロッケみたいな芸人になりたい」って思いましたね!
モノマネと講談。芸こそ違えど、人間的に学んで大きくならないと、この世界で生き残れないと、私なりに解釈しました。
昨年は、コロッケさんもそうですし、NHKの優秀なスタッフの方とご一緒させていただいて、本当に実りの多い一年でした。誠実にやっていれば、こうして取材をしていただけたり、経験が生かされていったりするのかなと思います。
――女性の30、40代って、悩みが多様化しやすい年代でもあります。少しでも、心が軽くなるために何かアドバイスをいただけませんか?
自分らしくいること、無理をしないことですね。私も、最初NHKのお仕事を始めたとき、「貞山の娘」を意識しすぎてずっとお利口さんでいたんです。「私は貞山の娘。何かあったら師匠の恥になる」で頭の中がいっぱい、がんじがらめで苦しかった。
でも、ある方に「貞鏡さん! あなた、それが素じゃないでしょ! つまんないよ」って言われたんです。
「貞鏡さんよりも育ちも頭も良くて、清楚な女性は、アナウンサーにたくさんいる。そんなところで勝負しても仕方ない」「貞鏡さんらしくやればいいじゃん」と飲みの席で言われて。
そのあと妙に納得して。翌日から思い切って、お利口さんの鎧を脱ぎました。「貞鏡は貞鏡らしく、このままで生きていけばいい」そう思ったら、すっごく生きるのが楽になりました。飲みの席でそう教えてくれた方にそっと御礼を言いに行ったら、「え? 俺、そんなこと言った? ごめんごめん、昨日の記憶全部なくて……」って(笑)。もしかしたら私に気を使わせないために、そう仰ってくれたのかもしれませんが。今は私らしく、無理のないように。のびのびさせてもらってます!
――読者の中でも、「私はこうだから」とか、自分で自分を決めつけて、素直になれない女性、けっこういると思うんです。貞鏡さんみたいにありのままの自分でいくためにはどうすればいいでしょう?
「ありのまま」と言っても、すべてがありのままではありません。ありのままで生きていくって聞こえは良いですけど、その自分が傷ついたときに立ち直れなくなると思うんですね。ある程度は、保険として自分をいくつか持っていないと。
私には、本名である靖世のほかに貞鏡、貞鏡の中にもイケイケな貞鏡、デリケートな貞鏡、優しい貞鏡、べらんめえ口調な貞鏡……というふうに、何個かキャラを持っています。時と場合に合わせて、自分をコントロールしていくんです。
――演じる自分をいくつか持っておくということ?
はい、女優になっていいと思うんですよね。いろんな自分を持っておいて、これがダメでも、まだこっちが生きてるもんね、って。そうすれば、いい意味で傷つかずに済む「逃げ道」になると思います。どの自分も自分には変わりないですし。
第三者的に自分を見てみてください。一歩距離を置いて「今の私、人からどうやって映ってるんだろう」って。視点を変えることも大切ですね。
――高座に上がっている貞鏡さんと、プライベートな貞鏡さんって、違うんですか?
私、実はすごい内気で、人前に出るなんてもってのほかな性格なんですよ……。
――えー! 堂々としてはきはきしゃべっているし、全然そう見えません。
本当なんです。小さいころは母の後ろに隠れて、みんなを睨みつけたり。ピアノの発表会ではブルブル震えちゃって、一言もしゃべらずに舞台から退場するような子どもでした。
でも、入門したからには高座に上がらざるを得ない。
どうしているかというと、高座を楽しむように自分で自分に暗示をかけています。「私は人前に出るのが好きなのよ」「ナンバーワンの天才講談師だから」と思って、自分をだましながら上がる。すると、不思議と、本当に楽しくなってきちゃうんです。
お客さんの前では「私の講談を聴きなさい!」っていう強めのキャラなので、こうして悩んでいることはみんな知らないはず。
でも実際は、こういうのが貞鏡なんです。気が小さいんですよ、本当に! 落ち込みやすいし。だからこそ、自分に暗示をかけるのが大切なんです。
――キャラを使い分けてお仕事をするわけですね。普段は内気なのに舞台に上がるなんて。すごく大変そう!
そうですね。でもやっぱり、“おまんま”食ってくのに、楽な仕事はないなって思います! どんな仕事でも同じです。
――ははは(笑)。今日は興味深いお話、ありがとうございました!
(編集後記)
貞鏡さんの「いろんな自分を持っていていい」という言葉には、不思議と人を勇気づける力があるなと感じました。
人生は自分が思い描くような楽しいことばかりが起きるわけではありません。
当然ですが、辛いとき、苦しいときも訪れます。むしろ大変なときのほうが多いんじゃないかと感じることも。それでも、最後にはまた一歩前に進める強さがほしい。そのための秘訣が、貞鏡さんの言葉、そして生き様に現れているような気がします。
Text/東香名子
写真/小林航平
一龍斎貞鏡さん前半のインタビュー
「女なんかにはできない!」という言葉――それでも強い気持ちで入った「講談」の世界
講談協会所属。
昭和61年1月30日、東京都渋谷区笹塚で八代目一龍齋貞山の実子として生まれる。
父が八代目一龍齋貞山、祖父が七代目一龍齋貞山、義理の祖父が神田伯龍であり、世襲制ではない講談界に於いて初の三代続いての講談師。平成23年より神保町らくごカフェに於いて勉強会「一龍斎貞鏡の会」を始める。
平成25年より日暮里サニーホールコンサートサロンにおいて、自主興行の独演会「本日の提供は貞鏡でございます~土地に纏わる講談を読む会~」を定期的に開催中。
講談協会定席の他、学校寄席、地域寄席、仏教講談、講談バスツアー、司会など、講談の可能性を生かして多方面で活躍している。
講談師(講釈師):一龍斎 貞鏡(いちりゅうさい ていきょう):講談協会:女性講談師
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