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映画『ムーンライト』感想。心揺さぶられる最も切なく、最も純粋な愛の物語!

本年度第89回アカデミー賞で作品賞ほか脚色賞・助演男優賞3部門受賞に輝いた映画『ムーンライト』。【シネマの時間】第5弾は、映画『ムーンライト』の魅力と感想をアートディレクターの諸戸佑美さんに語っていただきました。

映画『ムーンライト』感想。心揺さぶられる最も切なく、最も純粋な愛の物語!

マイアミの貧困地区を舞台に、自分の居場所とアイデンティティを模索する黒人少年の姿を描いた話題の映画『ムーンライト』。

詩的な台詞と色彩豊かな圧倒的な映像美、エモーショナルな音楽で彩られ、LGBTQをテーマにしたラブストーリーが作品賞を受賞したのはアカデミー賞史上初!

また、黒人だけのキャスト・監督・脚本家による作品が作品賞に輝いたのも史上初という、アカデミー賞の歴史を変えた作品となり、世界中に問題提起を投げかけ魅了してやみません。

あの大本命と言われた映画『ラ・ラ・ランド』を上回った映画とはどんな映画なんだろう?
そんな興味も抱きつつ鑑賞した私でしたが、暗闇に一筋の光を見るような心揺さぶられる感動でした。

逆境のなか懸命に生きる主人公の姿に胸がしめつけられます。

【シネマの時間】第5回は、「自分の道は自分で決めろよ。周りに決めさせるな」、 映画『ムーンライト』をご紹介させていただきます。

■映画『ムーンライト』あらすじ。人種、年齢、セクシャリティ、あらゆる立場を超えた普遍的な愛と人生を描いた物語

映画『ムーンライト』は、米マイアミの貧困地区を舞台に、孤独な一人の黒人少年の成長を、少年期、青年期、大人になるまでの3つの時代構成で描き、人種、差別、いじめ、貧困、ドラッグ、セクシャリティ、虐待などアメリカの二重三重のマイノリティに光を照らし多くの賞賛を贈られています。

シャロンは、学校で“リトル”というあだ名でいじめられている内気な少年。
ある日、いつものようにいじめっ子たちに追われていたところを、麻薬ディーラーのフアンに助けられます。

何も話さないシャロンを、妻のテレサの元に連れ帰るフアン。その後も何かとシャロンを気にかけるようになり、やがてシャロンも心を開いていきます。

ファンは父親のようにシャロンに食事を食べさせてくれたり、海で泳ぎを教えたりと人生を歩むヒントを教えてくれるようになるのでした。

家に帰っても行き場のないシャロンにとって、ファンと友達のケヴィンだけが心を許せる唯一の存在でした。

やがて高校に進学したシャロンでしたが、相変わらず学校でいじめられています。
母親のポーラは麻薬に溺れ、売春、育児放棄というシャロンにとって過酷な環境が続いていました。
居場所を失くしたシャロンは、フアンとファンの妻のテレサの家へ身をよせるように。

「うちのルールは愛と自信を持つことよ」と、シャロンを優しく迎えるテレサ。

ある日、同級生に罵られ、大きなショックを受けたシャロンが夜の浜辺に向かったところ、偶然友人のケヴィンも現れます。

月明かりが輝く夜、2人は海辺で忘れられない時間を過ごします。
しかし翌日、学校である事件が起きてしまうのです。

その事件をきっかけに、シャロンの運命は更に大きく変わるのですが……

■ブラット・ピット製作総指揮、バリー・ジェンキンス監督脚本!

映画『ムーンライト』は、製作総指揮に俳優でもありハリウッド屈指の名プロデューサーでもあるブラッド・ピットが、自身が代表を務めるプランBエンターテインメントで出資し製作。
タレル・アルバン・マクレイニーの戯曲『In Moonlight Black Boys Look Blue(月の光の下で、黒人少年は美しいブルーに輝く)』が原案になっており、バリー・ジェンキンス監督脚本により映画化されました。
偶然にも戯曲家のタレルとバリー・ジェンキンス監督は、同じマイアミ出身で住んでいた地区も学校も一緒、2人とも母親がドラッグ中毒者という同じような環境で育っており、運命的な出会いをはたし、映画では彼らの生い立ちが半自伝的に反映されています。

黒人少年の成長を少年期、青年期、大人になるまでの時代構成でそれぞれ3人の俳優でキャスティングした演出について監督は「同じような感性を持った3人の俳優を探したんだ。決して外見が似ている俳優である必要はなかった。感性というのは目をみれば分かる。人がどのように大きく変わるのか描きたかった。」とインタビューで語っています。

そしてシャロンの少年期にアレックス・ヒバート、青年期をアシュトン・サンダース、大人になるまでをトレヴァンテ・ローズといった同じ魂を感じさせる目を持つ3人を抜擢!

逆境のなかシャロンが大きな変化を遂げながら成長する様子が見事に演出されており、素晴らしく見所となっています。

そのほかキャストには、人気俳優のマハーシャラ・アリが、シャロンの面倒を見る麻薬ディーラー役で包容力のある味わいのある演技を披露し、栄えあるアカデミー賞助演男優賞を受賞!

ファンの妻テレサ役は、ジャネール・モネイが魅力的に演じており、シャロンがあたたかい近隣の人たちの出会いによって成長していくシーンに心温まります。

また、シャロンの唯一の友人であり想い人であるケヴィン役には、『グローリー/明日への行進』のアンドレ・ホーランド。

母親役を映画『マンデラ 自由への長い道のり』や『007』シリーズ、『素晴らしきかな、人生』などで幅広く活躍している演技派のナオミ・ハリスが見事に演じています。

■作品を彩る圧倒的な映像美とエモーショナルな音楽、詩的な台詞

本作は、美しい光を放つフロリダのマイアミを舞台に圧倒的な映像美とエモーショナルな音楽、詩的な台詞も大きな魅力です。

タイトルである『ムーンライト』とは、暗闇の中で輝く光や内面に輝くものを暗示し、人種、年齢、セクシャリティ、あらゆる立場を超えた普遍的な感情を優しく包みます。

私自身、重たいテーマにシャロンの気持ちを思うと辛く身動きできない程だったのですが、映像がとにかく儚く美しくそんな気持ちを和らげ救いとなっていると感じました。

また、心に響く詩的な言葉が数多く登場するのですが、特に印象的だったのは、やはりシャロンが海でファンに泳ぎを教えてもらうシーンです。

「地球の中心にいる」とファンの腕に信頼して身を委ねるシャロンの幸福感はそのまま映像を通して伝わってきましたし、「月明かりで、おまえはブルーに輝く」「自分の道は自分で決めろよ。周りに決めさせるな。」といったその後のシャロンにとっての道標になるような言葉も忘れられません。

友人ケヴィンとの月光のした海辺のシーンでは「泣きすぎて、自分が水滴になりそうだ」といった詩的な言葉で観客を純粋な愛の物語へと誘います。

音楽も効果的にドラマを語り魅力的です。

ニコラス・ブリテルによる「シャロンのテーマ」はピアノとヴァイオリンの織りなすメロディがとても美しく少年時代、青年時代、大人になるまでの3つの時代を変奏しドラマチックに彩ります。

また、特に印象的だった音楽は、大人になったシャロンが料理人となっているケヴィンから連絡をもらいケヴィンが働いている店へ久しぶりに訪ねた時に彼が流してくれたBarbara Lewisの『 Hello Stranger』という曲です。

ーあの事件から大人になったシャロンは、父親代わりのファンと同様麻薬ディーラーとなり大きく変わっています。

高校の時と違い身体を鍛え上げ、グリルの金歯を装着し、高級車を乗り回し心と身体に鎧をまとっていました。

料理人となったケヴィンは、ダイナーという店で働いておりシャロンに似た客がジュークボックスでかけた曲『 Hello Stranger』を聴いて、ふとシャロンを思い出し、あの事件のことを謝りたいと電話してきたのでした。

そして再会となるのですが、シャロンとケヴィンに幸せな未来が待っていることを願わずにいられません。

さらに主人公のシャロンと同じくマイアミの貧困地区の過酷な境遇で育ったというバリー・ジェンキンス監督の現在に思いを馳せるとき、人は自分を愛し夢を見ることで大きく変われるんだと励まされ信じることができるのです。

バリー・ジェンキンス監督の今後の更なるご活躍を心よりお祈りいたします!

ぜひ、この機会に映画『ムーンライト』をご堪能ください。

■映画『ムーンライト』作品紹介

TOHOシネマズシャンテほかにて全国ロードショー!
公式ホームページ http://moonlight-movie.jp
(C)2016 A24 Distribution, LLC

原題:Moonlight
製作年:2016年
製作国:アメリカ
映倫区分:R15+
配給:ファントム・フィルム
上映時間:111分
監督:バリー・ジェンキンス
原案:タレル・アルビン・マクレイニー
脚本:バリー・ジェンキンス
製作:ブラット・ピット、サラ・エスバーク、タレル・アルビン・マクレイニー
撮影:ジェームス・ラクストン
美術:ハンナ・ビークラー
衣装:キャロライン・エスリン=シェイファー
音楽:ニコラス・ブリテル
編集:ナット・サンダーズ、ジョイ・マクミロン

■『ムーンライト』キャスト

マハーシャラ・アリ=ファン
ナオミ・ハリス=ポーラ
アンドレ・ホーランド=ケヴィン
ジャネール・モネイ=テレサ
トレバンテ・ローズ=シャロン(ブラック)
アシュトン・サンダース=10代のシャロン
ジャハール・ジェローム=10代のケヴィン

アートディレクション・編集・絵・文=諸戸佑美

諸戸 佑美

本や広告のアートディレクション/デザイン/編集/取材執筆/イラストレーションなど多方面に活躍。

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