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セカンドチャンスは誰にでも訪れる――映画『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』

夢も希望もなく路上生活を送っていた青年のもとに、迷い込んできた一匹のトラ猫。ふたりはかけがえのないパートナーとなり、青年は少しずつ生きる力を取り戻していく……。21世紀のロンドンで本当に起きた、奇跡のような出会いと成長を描くハートウォーミングストーリー、映画『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』の魅力をお伝えします。

セカンドチャンスは誰にでも訪れる――映画『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』

こんにちは、島本薫です。

空の色や風の中に、少しひんやりしたものを感じるようになりましたね。

今回は、ぬくもりがほしくなる秋の夜長にぴったりの、心あたたまる映画をご紹介しましょう。

■映画『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』あらすじ

プロのミュージシャンを志したものの、夢に破れ、ヘロインに溺れてロンドンの路上で生活するようになった青年ジェームズは、禁断症状を抑えるための代替薬を使いながら、ストリートミュージシャンとして日銭を稼ぐどん底の日々を送っていた。


ソーシャルワーカーの支援で、古いアパートに住むようになったある日、部屋に一匹の野良猫が迷い込んでくる。猫のケガに気づいて病院に連れていき、あり金をはたいて薬を買うジェームズ。翌朝、ボブと呼ぶようになった猫を外に放し、路上ライブに出かけたところ、なんとボブがバスの中までついてくるではないか。


仕方なくボブを連れて街に出かけ、演奏を始めたところ、ボブの愛らしさに足を止める人が続出。その日の成果は、今までにないほどの金額になった。ジェームズは、ボブをかけがえのない相棒だと思うようになり、どこへ行くにもボブを伴うようになる。


支え合い、助け合って暮らしていくふたり。茶トラの猫と大男の組み合わせは、良くも悪くも世間の注目を集めるようになるのだが……。

■テーマは「誰にでもセカンドチャンスは巡ってくる」

There’s a famous quote I read somewhere. It says we are all given second chances every day of our lives. They are there for the taking, it’s just that we don’t usually take them.

どこかで読んだ有名な言葉にこういうものがある。われわれすべての人間は、毎日のようにセカンドチャンスを与えられている。なのに、目の前にぶらさがっているものをみすみす逃している、と。

『ボブという名のストリート・キャット』訳:服部 京子

一匹の猫との出会いを経て、次第に自分の人生を取り戻していく青年。実話とはいえ、ひとつ間違えれば、ただの「いいお話」で終わってしまいそう。

けれども、この物語を心揺さぶるものにしているのは、「誰にでもセカンドチャンスは巡ってくる」という、ジェームズの真摯なメッセージにあるのでしょう。


麻薬と手を切り、家族との関係を修復し、困難に負けず人との絆を結んでいく。


ひとりではできなくても、誰かの存在があれば人生は変えられるというシンプルな真実に、勇気をもらえるのだと思います。

ただ、ボブとの出会いをチャンスに変えたのは、やはりジェームズその人の力。思えば奇跡のようなボブとの出会いも、ケガをした野良猫が人生の転機を運んでくるとは考えていなかったはず。チャンスとは、思ってもみない形でわたしたちの人生に訪れているのかもしれません。


ボブと出会い、「人生のセカンドチャンス」をつかんだ今のジェームズは、チャンスの輪を広げようと、ホームレスや動物愛護団体のためのチャリティー活動に力を入れています。本や映画で得た収益も、ほとんど寄付に回しているのだとか。

映画では、ジェームズが『ビッグイシュー』(ホームレスの自立支援を目的として発行される雑誌)を販売する場面がありますが、日本ではあまりなじみのないこの仕組みについて、来日を機に支援と理解を呼びかけています。


あなたに、何かの出会いやきっかけを運んでくるかもしれないボブとジェームズの物語。ぜひ映画館でご鑑賞ください。

■ジェームズとボブの冒険の続きは、書籍でどうぞ

『ボブという名のストリート・キャット』
(原題:“A Street Cat Named Bob: How one man and his cat found hope on the streets”)
著:ジェームズ・ボーエン
訳:服部 京子
出版社:辰巳出版
単行本:277ページ
発売日:2013/12/14
価格:1728円
原著初版:2012年9月

※原題の“A Street Cat Named Bob”はテネシー・ウィリアムズの戯曲、“A Streetcar Named Desire”(『欲望という名の電車』)をもじったものです。さしずめ日本なら、『吾輩は野良猫である』といったところでしょうか。なんとも遊び心がきいていますね。

原作『ボブという名のストリート・キャット』は、世界28カ国語に翻訳され、ベストセラーとなっています。

ふたりがお互いを「見つけ合う」過程や、映画では触れていないジェームズと母との和解が描かれているので、書籍もぜひ手にとってみてください。

『ボブがくれた世界 ぼくらの小さな冒険』
(原題:“The World According to Bob: The further adventures of one man and his street-wise cat”)
著:ジェームズ・ボーエン
訳:服部 京子
出版社:辰巳出版
単行本:280ページ
発売日:2014/12/16
価格:1728円
原著初版:2013年7月

※二作目の原題“The World According to Bob”は、ジョン・アーヴィングの小説、“The World According to Garp”(『ガープの世界』)からきています。ボブのことも、ただの「ストリート・キャット」ではなく「都会で生き抜く知恵をもった猫」(street-wise cat)表現しているのもニクイですね。

続編の『ボブがくれた世界』では、出版にまつわるエピソードのほか、雨の日も雪の日も体調が悪いときにも街角に立って生活費を稼がなくてはならない毎日の厳しさや、それを支えてくれるボブとの絆が、穏やかなまなざしで語られています。


中でも、病気でボブの世話ができない日々の不安を経て、ふたりがお互いをかけがえのない存在だと確かめ合うエピソードは感動的。


ジェームズは、与えられるばかりだった自分も、何かの役に立てるようになっただろうかと考えるようになっています。

残念ながら、日本語訳が出ていない本も。

A Gift from Bob: How a Street Cat Helped One Man Learn the Meaning of Christmas
原著初版:2015/10/22

※ジェームズとボブの3作目の本は、クリスマスにまつわる物語、“A Gift from Bob”。このほかにも、英語版ではジェームズに会う前のボブを想像して描いた“My Name is Bob”や、ボブ版『ウォーリーをさがせ!』の“Where in the World is Bob?”も出版されています。

日本語版の表紙のボブは可愛らしさと賢さが感じられるのに対し、英語版では、不思議とふてぶてしい表情のボブの写真が使われるようなんですよね……。

『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』作品情報

■公開:2017年(イギリス映画)
■原題:A Street Cat Named Bob
■監督:ロジャー・スポティスウッド
キャスト:ルーク・トレッダウェイ、ルタ・ゲドミンタス、ジョアンヌ・フロガット、アンソニー・ヘッド※ボブ役は、本人(猫)による
■上映時間:103分

島本 薫

もの書き、翻訳家、ときどきカウンセラー、セラピスト。 大切にしている言葉は “I love you, because you are you.” 共感覚・直観像記憶と、立体視不全・一種の難読症を併せ持ち、自分に見えて...

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