1. DRESS [ドレス]トップ
  2. 恋愛/結婚/離婚
  3. 「女はかわいく」なんて誰が決めたの? リリーが教えてくれたこと

「女はかわいく」なんて誰が決めたの? リリーが教えてくれたこと

映画『男はつらいよ』シリーズに登場する、旅回りの歌手リリー。「女はかわいげが大事」「愛されて結婚するのが女の幸せ」という思い込みを取り払ってくれた彼女の言葉、そして生き方とは。マドカ・ジャスミンさんのコラムです。

「女はかわいく」なんて誰が決めたの? リリーが教えてくれたこと

私がこの記事を書くことになった経緯は、元パートナーが毎日観続けていた「男はつらいよ」シリーズの15作目、浅丘ルリ子演じるリリーのとあるセリフに端を発している。

「女がどうしてかわいくなくちゃいけないんだい」

衝撃を受けた。

歴代のマドンナたちの中でも一際派手な出立の彼女は、海を見ながらタバコをふかす。その姿はまるで新しい時代を象徴しているかのよう。会ってすぐ意気投合した寅次郎に言う、自分たちの生活はアブクのようなものだと。夜になると、リリーは髪型と服を変え、歌手としてステージに立つ。その姿はまるでお人形のよう。しかし、そう表すと私はリリーに怒られるかもしれない。

■「女が幸せになるには、男の力を借りなきゃいけないとでも思ってんのかい」

誰に対してもあっけらかんとした態度。凛として、気丈な振る舞いをしている反面、チャーミングな笑顔とふと垣間見える少女性に思わずどきりとしてしまう。

美しく、強い。天真爛漫。
一見難なく人生を進められそうなのに、自分の意思に真っ直ぐで無難な道を選ばないのがリリーだ。

「何百万べんも惚れて、何百万べんでも振られてみたいわ」

「惚れられたいんじゃないの、惚れたいわ」

「寅さん、燃えるような恋をしたいーーー」

そんな言葉を言い放つ彼女は、シリーズを通して見事なまでにそれを体現している。

シリーズ初出演作『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』では、好い仲になった寅次郎と些細なことで喧嘩をし、行方をくらませたかと思えば、寅次郎宛になんと「歌手を辞め寿司屋の女将を始めた……結婚した」と葉書をよこす。そして、寿司屋に出向いた寅次郎の妹さくらに「あたし、本当は(夫より)寅さんのほうが好きだったのよ」と言ったかと思えば、数年後には離婚をし、また流浪の身に戻る。

シリーズ15作目である『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』は、サラリーマンの兵藤と共に北海道を旅していた寅次郎が、函館のラーメン屋で偶然リリーと再会するところから始まる。3人での旅の途中、小樽に住む初恋の女性への未練を口にする兵藤。「僕はたったひとりの女性すら幸せにしてやることもできない」とつぶやく兵藤に、リリーはこう投げかける。

「キザったらしいねえ。言うことが」

「幸せにしてやる? 大きなお世話だ」

「女が幸せになるには、男の力を借りなきゃいけないとでも思ってんのかい」

「笑わせないでよ」

女の幸せは男次第じゃないのか? と問う寅次郎を初耳だねと言い、さらにかわいげがないねとボヤく彼へ、前述のセリフを言い放つ。

「女がどうしてかわいくなくちゃいけないんだい」

時代を考えるとなおさら、このセリフに強い責任感と衝撃を感じる。

■「素直でかわいい女」にならなければいけないと思っていた

この映画の公開当時、1975年前後の女性像を振り返ってみる。女性の大多数が結婚をし、専業主婦となる時代(※)。仕事をしながら子どもを育てることはおろか、仕事一本でひとりで生きていくのは今以上に困難な道だったことは想像にたやすい。

「男はつらいよ」

今の私たちに映るイメージと当時の受け取り方には大きな差があるように思う。「女の幸せは男次第」という寅次郎のセリフには、今でこそ時代錯誤の様子を伺うことができる。しかしリリーの登場までは、同作品のヒロインを含め登場する女性たちは「男次第の人生」を送ってきているように見える。それでもリリーはその渦の中を、自分の感情に素直に、実直に生きたのである。現代の人間よりも、当時これを鑑賞した人は一層励まされたのではないかと思う。

かくいう私は、自他共に認めるほどかわいげがない。男性視点で“かわいい”の条件としてよく挙げられるような「か弱く、素直で、従順」というタイプではなく、好きな人にほど天邪鬼になってしまったり、不器用なために空回りをしてしまったりする。そもそもうまく表現ができないのなら最初からしなければいいと思い、好きな人へのアプローチがヘンテコになってしまった経験もザラにある。

男性に愛されるような「素直でかわいらしい女性」にならなければいけないと思っていたし、そうなれない自分に苦しさを感じていた。

しかし、数十年前を生きていたリリーはその考えさえも笑い飛ばしてくれたのだ。別に男性のためにかわいげを身につけなくてもいいと許可を下ろしてくれたのだ。意外にも、現代でここまで真っ向から“かわいげ”についてばっさりと言い切れるキャラクターは思い浮かばない。

寅次郎と喧嘩をしても、再会したときに抱きついて素直に謝るリリーは魅力的だ。でもそれは「男性のためにかわいくあろう」としているわけではない。好きな相手(寅次郎)の前で、自分の感情に素直に振る舞っているにすぎないのだ。

■女の幸せもひとつじゃない

その後もシリーズを通して最も出演回数の多いリリー。寅次郎とは、「傍目には夫婦のような付き合いなのに本人たちは付かず離れずを繰り返す鳥のようなふたり」という関係が続く。

令和を生きる私ですら縛られていた「愛されて守られ結婚するのが女の幸せ」という価値観。リリーは、その生き方を通じて「そうじゃなくてもいい」と教えてくれた。

結婚観は人それぞれで、もちろん「愛されて結婚するのが幸せ」という考え方もある。ただ、リリーという存在はその価値観を改めて考える機会を与えてくれる。一部の人たちが言う「かわいげ」を身につけられなくても、「結婚」という制度にうまくハマれなくても、自分の意志で結婚という選択肢をとらずに生きることもできる。そんな生き方も視野に入れやすくなるのではないだろうか。

“女性の幸せ”は一括りではないし、そもそも一括りにしてはいけない。それは自分に対してもそうなのだ。

(※)1975年の女性の未婚率は、25〜29歳で20%以下、30〜34歳・35〜39歳はそれぞれ10%以下。2015年はそれぞれ61.3%、34.6%、23.9%。(「平成29年版 少子化社会対策白書」より)また、1980年は専業主婦家庭が共働き家庭の約2倍となっている。(「平成23年版 厚生労働白書」より)

「平成29年版 少子化社会対策白書」https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2017/29pdfhonpen/pdf/s1-2.pdf
「平成23年版 厚生労働白書」https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/11/dl/01-01.pdf

マドカ・ジャスミン

持ち前の行動力と経験を武器にしたエヴァンジェリストとして注目を浴びる。また性についてもオープンに語る姿が支持を集め、自身も性感染症防止の啓蒙活動を行う。 近年では2018年に著書「Who am I?」を刊行。テレビ番組や雑誌...

関連するキーワード

関連記事

Latest Article