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恋愛は嗜好品か実用品か【甘糟りり子の生涯嫁入り前】

実用的な恋はかっこわるい?あれはまだ二十代の頃。私は都心の小さな部屋で一人暮らしをしていた。恋愛未満、みたいな相手がいて、夜中の長電話がデートの代わりだった。

恋愛は嗜好品か実用品か【甘糟りり子の生涯嫁入り前】

「ねえ、あなたは、本当に恋人が欲しいって気持ちはあるわけ?」

好き勝手に気ままな生活を送る私に、彼はそう聞いてきた。

「まあねえ。今みたいなことがあると、側に誰かいたらいいなって思う」

今みたいなこと、というのは地震。震度3とか4とか、それぐらいの。阪神淡路大震災や東日本大震災が起こる前で、正直なところ、地震の本当の怖さはわかっていなかった。私の答えは、あいまいな関係をそのまま保存するためのいいわけ。彼はいった。

「がっかりしちゃった。そんなかっこわるいこという人だと思わなかった。そんなんじゃあ、いい女になれないよ」

ぐさっときた。私、そんなにダサいこと、いいました?

彼いわく、恋愛相手を、さびしさを埋めるためとか、不安の解消のためとかで選ぶのはいけない、そういうのは、本当に相手にひかれているわけではない、そうだ。ちなみに、セックスや財力で選ぶのはOKなんだと。けっこう独特な世界観&価値観の持ち主だったので、それに触れる度に私はとまどったり反省したり。なかなか斬新な経験だった。

いい年の大人になった今、あの時、彼がいいたかったことが理解できる。
つまりは、実用で恋愛するな、ということ。恋愛こそ、最たる嗜好品であれ、なのだ。

若い頃に受けたこの助言が効いたのか、元々そういう素養があったから彼のような変わり者と仲良くなったのかは不明だけれど、私の今までの恋愛経験(あまり多くはないですが)は、おそらく「嗜好品」的なものだったと思う。

安心してリラックスできる場所=恋人、なんかではなくて、振り回されたり甘えられたりして疲れるけれど、やっぱり他の人じゃ代用できないなあと思う瞬間が、ごくたまにある、というようなもの(断っておきますが、その瞬間って必ずしもセックスがらみのことじゃないですよ)。そういう瞬間って、ほんとにキラキラして見えるんだよねえ。(←遠い目)。

しかし……。

私は間違った選択をしてきたのではないだろうか。そんなことを考えるようになったのは、やっぱり、311以降である。

東日本大震災以降、結婚したいと思う人が急増したという。その気持ちはよくわかる。地震が起こった時、私は海沿いの仕事場で一人だった。いきなり停電になり、夜までそのままで、世の中の状況がまったくわからず。津波警報だけが響き渡り、不気味な空気に包まれていた。心配してメールをくれた人が救世主のように思えた。

あの日に限らず、不安な時や人手がいる時、病気になった時に何より一番に自分を思いやってくれる&助けてくれるとか、落ち込んだ時に愚痴をいい合えるとか、年末年始や誕生日やクリスマスといった節目に一緒にいてくれるとか。書き出してみると笑っちゃうぐらい当たり前のことでも、それが実用性のある相手なんだろうね。生活がスムースに送れる、というか。

嗜好品として味わい深い男性は、そういう当たり前のことがなかなかできない人が多いように思う。残念ながらね……。

思想だとかセンスだとか知識だとか会話の面白さだとか、本や映画の趣味が同じだとか、そんなことは実用性の前ではとるに足らないもの。ましてやキラキラした瞬間なんて、そんなものでお腹がいっぱいにはならないし、寂しさだって埋まらない。もう、少女漫画か! って感じである。

現実は漫画でも映画でも小説でもなく、生活の中でエンドロールは流れない。キラキラした瞬間は、決して積み重ならないのだ。さらさらと流れるばかりで、だからこそ美しく見える。あ、また、少女漫画になってる。

私、迷っております。 
このまま都会の浮き草をまっとうして(住んでいるのは海沿いだけどね)、キラキラを追いかけていくか。いい加減目を覚まして、年齢に相応しい実用的な恋愛を捜すよう方向転換するか。

おっと、その前に、まず相手を見つけましょうという声が聞こえてきました。嫁に行く日は、まだまだ遠いみたいね。は〜。

Illustration / Yoshiko Murata

DRESS APRIL 2014 P.25〜

甘糟 りり子

作家。都市に生きる男女と彼らを取り巻くファッションやレストラン、クルマなどの先端文化をリアルに写した小説やコラムで活躍中。『産む、産まない、産めない』など著書多数。読書会「ヨモウカフェ」主宰。公式ブログ http://ame...

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