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「やさしく触れる」習慣は幸せを運んでくる

たったひとつのなにげない仕草が、その人の生き方を物語る──。そんなふうに考えたことはあるでしょうか。連載「人生が好転する気づきの美習慣 #6」では、休日の午後、あるレストランのテラス席で出会った女性の話をお届けします。すべてのものにやさしく触れるその女性の周囲には、癒しに満ちた、穏やかな時間が流れているようでした。

「やさしく触れる」習慣は幸せを運んでくる

■どちらも間違ってはいないのに、折り合えないふたり

今回のテーマは、「触れる」。なにげない仕草が、その人の生き方まで物語っているのだな、と気づいた出来事について、お話しします。

やわらかな陽射しがふりそそぐ、穏やかな休日の午後。イタリアンレストランのオープンテラスの席で、友人と食事をしていたときのことです。

メイン料理の皿を下げてもらい、デザートが運ばれてくるのを待っていると、隣のテーブルから男性の、少しばかり大きな声が聞こえてきたのでした。

「ダメだって言ってるだろ。何度言ったらわかるんだ?」
「なんでダメなの? みんな持ってるんだよ。持ってないのぼくだけだよ」

懸命に言葉を返す、小学校低学年くらいの男の子。

どうやら男の子は何か欲しいものがあって、お父さんにおねだりをして、叱られているようです。ふたりの間に座っているお母さんは困り顔。

息子をわがままな子どもにしてはいけない。だからこそ、欲しがるものを簡単に買い与えてはいけない。お父さんの考えには、筋が通っていますよね。

友達はみんな持っているのに。ぼくだけ持っていないと、仲間に入れないのに。

子どもにだって子どもなりに直面している現実があって、ただわがままを言っているわけではないように聞こえます。

どちらも間違ったことは言っていないのに、うまく折り合えず、そっぽを向いてしまったお父さんと男の子。事のなりゆきに気づいてしまった私は、隣のテーブルで勝手にはらはらしていました。

こんなとき、お母さんはどうされるのかなあと気になって、それとなく様子を拝見していると──。

■やさしく触れられると、人は心を開き、素直になる

「ねえ、ケイくん。あのね……」

ふわっと、そっと、お母さんは男の子の背中に触れながら、耳元でやさしく諭すように何かをささやいています。

プッとふくれて口をへの字にし、あさっての方を向いていた男の子が、少しずつ、少しずつ普通の顔に戻って、最後は小さく頷く様子が見えました。

その様子を見届けてから、今度はお父さんの方に向き直り、ふんわりお父さんの腕に触れながら、「ね? パパ、ケイくんはね……」と、笑顔で語りかけるお母さん。

眉間にシワを寄せたまま不機嫌そうに頬杖をついていたお父さんも、徐々に表情が和らいで、最後は気を取り直し、ケイくんに何か話しかけていたようでした。

この一連の経過を目にして、私は気づいたのです。

お母さんは、男の子の背中や、お父さんの腕にそっと触れながら話をすることによって、ふたりの心にやさしく触れ、語りかけていたのだな、と。

やさしくそっと触れられると、その人からとても大切にされているのだと、肌身を通して実感できます。ほのかに伝わってくる手のひらのぬくもりが心をじんわり温め、ときほぐしてくれるので、相手に対して心を開き、素直に話を聞くことができるのですね。

また、やさしく触れるという仕草は、語りかけている人自身にも効果をもたらすようです。

相手とどこも接していない状態で語りかけるよりも、そっと手を触れながら語りかける方が、自然とやさしい口調になることができ、そのような自分の話し方やふるまいによって、実は自分自身が癒されもするのです。

人って不思議ですね──。

とはいえ、家族や恋人、親しい友人でない限り、気軽に触れることがためらわれる場合もあります。そんなときは、相手の方に触れる少し手前で、手を添える仕草をして語りかけるだけでも、随分効果があるようです。それも躊躇される場合は、相手の方にそっと触れるイメージを浮かべながら、語りかけてみるとよいのではないでしょうか。

■やさしく触れる。それは、慈しみつつ人生を生きること

息子さんやご主人にあんなふうにそっとやさしく触れて、思いを相手の心に響かせることができるなんて素敵な女性だなと思いつつ、ふとまたその方に目がいって、さらに気づいたのです。彼女が人だけでなく、物にもやさしく触れる女性であったことに。

水の入ったグラスを男の子が取りやすい位置に移動してあげるときも、取り皿を1枚ご主人の前に置いてあげるときも。そっと触れて、そっと置く。そのくり返し。粗雑に扱うことが、ただの一度もなかったのです。

人にも物にも丁寧に気持ちを傾けて、やわらかく接する彼女の周りには、周囲よりもひときわ穏やかな時間が流れているように見えました。

人にも物にも、やさしく触れる。その仕草は彼女が謙虚に、真摯に、慈しみつつ人生を生きている姿であるように感じられ、私は胸を打たれたのです。

自分を取り巻く人や物に対してどんなふうに接するかは、今この瞬間をどう生きるかということ。つまり、一度しかない人生をどのように生きるかということ、そのものだったのですね。

そう気づかせてくれたひとりの女性に、私は心から感謝したのでした。

やさしく触れることで、あなたの思いが周りの方々にやわらかく、深く響きますように。そのように慈愛に満ちた関わりの中で、温かな絆が結ばれ、かけがえないあなたの人生が、安らぎに満ちたものとなりますように。心から願ってやみません。

2016年10月31日公開
2019年6月28日更新

湯木 景子

各女性誌ライター、広告プランナーとしての豊富な経験をもとに、女性が人生をより楽しく生き、魅力を磨くためのコンテンツをお届けしています。

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