「ふり向く習慣」は人生を好転させる
「ふり向く」という言葉にはふたつの意味があります。くるっと後ろを向くことと、過ぎ去った過去を思い返すこと。過去を思うことは、時に消極的な行為と考えられることもありますね。今日はそちらの「ふり向く」ではなく、くるっと後ろをふり向くことで人生を輝かせる女性たちのお話です。さて、この何気ない仕草が意味するものとは──。
■その女性がふり向くたび、人が人を思うやさしさが香り立つ
この方はきっと、ご主人や恋人、お友達など、周りの方からとても愛されているのだろうな──。そう感じられる女性には共通項があるのだと気づいて、はっとした日のお話をしたいと思います。
都心部のある街での出来事です。その街にはJRの駅を中核に置く大きな駅ビルがあって、一番人通りの多いフロアには、端から端まで長い「動く歩道」が設置されています。
エスカレーターと同様、歩かない人は片側に寄って立ち、急ぐ人は空いている方の側を歩いて先に進むのが不文律。地方によってルールは違いますが、東京では歩かない人が左側に寄って立ちます。
その日は急ぐ必要がなかったので、私は左側に立っていて、すぐ前には同じように歩かず立っている女性のうしろ姿がありました。
まだ20代でしょうか? 髪をすっきりとポニーテールにまとめた可憐なその女性の前には、恋人らしき男性が立っています。女性が何か話しかけると、男性が彼女の方を向いてやさしく笑いかけます。彼の両手には大きな買い物袋がいくつも提げられていて、彼女の手には小さなハンドバッグがひとつだけ。
彼女は何度か「ねえ、重いでしょう? ひとつくらい持つわ」と彼に声をかけていましたが、その度に彼は「大丈夫だよ」と取り合いません。
その様子から、彼は彼女のことが大好きで、とても大切にしているのだなということが伝わってきます。 仲の良い人たちの姿っていいものだなと思いながら、私は彼女の背中を見るともなく見ていたのでした。
そして気づいたのです。私たちの後方から足音が近づいてくるたび、彼女がさっと後ろをふり返り、通路側である右手に彼が持っている紙袋に、さりげなく手を添えていることに。
うしろから歩いて来る方の邪魔になるのでは? と気を遣って、通路側に紙袋がはみ出さないよう、そっと押さえていたのですね。
その女性は「重い荷物は彼が持ってくれてあたりまえ」とは微塵も考えていなくて、「全部持たせてしまって悪いな」と思っている。そして、「うしろから来られる方の迷惑になってはいけない」と、常に周囲に気を遣っている。
なんて素敵な女性なのだろうと思いました。
彼女が後ろをふり返り、彼の持つ荷物に手を添える。誰かがその傍らを通りすぎる。ほっとしたように彼女が荷物から手を離す──。
この光景が幾度もくり返されるたびに、束の間、あたりの空気がやわらぐ気がしました。 無機質な「動く歩道」の上に、人が人に配慮をするやさしさが、ふわりと香ったせいでしょうか。
■見知らぬ他者を気遣える人は、身近な存在に深い愛を注げる人
それから小1時間ほど経っていたでしょうか。ビル内の化粧室を使ったときにもこんなことがありました。
個室が空くのを待っていると、ちょうどひとりの女性が個室から出て来られるようでした。
この方もきちんと髪をまとめていらっしゃるな、身だしなみの良いきれいな女性だなと思った、その瞬間。
彼女もまた一瞬立ち止まってくるっと後ろをふり返り、さっと個室の中を確かめるように見てから、私に軽く会釈をしてくださり、洗面台の方へと去って行かれたのです。
彼女が出ていったあとの個室はきちんと片づいていて、乱れた点がどこにも見当たりませんでした。
トイレットペーパーの先が乱雑にちぎられていたり、だらだらと長く垂れ下がっているようなこともありませんでしたし、もちろん、忘れ物も遺されてはいませんでした。
その後、このビルに入っている大きな書店で、また同じ女性を見かけました。
ご主人と赤ちゃんと、3人での外出だった様子。赤ちゃんを抱いたパパの顔を見上げながら、その女性が楽しそうに語りかけるところでした。
「ねえ、お夕飯何にする?」
「そうだなあ。何食べたい?」
「うーん、何がいいかな。パパの食べたいものにしましょう」
本当に何気ない会話でしたが、パートナーからこんなふうに気遣われると嬉しいだろうなと、微笑みを誘われました。
化粧室でそっとふり返り、次に使う人への気遣いを見せてくれた女性は、ご主人にやさしく気を配ることも身についている人だったのです。
だからこそご主人も、奥さまにとてもやさしそうで。互いを気遣いながら暮らす仲の良いご夫婦、ぬくもりに包まれた家族の姿がそこにはありました。
■ふり返ることで人は気づき、よりよい明日を生きていける
髪をきちんと整えてまとめ、身だしなみの良さから爽やかな清潔感を漂わせていた彼女たちが、くるっとうしろをふり返る仕草。
それは、ともすれば何も考えないまま流され、過ぎてしまう時間に、小さな句読点を打つ仕草であるように見えました。一旦立ち止まり、自分の行動をきちんと確かめて身を律する、すがすがしいふるまいであるように感じられたのです。
「ふり返る」という言葉の対象が過ぎ去った過去を指すとき、人は往々にしてそれをネガティブな意味でとらえがちですね。「過去に執着する」、「過去に連綿とする」など、負の意味合いを持つ表現は確かにたくさんあります。
けれど、過去をふり返ることは、必ずしも負の行為とは限らないのではないでしょうか。
ふり返り、かつて起こった出来事を検証し、その理由に思いを馳せる。もしも自分に至らない点があったと気づいたなら、よし、もう同じ過ちをくり返さないようにしようと胸に刻む。
このように、過去をふり返ることで、今日より明日をより良く生きるための駆動力を得ることができるのですから。
そう考えると、その場でくるっと後ろを「ふり返る」ことも、過ぎたときを「ふり返る」ことも、人生を好転させるための、かけがえない気づきの瞬間、ターニングポイントであるように思われてならないのです。
「ふり返る」ことで周りの方を気遣うあなたのやさしさが、きっと誰かに届きますように。今日より明日がさらに素晴らしい日となりますように。心から願ってやみません。
2016年10月12日公開
2019年5月24日更新