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「さみしさを感じるのは『弱いから』じゃない」 Dr.ゆうすけさんインタビュー

DRESS9月特集は「ひとりの夜に」。ときおりふと浮かんでくる「ひとりはさみしい」という気持ちに、私たちはどう向き合えば良いのでしょうか。メンタルヘルスをライフワークとする内科医、Dr.ゆうすけさんに聞きました。

「さみしさを感じるのは『弱いから』じゃない」 Dr.ゆうすけさんインタビュー

ひとりの時間は考えを深め、自分だけの世界に浸れる豊かな時間。

でも、ひとりでいると、さみしい人と言われることもあるし、「おひとりさま」の言葉のように、みんなと一緒にいられないちょっと変わった存在と見られることも。

ひとりがネガティブに思われるのはなぜなのでしょうか。ひとりでいることと私たちはどう向き合い、フラットに捉えることができるのでしょうか。

メンタルヘルスをライフワークとし、日々さまざまな人の「生きづらさ」に向き合う内科医のDr.ゆうすけさんに伺いました。

Dr.ゆうすけさん プロフィール

メンタルヘルスがライフワークの内科医。身近な人の「死にたい」や「生きづらい」と触れあって感じたものをことばにするのが趣味。noteマガジン「月刊・自己肯定感」更新中。

■「ひとりはさみしい」という価値観はどうやって生まれる?

ーー私たちが「ひとり」を恐れたり、さみしいなと感じてしまうのはなぜなのでしょうか?

まず、「誰かとつながりたい」と思うのは、生物学的に見れば自然な反応なんです。人同士が繋がっているほうが外敵から身を守りやすく生き残りやすいから、「群れなさい」と遺伝的にプログラミングされている。太古の時代に形作られた本能が、今の時代にそのまま残っているということですね。

ひとりが怖い、さみしいと感じるのは、人にもともと備わった「つながりたい」という気持ちに反した状況を不快なものと認識するからです

ーーおかしなことではないのですね。なんだかホッとします。

ただ、孤独の感じやすさには個人差があります。

先ほど、「親密になれ」は本能的にプログラミングされてるという話をしましたが、その強度、つまり「どのくらいまで他人と親密になりたいか」は、遺伝的な要因が強いと言われています。さらに、育ちの中で決まってくる部分もあるんですよね。

ーーその人がどんな環境で育ってきたか、ということでしょうか。

そうですね。親やきょうだいとどのような関係を築いてきたかはもちろん、学校生活の影響も大きいと思います。

たとえば、クラスで仲間外れにされる経験。クラスのような同質集団の中でサバイブしていくときに、ちょっと人と違うことをすると「あいつはなんだ?」と批判的な目を向けられ、排除されるようなことが起こり得るわけです。

「さみしさは、本能として備わった感情です」

ーー心当たりがある人も多そうですね。

特に子どもは所属するコミュニティが学校くらいなので、そこで仲間外れにされることの影響は大きい。そこで「ひとり」に否定的な印象を持ってしまうと、「ひとりは怖い」という感覚を引きずってしまうことがあります。

遺伝的な要因、幼少期の生育環境的な要因、そういったいろいろな要因が絡み合って「ひとりでいることを恐れる」という価値観が作られていくわけです。

ーー育ち方やもともとの性格によって、さみしさを感じる度合いは変わっていくということですね。つまり、「ひとりはさみしい」とあまり感じない人もいるのでしょうか?

そう。逆に、人と親密になることが不快で怖い、という人も25%くらいいると言われているんです。

ーー4人にひとり……けっこういるんですね。

まずは、自分が人とどれほど親密でありたいかっていう「親密ニーズ」を理解して、自覚しておいたほうがいいと思うんです

■誰もが「さみしさ」のグラデーションの中にいる

ーー「親密ニーズ」とは、何でしょうか?

周りと親密になりたいと思う気持ちの強さには個人差があります。これを僕は「親密ニーズ」と呼んでいます。

人とコミュニケーションをとるときには、この親密ニーズの高さが自分と相手とで違うことを前提にすべきだと思っています。

ーー親密ニーズには、大まかなタイプや分類があるんですか?

ちょっと専門的な話になってしまうのですが……。心理学の分野に「愛着理論」という考えがあって、それをベースに説明ができます。

ざっくり説明しますね。近しい人に親密さを求めるときにどのような行動をとるかはいくつかの傾向に分けられるんです。行動の傾向は、大きく「安定型」「不安型」「回避型」の3つ。本当はもっとややこしいのですが、ここでは割愛します。

ーー大まかに3タイプがいるんですね。

「安定型」は基本的に自己肯定感や他人への信頼感が高く、恋愛関係にもどっしり構えているタイプです。人と親密になるのは普通のことだと認識して、あまり心配せずに他者に対して自分から近づくことができ、素直に愛情表現ができます。このタイプが、だいたい50%くらいいると言われています。

「不安型」は、見捨てられることへの不安が強いタイプの人。親密ニーズが高く愛されたい気持ちはあるけれど、自信がないから、相手を試したり過度な要求を突き付けたりしてしまう傾向が見られます。あとは、相手が離れる前に自分から逃げてしまったり……。

ーー愛着はあっても、それがうまく伝わらないのですね。

すべては「親密になりたい」からなんですよね。人に近づきたい気持ちが強すぎて、嫌われてしまうのではと不安になってしまう。

「回避型」は、そもそも人にベタベタしない人ですね。人と親密になること自体に懐疑的なタイプです。人と親密になることが苦手で、むしろ関係が深まる状況に恐怖を抱きます。

ーー心身ともに人と近づくのが怖いということですか?

もちろん、タイプといってもグラデーションがあるので、「100%このタイプ」とは言い切れないのですが、回避型の人は「人に触れられると気持ちいい」という感覚が希薄であると言われています。

たとえば「ハグやセックスが心地いい」という感覚よりも、人が近づいてくる恐怖が勝ってしまうんですね。基本的に他者を警戒している、孤高の存在と言えます。

ーー回避型の人は、さみしさを感じないのでしょうか。

「さみしい」という感覚は普通にあります。だから、誰かにふっと軽くちょっかいを出してみることもある。でも相手がそれを真に受けて近づいてくると、「やっぱ無理」と逃げてしまう……というケースもあります。

ーーそれは、相手も悲しくなってしまいますね。

でも、傷つけたいわけではないんですよ。回避型にも苦悩がある。「自分は愛情が枯渇している人間なんじゃないか」という自己否定感や、受けた愛情を相手に返せない申し訳なさとか。他のタイプと比べて愛着を軽視しているというだけで、愛情がないわけではないです。

ーー「不安型」と「回避型」が恋愛したらつらそう……。

関係が必ずしもうまくいかないと決めつけることはできませんが、どうしてそういう行動をとるの? がお互いに理解できていないとかなりきついですよね。

親密ニーズが高い、つまり周りと親密になりたい気持ちを強く持っている人のことを「ひとりでいられないなんて弱い」と捉える人もいるんですが、そうじゃないんですよ。「さみしい」の要素は強弱に関わらずみんなが持っていて、誰もがそのグラデーションの中にいる。

ただ、人それぞれ求める親密さが違うことを理解しないと、「やっぱりわかり合えない」とさみしさが強化されてしまう。

ーー友達、恋愛、結婚、すべての関係において言えることですね。

自分がいつもつながりを持っていたくても、相手はあっさりした付き合いを望んでいるかもしれません。「自分がこうだからあなたもそうでしょ」と価値観を押し付けるのではなく、ニーズの違いを認識した上で、うまく折り合いがつく関わり方を探っていけるといいですね。

■避けられない「さみしさ」と、どうやって付き合っていく?

ーーひとりがさみしいと感じるのは自然な反応であること、親密ニーズの違いがあることもわかりました。そうは言っても、心に湧いてくるさみしさに戸惑うことはあります。その気持ちとどのように向き合えば良いのでしょうか?

まずは、ひとりでいることの肯定的な側面を知ったほうがいいと思うんです。

僕が尊敬している精神科医の水島広子先生が、著書の『孤独力』の中で「ひとりを楽しめるようになるには、慣れの問題も大きい」という内容を書いていて。

ーー慣れ、ですか。

まずはひとりで行動することに慣れていく。そこから、ひとりって楽しい、意外とおもしろい、と体感していくプロセスが大切なんです。

対戦アクションゲームの『スプラトゥーン』ってわかります? 僕、すごく好きなんですけど。あれは「ソロプレイ」と「チームプレイ」があって、ひとりとチーム、どちらも楽しめるのが最強なんですよね。僕は実生活でもそれを目指したいと思っていて。

「『スプラトゥーン』、かなりやりこんでます」

ーーひとり行動も団体行動も、どちらも楽しめる人、ということですか?

そう。実は僕、これまであんまりひとりでいたことがなかったんですよね。ひとりはとても苦手で、人の輪の中にいたいタイプなんです。僕みたいな親密ニーズの高いタイプは、まずはゲーム感覚で、ひとりで物事を楽しむ「ソロプレイ」をやってみたらいいと思います

ーーなるほど……。日常で行う「ソロプレイ」というのは、たとえばどういったことでしょうか?

僕が最近やっているのは、飲み会を早く抜けてひとりで帰ったりとか。そういうときは歩いて帰るんですけど。ゆっくり考え事ができて、良いですよ。

ーー飲み会で少し早く帰るくらいなら、ハードルがあまり高くないかも。

僕もまだ、ひとり行動に慣れていないので。基本的にひとりが嫌いだから(笑)。すぐ始められるものだと、ひとり旅に出るのもいいと思いますよ。まずは「プレイ」でいいから、小さなことをひとりでやってみる。やってみた結果、やっぱりさみしいと感じてもいいんです。

ーーいろいろとチャレンジしていくことが大事なんですね。

「なんとか孤独を防がなければ」と思い詰めるより、孤独であることへのネガティブなイメージを自分で解消できたほうがいいと思うんです。ソロプレイの面白みを感じられるように、自己開発して進化していく。そのほうが平和で豊かだと思うんですよね。

気分によって、ひとりモードとチームモードを切り替えられる。「ひとり」と「みんな」を両立できるようになれば、生きるのがより楽になっていくと思います。

■「友達100人」は幸福の一モデルでしかない

ーー「ソロプレイ」を実践した上で、ゆうすけ先生が感じている「ひとりのメリット」は何でしょうか?

単純に、ひとりでいるとできることが増えるんですよね。たとえば、ふたりや3人で食事に行くと誰かの好みに合わせなければなりませんよね。ひとりなら食べたいものを食べられます。

あとは、ひとりの方が考えがまとまりやすいメリットもあると感じます。僕は最近、集中したい仕事に取り組むときには、スマホを機内モードにして外部との接触を遮断しています。その時間だけは、自分に、目の前のことだけに向き合うんです。

ーー周りとつながりすぎるのもストレスですよね。

先日、「人生の転機を迎えた女性がひとりで山登りをした」というエッセイを読んだのですが、そこで「誰にも頼れないからこそ、いつもよりも緊張感がある」「いい意味で怖がりになり、感覚が研ぎ澄まされて、景色の見え方がまったく違った」など、みんなと行くのとはまったく違う楽しみ方や豊かさが開発された様子が描かれていました。慣れ親しんだ趣味をソロプレイで楽しむことのメリットや気づきが並んでいて、触発されましたね。

「ひとり=さみしい、ネガティブ」と偏見を持つ人も未だにいますが、そのような決めつけの中では生きづらい。ひとりだからこそ得られるメリットもあると、ソロプレイを通じて体感するのは大切だと思います。

ーー周りを気にせず「ひとり」を楽しむために、どんな心がけが必要だと思いますか?

誰かが決めた「幸せ像」ではなく、「自分の幸せ」を持つことです。

たとえばね、「友達100人できるかな」という世界観、漫画の『ONE PIECE』のようにいつも仲間に囲まれていることが幸せという価値観は根強いですよね。でも仮に友達が100人いたとして、全員との関係を自分が満足するレベルで維持するには相当な労力がいります。

ーー親密ニーズが低い人には負担になりそうですね。

そのように、誰かが決めた幸せ観を僕は「パッケージ型」と呼んでいます。

たくさんの友達から愛されているのがいい、家族や親愛なる仲間に囲まれて眠るように息を引き取るのが理想的な死に方……とかね。それは幸せのひとつのあり方、幸福の一モデルでしかないんです。

東日本大震災の後は「つながりを持とう」という風潮が強まりました。もちろん絆は大切ですが、「世間が言うからつながった」とむやみに誰かと深い関係になろうせず、自分の幸せのあり方を自分の感覚で決めることが大事なんです。

ーー自分が本当につながりを求めているのか、友達100人ほしいのか、ということですよね。

親密ニーズが人によって違う以上、コミュニケーションやつながりにおける「幸せ」の捉え方は個別であるべきと僕は思います。

「あの人はひとりで過ごせない弱い人だ」「あの人はいつもひとりでさみしそうだ」というのは、「ひとり」の価値を低く捉えた価値観によるマウンティングに過ぎません。そうではなく、「ひとり」に対する個々のスタンスを認め合っていく。

さまざまなスタンスがある中で、自分にとってはどういう人間関係のあり方が自らの「幸せ観」にフィットするのかをしっかり考え、実感をもとに自分なりに定義づけていくプロセスが大事なのではないかと思います。そうした過程の中でいろんな価値観に触れていくことで、「ひとり」の楽しみ方、「みんな」の楽しみ方がどんどんわかっていくんじゃないかなあ。僕はそんな風に思っています。

薗部 雄一

1歳の男の子を持つパパライター。妻の産後うつをきっかけに働き方を見直すとともに、ベビーシッターさんを使うなど「家族の輪を超えた育児」を実践。子育てや働き方をテーマに記事を書いています。

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