<女子大学生へのアンケート概要>
・調査主体 : ドコモ・ヘルスケア
・調査期間 : 2017年1月17日(火)~1月18日(水)
・分析対象 : 全国の短期大学・大学・大学院に通う女子学生
・調査方法 : ウェブでのアンケートを実施し、回答結果を分析
・有効回答数: 309人
「恋愛をしても女性ホルモンは出ません」 宋美玄医師による大人女子のためのヘルスケア
好評連載中の宋美玄先生のメディア向けセミナーが、ドコモ・ヘルスケアの主催で開かれました。これまで連載でも取り上げた内容と重複する点もありますが、復習としてまとめてみました。女性ホルモンと恋愛の関係性についてはさまざまな場所で言及されていますが、その真実はいったい? 専門家による解説をお届けします。
宋美玄さん(以下、宋):今日は、「大人女子のための“カラダのキモチ”セミナー」というテーマでお話します。いろいろと個人で情報発信を行ってきましたが、昨年キュレーションメディアの炎上などもありまして、送り手のメディアの皆様にも基本的な体の知識をお伝えしたいと思っていました。
■現代の女性の危機 2011年に平均初産年齢が30歳を超え、不調を抱える女性が増加
宋:まず女性の体について。現代の日本女性は危機に直面しています。2011年に平均初産年齢が30歳を超えました。今の時代のように女性が働くようになって当たり前ではないかと思われますが、実は月経の回数が飛躍的に増えている状況があります。
戦前の初潮は平均15歳でしたが、今は11~12歳に早まっています。有名な「赤とんぼ」の歌詞に「十五で姐や(ねえや)は嫁に行き お里のたよりも絶えはてた」とあるように、昔は15歳くらいで初潮がくるとお嫁に行っていたんですね。この歌詞の場合、姐やは出産で亡くなって、たよりが途絶えたという説もありますが、この時代の一般女性は15歳で結婚して子供を産んでいました。
昭和20年代では、平均で5~6人は出産していました。1回妊娠すると40週、また、個人差はありますが、授乳中も平均すると1~2年間生理がありません。ですので、5人くらい産むと合計で10年くらい生理がありませんでした。
現代の女性は11~12歳に初潮をむかえ、30歳で初産とすると、生理不順でなければ20年くらい毎月生理がきます。つまり、月経の数が飛躍的に増えたことになります。毎月子宮や卵巣がフル稼働して、そのために女性特有の疾患が増えているのです。
■生理とは? 一度おさらいをしてみます
宋:あらためて生理についておさらいします。なんで生理が起こるかというと、悪いものが外に出ているという誤解も流布していますが、そんなわけではありません。
毎月、通常1~2個排卵があります。卵管を経由して精子と出会うと子宮に着床して妊娠が成立します。ですが受精して妊娠するということは多くはありません。精子と卵子が出会えなかったり、むしろ出会っても着床せず、妊娠しないことが多いくらいですね。
受精して着床しないとなれば、子宮内膜(受精卵のクッション)が不要になって剥がれ落ちるのです。簡単にいうと生理・排卵・子宮内膜は、毎月赤ちゃんをむかえるスタンバイのため、妊娠のためにおこります。
現代の女性は、30代前半で出産するとしても20年以上月経を繰り返します。そして現代女性は婦人科疾患が大変増えています。たとえば子宮内膜症、子宮体がん、卵巣がんといった病気は、月経の回数が増えることで最近増加する病気の代表的なものです。
細胞は、破壊されて修復するということを繰り返しますが、このときDNAの移し替えに間違いが起こると、がんのリスクが高まります。
一回の生理の周期で1000個ぐらいの卵子が減っていきますが、このときも細胞分裂が起こっています。子宮内膜というクッションのような組織をつくり、妊娠しないと生理となって、子宮内膜も剥がれ落ちます。毎月破壊と再生を繰り返すので、がんのリスクも高まるというわけです。実際に、子供を産んだ人と産まない人では、リスクは違います。もちろん50歳まで子供を産まずに生理を繰り返す人のリスクの方が高いのです。
がんだけでなく、子宮内膜症も起こります。これは子宮内腔に存在するはずの子宮内膜や子宮内膜用の組織が、子宮以外の場所にできる病気です。
卵管を通って、卵巣や他の場所に紛れ込むリスクが高まります。要するに子宮以外のところで生理が起こる状況なのです。現代の女性というのは子供を産まなくなったり、産むのが遅くなったので、とても病気が増えているというのが実情なのです。
■誤った認識に注意してください
宋:ところが、女性の病気が増えているのは、戦後に食品添加物を食べるようになったからとか、体温がクーラーなどで冷えているとか、なかには生理用ナプキンがケミカルナプキンで体に悪さするなど書かれたものがあります。どれも因果関係は証明されていません。
余談ですが、私はだいぶ前から生理の手記から解放されています。子供をふたり産んだ後、ちょっとずつ黄体ホルモンが出てくる器具をいれていますので、子宮内膜が育たなくなって、毎月血も出てこない状態です。6割くらいも排卵がなくなって、このまま50歳くらいで卵巣機能がなくなるまですませようと思っています。
一般的には、生理は24~38日くらいの周期できます。一回の周期は4つのステージに分かれています。生理中(リフレッシュ期)、生理後~排卵前(ハッピー期)、排卵後(リラックス期)、生理前(スロー期)です。毎回、今月こそ赤ちゃんを産めるように、とスタンバイするわけです。
ちまたでは、エストロゲンが美のホルモンで、プロゲステロンはブスホルモンと悪者扱いされたりしていますが、両方大事な女性ホルモンなのです。
エストロゲンというホルモンには肌艶が良くなったり、脳を安定させる効果があります。実際のところ、4つの期のうちハッピー期だけがいい時期です。それ以外の時期は、女性はホルモンに振り回されているわけです。
ふたつのホルモンが働くことでいろんな変化が起こります。解明されていないことも多いのですが、生理前のスロー期は、便秘がち、落ち込んだり、イライラしたり、子供を怒鳴る、旦那とけんかしたりします。女性はホルモンに振り回されてしまいますが、どこの時期にいるかを把握して、対処できることはした方がいいと思います。たとえば、排卵後のリラックス期は心おだやかに過ごすようにしてください。
これが実際の生理の周期です。なので、生理を美化したり、生理があることこそ女性らしい、生理痛を耐えると陣痛を耐えられると書かれたりするものがありますが、それは正しくありません。
■まちがった生理あるある
宋:昔と比べて生理の回数が10倍くらい増えている、そのために女性の病気が増えているというのはお伝えした通りです。
昔の女性は今のような便利な生理用ナプキンがなかった…どうしていたのかという疑問があります。
ある方の本には、骨盤をしめると血が出ないとか、ナプキンという便利なものがあって、現代の女性は怠けていると書いてあります。また、生理用ナプキンが体に良くないので、改善するためにナプキンを手放して、オーガニックコットンを使うと骨盤底筋が鍛えられて、体もあったまって、いいことづくめと書いてあったりします。これは事実ではありません。
女性の骨盤底筋が機能すれば、ゴムみたいにきゅっと閉じて経血を止めておくことができる、といったことはありません。実はそんな簡単な構造ではありません。尿や便はある程度止めることができますが、月経血は止められないですよね。尿道と肛門には括約筋というリング状の筋肉があります。随意筋といって自分でしめることができます。膣はそうはなっていません。
膣の入り口は左右の観音開きのようになっていて、ジップロックみたいに閉まればいいのですが、恥骨直腸筋をしめても後ろから前に引っ張るだけなので、膣の入り口は閉まりません。
膣の入り口にもうすい括約筋がありますけれど、産後はやぶれてしまって開きっぱなしになっているので使い物になりません。解剖学的にも、昔の女性は経血を密閉していたというのは神話である、ということがわかります。
もう少しいうと、骨盤底筋は遅筋速筋で、鍛えると太くなる対応の筋肉です。固くなると反射が起こりづらい、排便、便意が起こりづらくなるという問題がありますので、鍛えるほどいいという筋肉ではありません。
布ナプキンで体が温まると書かれているものもありますが、そんなことはありません。私は登山の経験があるのですが、登山では綿の素材はNGなんですね。綿の素材は汗を書くと、まったく乾きません。
屋久島に行ったときに失敗したことがあります。綿のトップ着て行って、汗をかいて体が冷えてしまい、ガイドさんにも「綿はダメだって言ったじゃないですか」と言われました。速乾性がないので、濡れると体温を奪い続けます。ですので、布ナプキンが体を温めることはありません。
さて、ドコモ・ヘルスケアが実施した結果によると、6割以上の女子大船が、女性の体の仕組みや性に関する情報の収集にインターネットを利用しているということがわかりました。基本的なことも誤って認識しているので、メディアの方にも発信に注意をしていただきたいと思いました。
■女子大学生の88%が、 「恋愛をすると女性ホルモンがたくさん出る」と誤認。恋愛をしても女性ホルモンは出ません!
宋:信じている人が多いようですが、恋愛やセックスをしても女性ホルモンが出るわけではありません。 同じように、 恋愛やセックスをしていないからと言って、女性ホルモンが減ることもないので、安心してください。恋愛の有無にかかわらず、女性ホルモンは卵巣から淡々と分泌されます。
ですが、雑誌やインターネットではそういった内容を目にすることが多くみられます。 恋愛と女性ホルモンの関係について医学的に根拠はありません。女性ホルモンは、 多い方がいいわけでもないのです。 きちんと決まった時期に必要な分だけ分泌されることが一番です。 そのためには健康的な生活を送ることを心がけましょう。
■女子大学生の77%が、 「冷たい食べ物や冷房で子宮は冷える」と誤認
宋:子宮が冷えることは、 まずありません! 人間は恒温動物です。 子宮はかなり太い血管が通っているので、 体の中でも一番体温が安定しているところなのです。 手足が冷えたくらいでは、 子宮の温度が下がることはありません。お腹を温めると生理痛が緩和されることがありますが、 子宮そのものが冷えるということはないのです。
■女子大学生の68%が、 女性の体にある卵子の数は減っていく一方であることを知らなかった
宋:卵子の数は、 毎月減っていく一方です。 女性はお母さんのおなかの中にいるときに、 卵子のもととなる「原始卵胞」が作られます。 原始卵胞が卵巣の中で成長すると卵子になります。 毎月約1個の卵子を排卵しますが、 じつはその裏で約1,000個の卵子が、 排卵に至らないまま減っていきます。
原始卵胞は増えることなく、 作られた後は減る一方です。 生まれたばかりの赤ちゃんには約100万個ある原始卵胞は、 思春期には10~30万個にまで減り、 その後は1回の排卵周期で約1,000個減っていきます。 最近では、 卵子は年を取ることも一般的に知られてきました。 卵子の年齢・数には限りがあるのです。
専門家プロフィール
宋美玄先生
産婦人科女医・性科学者。現役産婦人科医として、都内の病院で診療に従事すると同時に、セックスや女性の性、妊娠などに付いて女性の立場からの積極的な啓蒙活動を行っている。
いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。