「したいときだけする育児」が日本を救う【小田桐あさぎ 連載 #1】

「したいときだけする育児」が日本を救う【小田桐あさぎ 連載 #1】

育児も家事も仕事も……日本の母親は「抱えすぎている」。母になっても何も諦めることなく、自分らしく子育てをしよう、と提唱する小田桐あさぎさんの連載がスタート。あさぎさん流「したいときだけする育児」を紹介します。


初めての出産をしてから1年4ヶ月が経過した。母親になっても何一つ我慢はせず好きなように生きたい! と考えた私は「したいときだけする」育児論を自ら考案、実践。結果的に仕事も夫婦関係も自分の楽しみも、何一つ犠牲にしないワーキングマザーライフを実現した。さらにそんな自身の経験を活かし起業、現在は「自分らしい生き方を叶える次世代のワーキングマザー」として執筆や講演活動、メディア出演などを行っている。

今、私が思うこと。それは「女性が自分らしさや自分自身の幸せをワガママに追求することこそ、今の社会に最も必要とされている」ということだ。これが自分自身はもちろんのこと、子どもや夫をはじめとした家族、会社を始めとした社会、ひいては国や次の世代にまで、幸せを伝播していくことにつながる。

■妊娠して感じた不安と絶望

結婚3年目。私は2度の流産を経て、待望の妊娠をした。はずだった。しかし正直な気持ちを言えば、このとき感じていたのは「喜び」よりも、はるかに大きな「不安と絶望」。夫婦関係も仕事もプライベートも充実していた当時の私に“育児”が入り込む余地などなく、これからの人生を考えると暗い気持ちになった。

子どもは確かにほしかった。愛する夫との子どもはきっとかわいいに違いないし、子育てというのは自分にとっても素晴らしい経験になるだろう。30歳を超えた今、どうせ出産するならば早ければ早いほうが良いとも思う。

しかし。出産したら、今の私にとって大切な「夫とのラブラブな夫婦関係」「大好きな仕事」「自分の楽しみ」を、すべて手放さなければいけない。フルタイムで働きながら子育てをするワーキングマザーは皆、早朝から深夜まで仕事と育児に追い立てられ、日々をなんとか「こなす」ことで精一杯ギリギリに生きているようにしか見えない。仕事も育児も中途半端になってしまう罪悪感と共に過ごす毎日。出世街道からは外され、夫との愛は産後クライシスや育児と家事の分担問題で冷え切り、自分のための楽しみやリラックスする時間や海外旅行なんて10年間は諦めるのがあたりまえ……。

これが妊娠発覚時の私にとっての、リアルなワーキングマザー像。出産・育児とは、女性の究極の自己犠牲行為だと思っていた。子どものためなら自分のことは後回し、それが母親。子どものためなら、ツラさも苦しさも全部耐えられる、それが母親。死ぬほど疲れても子どもの寝顔を見ると疲れが吹っ飛んで明日もがんばろうなんて思えちゃう、それが母親……。

無理。
絶対に私には無理だと思った。
私にそんな自己犠牲愛はプリセットされていない。
「たとえ私は母親になっても、何ひとつ犠牲にしたくない。絶対に何も我慢はしたくない」
そう思った。

ここで「でもみんなそうやって我慢してるんだから」と諦めるのは簡単だった。しかし諦めずに模索すれば、必ず道は開ける。素直にそう思えたのは、当時勤めていた北欧のメーカーで日々「日本の常識を変える」仕事に全力で取り組んでいたおかげだと思う。そう、そもそも北欧では、女性が3人以上の子どもを育てながら経営陣や議員などの主要なポストに就くことなど、珍しくもなんともない。さらに日本のように仕事と育児の両立に追われている様子もなく、のびのびと子育てを楽しんでいるじゃないか。今の私の周りにはいないだけで、世界にも、そして日本にだって、そんな子育てを実現している人は必ずどこかにいるはず。

仕事も育児も女性としての自分自身も、全て犠牲にすることなく楽しく両立し、幸せであり続ける方法は必ずある――そう考えた私は妊娠期間中、「自分を犠牲にしない育児戦略」を立てることにまるまる費やした。そして出産後はその戦略に基づいた独自の育児法を実践してきたのである。

■「自分がしたいときだけする育児」が基本スタンス

私の育児スタイルは、現代の日本の子育ての常識からすると特殊に思われることが多いと思う。なにせ出産直後から現在に至るまで「自分がしたいときにしか」育児をしてこなかったのである。

私がこの発想にたどり着いたのは、主に海外の育児本や育児論を読み漁っていた頃だ。日本と世界では、子育て事情や子どもに対するスタンスが正反対といっても良いほど異なる。日本ではあたりまえとされている「母親が自己犠牲し、あれこれと子どものお世話をする育児」というのは、むしろ海外では非常に特殊な子育ての方法だった。そう知ったとき、私の中での「一般的な母親像」はドンガラガッシャーン! と轟音をたてて崩れていった。

たとえば欧米では、生後間もない赤ちゃんであっても「意志を持った一人の人間」として扱う。「赤ちゃんは自分に必要なことを全て自分でわかっている」と考えられているので、日本のように数時間おきに決められた量の授乳をしたり、夜に寝かしつけをしたりはしない。食事も睡眠も、赤ちゃんは自分に必要な分量をすべてわかっているから、すべて本人に任せれば良いという考えなのだ。

むしろ「大人があれこれ手をだすのは、子どもの成長を奪う行為」とすら考えられている。子どもは一人で工夫して考え、学び、試行錯誤しながら成長する。本当に必要なとき以外、大人はなるべく手を出さないほうが良い。そうして自立を促すのが、真の教育であると考えられているのだ。ちなみにこれは数年前に『嫌われる勇気』で一世を風靡したアドラー心理学や、優れた教育機関で採用されているモンテッソーリにも共通した教育方針であり、世界中で専門家や教育熱心な親からの絶大な支持を受けている。

私もこの教育方針にあやかり、子どもを寝かしつけたりあやしたりしたことが一度もない。しかし娘は生後3週間から、8時間通して一人で寝るようになった。また少しくらい泣いても「泣きたいときもあるよね」と放っておくと、1分も経てば勝手に泣き止む。そして食事や遊びに関しても、なるべく手を出さずに「一人でさせる」ということを徹底してきた。
私は、自分の気が向いたときだけ遊ぶ。世間一般的な父親のような感じである。平日の平均的な育児時間は1時間にも満たないだろう。その結果、現在1歳4ヶ月になった娘は一人でおとなしく食事し、一人で楽しそうに遊び、服も自分で脱げるし、毎日眠くなったら勝手に寝室に行き一人で寝るという、びっくりするくらい手のかからない子に育った。しかしこれは欧米ではスタンダードな一歳児の姿らしい。

対してアジアは少し異なる。共働きの家庭はベビーシッターや住み込みのナニーを雇い、育児と家事を一任するのが一般的。そればかりか子どもの頃は祖父母や親戚、乳母(つまり他人)などに預け「両親とは離れて暮らす」のも決して珍しいことではない。では両親は何をするのか? というと、お金を稼ぐのである。お金を稼いで、可能な限り高水準な教育を子どもに受けさせる。これこそが一番の愛情表現だとアジアの多くの国では考えられているのだ。だから「お母さんと一緒にいられなくて可哀想」などという発想は皆無で、むしろ将来のための高等教育を受けられないことのほうがはるかに可哀想だと考えられており、親は「子どものために」子どもの世話をしない、これこそが最上級の愛情表現なのである。

このように各地域で形の違いこそあるものの、フルタイムの仕事を持っている母親が自分を犠牲にして家事も育児もすべてこなす国など、世界にはほとんどない。世界どころか、日本の歴史上でもほとんどない文化だろう。「子どもを育てる専業主婦」なんていう生き方は、私たちの母親やその親世代に限定した、せいぜいこの50年ほどの間に存在するとても特殊なライフスタイルだ。ハッキリ言ってしまえば、そもそも仕事と家事・育児を両立しようなどという発想自体、無理だということである。

■母親が幸せでいると、夫や子どもも幸せに過ごせる

「母親が育てないと愛情不足になる」などと日本ではよく言われるが、じゃあ日本人が世界的に見て特別に愛情に溢れているのか? 欧米やアジアの人たちは皆、日本人に比べて愛情不足に育ってしまっているのか? と考えたら、絶対にそんなわけはないと思う。というか個人的にはむしろ日本人よりも家族愛にあふれた人が多い気すらする。そもそも日本人であっても、皇族や資産家などでは乳母が育てるのが一般的なのだ。大切な跡継ぎだからこそ、母親ではなくプロがきちんと育てるというのは、とても理にかなった判断だろう。

そんなわけで私も娘が3ヶ月くらいのときから、自分の仕事や仕事につながる遊びの予定は一切犠牲にせず、KIDSLINEのベビーシッターサービスなどを利用し頻繁に子どもを預けていた。一番多いときで週4くらい預けていたし、一歳になったらすぐにフルタイムの保育園に入れた。昔から人に預けられ慣れている娘は、誰に預けてもほとんどぐずることがないし、ベビーシッターなど「プロの保育者」に預けられることで、知能も発達してきたように思う。

こうして「なるべく手をかけず自分が楽をできる」育児を徹底した結果、私は子どもが生まれてからの1年4ヶ月という間、育児が大変だと思ったことも、子どもにイライラしたことも一度もない。家事をすべて外注しているのも、イライラがない原因のひとつだろう。子どもがどんなに服を汚そうが散らかそうが、私が洗濯や掃除をするわけではないので気にもならない。だから娘は私にも夫にも怒られたことがないし、怒られるという発想すらないと思う。そのせいかはわからないが、娘の精神状態はいつでもかなりの高め安定である。月齢にしてはとても自立した子に育っていると、シッターさんにも保育士さんにもしょっちゅう褒めていただく。

そして私は子どものお世話をしない代わりに、夫との愛を育むことには一切妥協してこなかった。私は夫の愛を常に感じて幸せでいること、そして愛の素晴らしさを娘に伝えることはとても大事だと思っているので、夫との関係性は最重要視している。私たちは娘が3ヶ月になる頃から、最低でも月2回はベビーシッターに子どもを預け、二人でディナーを楽しんだり映画を観に行ったりと、デートは欠かさない。

我が家では保育園の送り迎えも子どものお風呂もすべて夫がしてくれている。毎月、夫に子どもを任せ国内外への一人出張もしているが、これも「私が幸せでいられること」を一番に優先してくれる夫のおかげである。

というのも「母親が最高に幸せでいるのが、夫や子どもを最高に幸せにする方法」というのが私の持論であり、この考えを夫にも周知徹底しているからだ。自分の子ども時代を思い返せばわかるが、夫にとっても子どもにとっても一番つらいのは、妻であり母であり家庭の中心である女性がしんどそうなことだ。だから母である自分の幸せを最優先することが、結局は家族全体の幸せにつながるのであり、母たるもの、まずは自分の幸せを貪欲に追求すべきだと私は考えている。

仕事も家事も育児もがんばり、自分を犠牲にして貢献している母親の姿は一見素晴らしいように見えるが、実は社会のためにならない、自己満足な生き方なのではないかと思う。今、少子化や晩婚化が進んでいる原因は、現在既婚者であり母である大半の女性が「つらそうにしている」からだ。たとえば、ワーキングマザーのワークライフバランス問題。私は子育て中の母親は、もっと傲慢に自分も子育ても犠牲にしないですむ働き方を追求すべきだと思っている。ロールモデルがいないと嘆いたり、横並びに変な遠慮をしたりせずに、「勤務時間も仕事量も2/3になったけど、収入はそのままがいい!」などと“嫌われる勇気”を持って自己主張していくことが、次の世代につながり、ゆくゆくは会社全体や社会全体の持続可能な発展につながるのである。

母親になったからといって、自分らしさを捨てる必要はどこにもない。子どもがいることを言い訳にして、自分の人生を放棄してはいけない。世の母親みんなが「自分らしい幸せな子育て」を、人の目に左右されたりすることなく貪欲に追求することこそが、次の世代への希望へとつながるのだ。それが多様性を認める自立した社会へと変えていくことにもなる。

私の「母親になっても何も諦めない育児スタイル」については、はまだまだ「新しい」とか「斬新」と言われることのほうが多い。しかし、世の中の常識なんて簡単に変わるものだ。数年後には私のような母親像がごく一般的になっていると信じているし、そのためにこれからも全力で活動をしていきたいと思っている。私一人の力は本当に微々たるものだけれど、私の考えに賛同してくれた女性の一人ひとりが、勇気をもって自分だけの人生をワガママに切り開いていくことで、社会を変える力になる、それが日本を発展させる道だと、私は本気で考えているのだ。

最後に、私が大好きな『嫌われる勇気』の一節で締めくくりたい。
「誰かが始めなければならない。他の人が協力的ではないとしても、それはあなたには関係がない。私の助言はこうだ。あなたが始めるべきだ。他の人が協力的であるかどうかなど考えることなく」

この記事のライター

株式会社アドラブル代表。女性の魅力を覚醒させる講座や各種セミナーの主催、新時代のワーキングマザー像を提唱する執筆・講演活動などに幅広く取り組んでいる。一児の母。趣味は美味しいご飯とお酒と共に、夫や友人と人生について語り合うこ...

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