\八木奈々さんの過去記事はこちらから/
・「わたしの一部は本でできてる。『モモ』に教わる命のこと【TheBookNook #1】」・「暑い夏には熱い物語を。【TheBookNook #2】」
・「行きたい国に思いを馳せて【TheBookNook #3】」
・「疲れた心と共に、本の世界へ飛び込む。【TheBookNook #4】」
・「忙しない日々に、心を満たしてくれる日本の児童文学を。【TheBookNook #5】」
・「秋の夜長を味方に。【TheBookNook #6】」
暑さも落ち着き、少しずつ凌ぎやすくなってくると、読書にぴったりの季節がやってきます。連載「TheBookNook」Vol.6では、毎年この季節になると読みたくなる“秋”の名作をご紹介。今回、八木さんが選んでくれたのは、初秋から晩秋までいろいろな秋の表情をぞんぶんに味わえる三作です。ぜひ手にとって、特別な秋の想い出を。
“読書の秋”とはよくいいますが、ひと口に“秋”といっても、初秋から晩秋まで、秋の見せてくれる表情はさまざまです。
どこか甘く切ない爽やかさ、深まっていく紅葉に彩られた美しさ、そして侘しさ(わびしさ)や物悲しさ……小説のなかの秋はいつも饒舌過ぎるほどに印象的です。
写真はイメージです。
今回は時間を忘れて物語に浸れる、飽きがこない名作を紹介させていただきます。
せっかくの秋。時間がたっぷりある秋の夜長にこそ読みたい、心惹きこまれる、あなただけの物語を見つけてみてください。
北から南へ、そして南から北へ。人や場所がどんどん変わり、まるで短編集のような装いがありつつも確かに繋がっていく筒井康隆ワールド全開の本作品。
ひたすら旅が続くかと思いきや途中さらっと明かされる目的、最後に向かう旅の終着点、そして人生……。読み進めながら芽生えた感情が指の間をすり抜けていくような不思議な感覚の文体が癖になります。
30年近く前に出版された作品ですが、全くそれを感じさせません。密度の高いこの物語。深い余韻と共に本を閉じたとき、その本の薄さにあなたもきっと驚くはずです。
青春小説の代表作ともいわれる今作品。人間の複雑な感情と存在の意味に思いを馳せさせ、孤独と希望が交差するクライマックスまで読者を引きずっていく、“永遠の青春小説”です。
恩田陸の緻密な描写と深みのある文体、哲学的なテーマが語彙力豊かな読者にさえも訴えかけてきます。登場人物達それぞれの抱える想いや悩みが交差し、その歩みが進むにつれて、物語も一歩ずつ進んでいきます。
苦痛だが終わってほしくない青春と、覚えのあるはずのない日常に触れ、きっとあなたも本を閉じた後、表紙の“黒”が嘘みたいに眩しく見えることでしょう。“戻れない”って美しい。
“辞書”の完成に向け、奮闘する辞書編集部を舞台にした本作品。“言葉”という絆を得て、登場人物達の人生が優しく編み上げられていきます。
難しい言葉もあり、久しぶりに辞書を引き、メモしながら読み進めました。登場する一つひとつの言葉が多様な意味を持ち、豊富な解釈に富み、時代によりその色さえも変えていきます。不器用な主人公を応援せずにはいられず胸が熱くなりました。
さらにこの作品を通して日本語の奥深さと曖昧さ、美しさを再認識でき、人生の早い段階で出会えて本当によかったなと思える作品でした。もはや愛おしい。
今回の記事も楽しんでいただけましたでしょうか? じっくりと本の世界に没頭することは、ストレス解消にもつながります。少しセンチメンタルな気持ちにもなる長い秋の夜には、日常を忘れて、どっぷりと浸れる物語を手に取ってみませんか?
あなたにぴったりな一冊が見つかりますように。
この連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。
一冊の本から始まる「新しい物語」。
「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
▼前回ご紹介作品▼
「忙しない日々に、心を満たしてくれる日本の児童文学を。【TheBookNook #5】」
1『銀河鉄道の夜』宮沢賢治
2『ごんぎつね』新美南吉
3『二分間の冒険』岡田淳
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