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初デートを前に眉毛を整えたかった私と反対した父

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10年近く使っていたシェーバーが壊れて、ハッとしたマドカ・ジャスミンさん。当時父親が買ってくれたもので、彼のあまりにも不器用な愛情表現を思い出したといいます。それは面白いことに自分にも受け継がれている——。父への感謝の思いとコミュニケーションを綴ります。

初デートを前に眉毛を整えたかった私と反対した父

「あっ」

およそ10年使っていた眉毛用シェーバーの付け刃部分がとうとう折れた。

「まあ……こんなにもなって使えていたのがすごいわ」

本体に印されているロゴは剥げ落ち、色も全体的にくすんでいる。端的に言えば、ボロボロ状態以外の何ものでもない。いつか壊れるだろうと思っていたはずなのに、いざ予想外のタイミングで壊れてしまうと胸の中に何だか寂しさが広がる。

もう自身の役目をまっとうできないそれを眺めながら思い出すのは、確か10年前の夏。大手家電量販店で陳列された眉毛用シェーバーたちを申し訳ない気持ちで眺めている私とどこか機嫌の悪そうな父親の姿だった。

「こんなの、本当に必要なのか?」

少しばかり怒りや苛立ちを感じさせるような声と眼鏡越しの鋭い眼光。私が父親を心の中や友人に“インテリヤクザ”と表する由縁だ。ただただ休日の昼下がり、親子水入らずでの買い物中とは思えないような声色と表情をしている父親は驚くことに平常運転だった。

「うん……安いのでいいから」

今なら「これがいいーー!! ありがとーーーー!!!」とキャバ嬢よろしくな返しができるけれど、当時の私はおどおどとしながら彼の顔色を伺うことしかできなかった。

溜息交じりに私の言葉に了承してくれた父親と共にレジへと向かう。私の手には、眉毛用シェーバー。陳列されていた商品の中で一番安かったものだ。無事に購入へと至り、「大事にしろよ」とレジ袋に入ったそれを手渡されると、うれしい気持ち以上に申し訳なさを感じながら、俯きがちにつぶやく。「……ありがとう、父さん」。

小学4年生直前の小学3年生の3月、私の両親は夫婦でいるのを終えた。奇しくも、彼らが結婚をしたのはその年の10年前で、始まりも終わりも春という無駄なほど演出が光る形となったわけだ。そこから紆余曲折あり、私も弟も父親のもとで生活することになった。これにて、晴れて父子家庭デビュー!

元々子ども……特に私には自他共に認めるほどベタベタに甘かった父だが、甘やかし担当と厳格担当を兼任をせざる得なくなってしまってからは、度々そのバランスが取れていないようにも見えた。それはそうだ。弟はまだ小2。思春期に突入した娘は登校拒否。離婚前ならば、ただ甘やかして気分転換などをさせていれば良かったものの、「子どもたちを真っ当に育てる責任を一身に背負ってしまっている以上、甘やかしてばかりじゃいけない」と彼は強くそう思っていたのだろう。そんな想像は容易につく。

そうはいっても、他の家庭よりはいろいろなものを与えてもらっていたのも事実だ。彼自身が後々、「お前と弟に構えない時間の分を物で埋めていた」と語っていた。誕生日やクリスマスのプレゼントは当たり前で、服や靴に鞄も「欲しい」と言えば買ってもらえた。小学校高学年からは、基礎化粧品やブラジャー、生理用品などももちろん買ってくれたし、何ならボディクリームなどは今よりも高価なものを使っていたぐらい(当時はTHE BODY SHOP、今は白ワセリン)。

でも、毎回毎回快く買ってくれたかと言えば、それもまた違ってくる。むしろ10回中7回は「これが欲しい」に対し、冒頭で書いたような表情をされていた。それと比例して、私もまた冒頭のような態度になっていたのだから、今思い返せば昔の買い物は楽しいというよりも、苦しい感情の方が強かったのかもしれない。

もし私がこの事実と記憶から何も解釈せず、ひとつの思い出として今を生きていたなら、父親をこう罵っていただろう。「私の意志をネガティブに受け取りやがって!」「お金を使うことを悪だと認識させるな!」「別に必要ないものは頼んでいなかったのにこの野郎!」。なんてひどい言葉の数々。

幸いにも、私は過去を再解釈し、認知の歪みを正す術を得れた。言葉を鵜呑みにしがちだという自分の特性を知ったことにより、相手の性格や状況を考慮し、どういう思考のもとで言語化したのかを考察。そうして、過去のあらゆる出来事の再解釈を図っていった結果、負の感情を父親に向けずに済んでいるのだ。

あくまでも私の中での仮説だが、父親は怖かったのだ。“女性”になっていく娘の私が。

愛していた妻に似ていて、姉妹もおらず女の子の育て方も分からない。働きながら小さい子どもをふたりも抱えて、心身共にどんどん成長していく。言ってしまえば、そんな極限状態の中で子どもから徐々に大人になっていく娘とどう接していいかと悩んだ夜もあったに違いない。

でも、彼はそこで私というひとりの人間を否定はしなかった。だからこその冒頭の表情だったのだと、時を経てやっと気づけた。

何でもかんでも与えたら、将来良くない方向に進んでしまうかもしれない。他の子たちよりも甘やかしているかもしれない。無駄に大人ぶらしてしまうのは良くないかもしれない。

そんなさまざまな感情が渦巻きながら、時にぶつくさ文句を言ったり、インテリヤクザな表情を浮かべたりしながらも、最終的には娘の希望を叶えてくれていたのだ。


そのあまりにも不器用な愛情表現は、面白いことに娘へと受け継がれてしまった。壊れてしまったシェーバーを買い換えようと開いたAmazonを見ながら、テレビを観る同棲中の彼に問う。

「前欲しいって言ってたやつ、安くなってるけどいる?」「注文するから、いるなら早く選んで」

そのぶっきらぼうな口調はあまりにも父親そっくりで、思わず笑ってしまった。

父さん、昔も今も、ありがとう。

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マドカ・ジャスミン

持ち前の行動力と経験を武器にしたエヴァンジェリストとして注目を浴びる。また性についてもオープンに語る姿が支持を集め、自身も性感染症防止の啓蒙活動を行う。 近年では2018年に著書「Who am I?」を刊行。テレビ番組や雑誌...

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