恋人を実家に連れて帰るのって、気が重い……
恋人を実家に連れていく――これは一般的に結婚を前提に付き合っています、と親に宣言するようなもの。それゆえ戸惑う思いも捨てきれない。元遊び人の筆者が「恋人を実家に連れて帰る」という人生初のアクションを描く短期連載「遊び人だった僕が恋人を実家に連れて帰った」#1。決断するまでの逡巡の理由は……?
2016年12月中旬、僕はモジモジしていた。年末年始の帰省。彼女に付いてきてもらうか、否か、それが問題である。
あまり家庭事情を公に書かないけれども、僕と家族の仲は良好である。愛情たっぷりに育てられた方なのは、比較的最近になって認識し、改めて感謝している。その親に「彼女を連れて帰ってもいいかな?」とひとこと言うだけのこと……が、とてもダルかった。
このあたりの逡巡は一般的には理解されにくいかもしれない。「女好き」と呼ばれる類の男は、ほぼ100%自分の恋愛を親に語ったりはしない。屈託のない笑顔で、「お父さん、お母さん、俺ってけっこうイケてるヤリチンなんだぜ!」なんて胸を張って堂々と言えるヤツがいたら、そいつの神経は、相当におかしい。
よって、別に言ったところで支障のない範囲の恋愛の話も、しなくなるものであります。親に対して「恋愛絡みのこと」を話題にすること自体のハードルがわりと高かったりする。
■「恋人を実家へ連れていきたい」のきっかけ
さて、年末年始に彼女を「実家に連れていきたい」と思ったきっかけから話してみたい。
以前、DRESSにコラム「『今日の正解』を積み重ねた先に、僕たちの結婚はあるかもしれないし、ないかもしれない。」を書かせてもらった通り、僕自身は「同棲」あるいは「事実婚」という関係で、毎日を一緒に過ごせるだけで嬉しい。「まだ結婚しないの?」という声は煩わしかった。
ただ、ふたりの関係は「僕自身」だけの話ではないし、「結婚したくない」わけではない。彼女に対しては「紙きれ1枚で安心してくれるなら」という思いがあるし、「この人とならやっていける」という思いもある。
だけど、今のままで不自由も不満もないのであれば、する理由が見つからなかったのも同じくらいに大きかった(長年、同棲しているカップルは、子供を授からないとそう感じる人も多いのではないだろうか)。
そんななか、対談で知り合った川崎貴子さんと飲みにいく機会があった。彼女は著書でも「卵子は待ってくれない」というキラーフレーズをもとに、男をあてにしないで、女性が自分の人生(婚活・キャリア)を戦略的に進めていこうと唱える、急進的な扇動者である。
誤解がないように書くと、川崎さんは、別にプライベートでもゴリゴリと他人を詰めるような方ではない。相手の話をじっくり聞いて、相手に合わせた効果的な言葉をかけてくれるような人。僕のような思考回路の人間にも、腐るほど会ってきているはず。
そんな彼女は僕にこんなことを言った。「先に決めちゃって、後から帳尻を合わせてもいいんじゃない?」
それを聞いて、自分のなかで「あっ、身構えすぎていたな」ということを気づかせてもらった。人生の大半のシーンを直感やノリで乗り越えてきた自分が、こと結婚に関しては慎重になりすぎていた、と。
■何かが起きて必死に乗り越えようとするうちに、人生なんとかなってきた
準備万端で物事に向き合えることなんて、ほとんどのシーンではありえない。先に全力で向き合うべき何かが起きてしまい、それを必死に乗り越えようとしているうちに、なんとかなってた。そんなことが、人生にはけっこう多い。
「ヨウちゃんは何とかしてしまえるんじゃないの?」という言葉は、発奮以外の何物でもなかったのだけれど、捉え方を変えるきっかけを与えてもらったような気がした(まんまと魔女の扇動にのせられた!)。
さて、結婚に向けて、準備万端な状態(気持ち・時間・お金など)にする必要がないとして。それでは今から世田谷区役所へ! とはいかないのが、現実である。
そう、見えない「漠然とした不安要素」は考えるべきことではない。だからこそ、棚上げしていた「常識としてやっておくべきこと」を明確にクリアしておこうと思った。そこで課題は、冒頭に書いた親であった。
俺の実家は田舎である。いや、その田舎っぷりの想像は当たってないよ。電車は2〜3時間に1本しか走らない。終電は20時半。それくらい辺境なので、住んでいる人々も「昔ながらの閉鎖的な田舎の人たち」だ。
あたたかい人たちというのは、粘っこい部分を持っているもので、距離の取り方が難しい。こちらは言わなくてもいいと思って言わないことが、相手に「水くさいな」と思わせる可能性もある。
うちの両親は比較的、そういう部分が少ない方だけれど、やっぱり自分とは感覚が違う部分はある。同棲を始めるときにも「どうして同棲前に報告しないの?」的なやりとりがあった。
それもあって、彼女に良い印象を持てていないだろうから、そこを解消しておきたかったのだ。僕自身もこの5年ほどで彼女のことを両親との会話に出すことはほとんどなかった。
■恋人をつれて帰省する、と実家の面々に切り出すと……
何はともあれ、先に彼女に意思確認をしなければ。自宅でゴロゴロしながら「よかったら、今年の年末年始、一緒に帰省しない?」と聞いてみたところ、「帰る!」と笑顔で賛成してくれたのだった。
というわけで、実家に電話をすることに決めた。実家に連絡をした時は、母、父、姪っ子、姉と電話相手をローテーションをしていくので、1時間以上の通話になってしまう。
毎度のことだけど、なげぇ。おまけに俺、それぞれに近況報告してるから、同じこと何回もしゃべることになるんだよ(笑)。
今日の俺は近況報告は助走である。1時間半を迎えようとする通話時間は、まだクライマックスを迎えていない。向こうが喋りたそうなことを一通り喋り終わった頃に、切り出してみた。
「帰省のことなんやけどさ」
(続く)