デート後のお礼合戦を愉しむために心がけたいこと
楽しいデートのあと。余韻に浸る時間に届く、お礼のメッセージ。何年経ってもそのときのデートを思い出せるようなメッセージとは、どんなものなのでしょうか? 26歳で離婚後、数々のデートを重ねてきた編集者・藤田華子さんが語る、愉しいデートについてのめくるめく考察。
■いまも余韻に浸る、あの歌
デートから何年も何年も経ったいまでも、読み返すたびに当日を鮮明に思い出すメッセージをいただいたことがあります。楽しかった高揚を真空パックさせたようなメッセージ。
それは、南国に拠点を置く作家・Nさんとのデート。
久しぶりの再会がうれしくて、お互いの近況報告から始まり、最近どんな映画を観たかとか、引っ越すならばどの街で暮らしたいかとか、他愛もない話をしました。
そのなかで私は、歌人の若山牧水が好きだと言ったんです。坊主頭に凛としたルックスも、作品も、すごく魅力的。もし平成のこの世で、短歌を送ってくださる男性がいたら感激してしまうなんて。
その日はいい加減に飲んで、たしか赤坂で3軒くらいハシゴしました。最後は、脂ぎった料理を出す雑多なアジアン屋台風の店で、やけに大きな餃子をつつき、紹興酒を飲んだ。『千と千尋の神隠し』みたいだねって笑いました。そして改札で握手をして、それぞれの帰路へ。
翌日、私はかすかに二日酔いの頭で、お礼を送りました。Nさんが「カラオケで歌ったらきっと似合うよ」と教えてくれたちあきなおみの曲を、次回までに練習しておきますという宣言も添えて。
そうしたら、すぐにこんなお返事が届きました。
「今夜には 南の夏に戻るとも しばし共にぞ 東の秋風」
二日酔いの頭に、爽やかな風が吹き抜けます。
何を話したとか、何がおいしかったとか、あれは笑えたねとか、そんな光景をこの歌は、ぜんぶぜんぶ閉じ込めてしまっている。たった5・7・5・7・7の31文字で。
余談ですが、世界富豪ランキングの上位に入るAmazon CEOのジェフ・ベゾス氏は、食事のあとの皿洗いがお好きだそうです。「私がすることの中で最もセクシーなことだと、確信している」とまで語っている。生活のなかで取るに足りないお皿洗いという行いが、捉え方ひとつで急に素敵なものに思える。
このエピソードを知ったとき、私は短歌と似ているなと思ったんです。ふだん何気なく使い、日常に溶けている言葉が、31文字で詠まれると急に輝きを増すから面白い。そんなことを、たしかデートでも話しました。
こうしてあの歌を思い出すたび、あの夜は、私の人生において特別な時間だったといまだに浸るのです。
■これって定形文!? 別れて10秒後に届くお礼メッセージ
一方で、毎回、びっくりするようなやり方でお礼を送ってくださる方もいます。
彼は、IT、Web系のベンチャー勤務。
会話のテンポも子気味よくて、とにかくスピード感がある。
2軒目のバーのあと、家の近くまで送るよと言っていただき、「ありがとうございました」ってタクシーを降りる。
ニコニコ笑顔で見送り、車両が信号を右折、気を抜いた次の瞬間に、ピロリン!
毎回、光の速さで「今日は楽しかったです。次は、さっき話していた焼き鳥を食べに行きましょう!」ってメッセージを送ってくださるんですよ。
ものの10秒前に別れたばかりなのに!
たしかにこの方、デートを取り付けるためのやり取りも超ハイスピード、最低限のラリーで日時、お店が決まります。
彼と同僚の友人がいるのですが、その人もレスがとにかく早い。そして正確で、効率的。
ご本人に伝えたら「社風かもしれないですね、指摘されるまで気づかなかった。ちなみに定型文なんて用意してないからね(笑)」と、心を読まれてしまいました。
四六時中仕事のことを考えているような方なので、お礼のメッセージを送る行為は「無事に送り届けた! 帰って仕事するぞい!」という、現実へとスイッチを切り替えるためのものなのでしょう。こうやって人間が垣間見える瞬間を重ねるのがデートの醍醐味ですし、その人のスタイルは、できるだけ尊重したいと思います。
とはいえね!
ちょっと寂しさもあるんですよ。
楽しかった時間に、そんなに早く蓋を閉めないでって。余韻に浸るのも、またデートの一興です。
■日常に、栞を挟むようにお礼を送ろう
モテ本や恋愛メディアには、「お礼のメッセージでは必ず、次の約束を取り付けましょう」なぞ書いてありますが、それはテクニックのお話で、心を置いてきぼりにしてはいけません。
相手が余韻に浸りたくなるようなメッセージって、どうしたら送れるのでしょうか?
大げさかもしれないけれど、きっとその言葉は落ち込んだときの光にもなりえるほどのパワーを宿しているのではないかと思うんです。私も大切な人に、そんな言葉を送りたい。そう考えているうちに、また作家のNさんとデートに行く運びになりました。
ほんっとうにあの短歌がうれしかったと伝えたら、彼も喜んでくれて。
Nさん「空港のロビーで作ったんだよ」
私「デートのあとは、いつも格好良い言葉を送るんですか?」
Nさん「そんなつもりはないけど(笑)。ボクは何でもすぐに忘れてしまうから、日常に栞を挟む感覚だね。日記と似てる」
私「こんなことがあってうれしかったとか、書くのと似てる?」
Nさん「そうそう。過ごした時間に似合うよう、美しかったり、華やかな言葉で。読み返したときに、そうだ、ボクはこの日にこんなことを思っていたって蘇るでしょう?」
私「じゃあ、お相手のためだけではないんですね。自分の人生を彩るためでもある?」
Nさん「もちろん。お互いの人生が、この日に交差したという印だよ」
相手に気に入られるために、相手にインパクトを残せるように……恋愛は不確定要素が多いものですから、ついつい打算的になってしまいがちです。
でも目指したいのは、お互いにとって居心地の良い関係。”相手のため”と”自分のため”が両立するスタンスです。
「自分のための日記をつけるような気持ちでお礼を送る」というヒントは、私の心にすとんと響きました。
だからたとえば、タイミングを気にしすぎないということもひとつの提案です。先程述べたように余韻に浸りたいときもあるんだから、その日は最低限のお礼を送り、もっと話したいなと思ったら翌日に踏み込んだメッセージを送るとか。もっと先、相手を思い出した瞬間に、改めて連絡を取るとか。
そう思うと、形式的なお礼合戦も愉しいものに思えてくるのではないでしょうか?
クリスマス前、デートも盛り上がるこの季節。
満ち足りた気持ちで帰った日は、今日という良き日に栞を挟むよう、お礼を送ってみてはいかがでしょうか。
編集者、エッセイスト。休日はお湯に浸かって読書か場末の飲み屋。将棋、竹原ピストル、江國香織が好き。ベリーダンサーの時は別の名。