後輩との会話は「コツをおすそわけ」スタンスで――「教育」するでは通用しない理由
企業によって、何年目から後輩指導をするのかはまちまちですが、いずれにせよいつかは直面する、後輩指導・育成。すでに管理職の方もそうでない方も、一緒に考えてみませんか?
ゴリゴリの激しい環境だとイメージされている外資系コンサルティングファーム。
そこに勤めて意外だったことのひとつは、「後輩育成力の有無」が、ある程度の年次(入社2年目以上)から少しずつ評価ポイントになるということでした。
■後輩を育成できない人は出世の天井が低い
私もいつからか、自分自身の人事評価時に、一緒に働く後輩を次の四半期までに、何の観点でどれだけ成長してもらうかをプランし、それが達成できたのかを次の四半期に上司と振り返っています。
管理職になることは、「後輩指導が得意・不得手」というジャッジをされる立場になるということでもあるのです。
今回は、私が毎回悩みながら後輩と関わっている中で、複数の後輩の成長を下支えしつつ、その人に求める役割を果たせてもらえた際に意識していたことをご紹介します。
1.「対応してくれてありがとう」を第一に伝えること
いわゆる「Thank you but 論法」と言われるものです。
例)エクセル帳票内の項目記入を依頼した後、さらに一部の記入の度合いを修正してもらいたい状況でのフィードバック
Thank you but 論法あり
「〇〇さん、エクセルの対応ありがとうございます! でね、お願いがあって、エクセルのここは△△の件があるから、表記を簡略化せず、すこしその観点を詳しめに書いてもらえますか?」
Thank you but 論法なし
「〇〇さん、エクセルのエクセルのここは△△の件があるから、表記を簡略化せず、すこしその観点を詳しめに書いてもらえますか?」
同じ情報・依頼をしているのに、推測される話し手のスタンスが異なりませんか?
前者は、「おおむね大丈夫で感謝している、一部修正だけしてもらいたい」と、後者は、「修正してほしいことが今主に思っていること」と感じ取れるかと思います。
2.できあがりイメージを伝えること
こちらは、後輩の勘違いやスキル不足でうまくできないことはあっても、「先輩のインプット不足」が起因で、後輩の仕事をしづらくしてはいけないよね、ということです。
できあがりイメージの共有ステップ
STEP1:どのような媒体に作成・アウトプットしてほしいのかを伝える
STEP2:できあがりのイメージや、どれくらいの品質で対応してほしいのかを伝える
STEP3:依頼したタスクの”その先”の想定アクションはどのようなものかを伝える
3.締め切り・納期は「現実的なライン」と「死守ライン」を伝えておくこと
「現実的なライン」と「死守ライン」の両方を伝えておくことの効果はふたつあります。
ひとつ目は、先輩である自分が、なんらかの問題が生じたときに巻き取ってカバーできるからです。「現実的なライン」(粗々の出来で一度話せそうなタイミング)でコミュニケーションすれば、そのまま任せきりでいいのか、手当てをした方がいいのかを判断することができます。
ふたつ目は、「早めの報連相」ができる後輩に育ってくれる可能性が高くなります。「現実的なライン」での相談なら上司に怒られないとわかれば、怖がらず隠さずにコミュニケーションできる後輩になってくれるのです。
例:エクセル作成をお願いしたが、後輩は自分ひとりで作成しきれないと後から判明する状況
「死守ライン」だけ伝えた場合のコミュニケーション
先輩「このエクセル、来週の水曜日の会議までに作成してもらえますか?」
後輩「承知しました」
(週明け火曜日の夕方)
先輩「この間お願いしたエクセルってできてますか?」
後輩「あ、実はまだです……(このときになって悩みごとを言う)」
先輩「(やばいな、会議に間に合わない)どうしてもっと早くわからないことを聞かなかったの?」
「死守ライン」と「現実的なライン」の両方を伝えた場合のコミュニケーション
先輩「このエクセル、今週の金曜日までに一度私に見せていただくことはできますか?」
後輩「わかりました」
先輩「会議は来週の水曜日なので、最長週明けでもいいのですが、ブラッシュするために一度金曜日までにまでにお話しできたら嬉しいです」
後輩「わかりました」
(金曜日の夕方)
先輩「この間お願いしたエクセルってできてますか?」
後輩「あ、実はまだです……(このときになって悩みごとが言える)」
先輩「オッケーです、その面は……(解決に向けた会話ができる)」
お客様に対するときと同じくらい、後輩の「自尊心」を傷つけてはいけない
後者のスタンスだと。受け取り手の自尊心を少しずつ傷つけてしまうことがあります。たった一回では自尊心は折れないかもしれませんが、日々の積み重ねにより、相手の自尊心がおろし金で擦られているように減っていき、ある日ぼきっと折れてしまうことも。
というのは、私は新人時代、後者の教育を受け、自己否定が重なって、やがて出社するのが辛くなってしまったことがあります。それから運良く、前者型の指導をしてくれる上司と出会い、両者の比較ができたため、大事には到らずに済みました。
■「折れた過去」「後輩の指導」の両面を鑑みてわかったこと
「自分は下の立場」と認識しているときほど、人はなかなか素直に自分の実力不足を認められません。
そして、少しのことで、「上の立場(に見える)の人は、下の立場の自分を尊重してくれていない。バカにされている。期待されていない」と感じてしまうものです。
後輩と関わる立場になった時点で、後輩の人の「自尊心」を何よりも気にした方が良いのでは? と、最近は考えながら働いています。
■「コツをおすそわけ」スタンスがおすすめ
前述の「Thank you but論法」も「できあがりイメージをつたえること」も「納期を二段階で伝えること」も、後輩が自分ひとりで走りきって仕事を完遂するための「コツのおすそわけ」であって、決して指導ではありません。
転職が当たり前の昨今は、年上の部下(後輩)を持つことも増えますが、その場合も、「コツをおすそわけ」スタンスで関われば、後輩の自尊心を傷つけず、「新しい環境や文化に馴染むコツ」として受け取ってもらえます。
そうやって、後輩の自尊心を高め、スキルも高めてあげることができたなら、長期的にいいコンビ・チームになれますし、より深くお話ができるようになるような気がしています。
「後輩がいうことを聞かない」とお悩みの方、ちょっとだけ参考にしてもらえたら嬉しいです。あなたの後輩指導のコツも、ぜひ教えてくださいね!