「さみしい」ときの対処法。さみしさは私たちの生きる力になる
さみしさを感じたときにはどのように対処すればいいのでしょうか? さみしいという感情は心理学の視点から見ると、人類の生存確率を高める大事な機能だといいます。さらに、ひとりでいる時間は仏教の視点から見ると、自身を調える重要な時間だとか。人と人とが簡単につながれる現代だからこそ、「さみしい」について改めて考えてみませんか。
本当はひとりで過ごしたかったのに、「さみしい人」だと思われたくなかったから――。そんな風に自分の気持ちに嘘をつきながら過ごす時間を心の底から楽しむことは、難しいのではないかと思います。むしろ、それがストレスの要因になってしまうことも。
そもそも、ひとりは本当にさみしいもの? そして、さみしいという感情はそんなに悪いもの?
ここでは、周りの声に惑わされず、自分の前向きな意志で「ひとり」を楽しむために、さみしいという感情について心理学と仏教の視点から紐解いてみます。
■「さみしい」は、生存本能として備わった感情
世間ではマイナスなものとしてとらえられがちな「さみしい」という感情。でも、私たちはこの感情について、“なんとなく”しか知りません。そもそも、さみしいとはどんな感情なのでしょうか。心理学者の晴香葉子さんは、こう解説します。
そして、さみしさのメカニズムについても明らかにしてくれました。
これは進化のプロセスで身についた機能のひとつ。人類がまだ危険なサバンナで暮らしていた頃、この機能によって、仲間と協力して天敵に立ち向かうことができていました。進化を経て、住居は立派で安全なものに変わり、食べ物も24時間手軽に手に入れられるようになりましたが、いまだに残っている脳内の機能によって、私たちはさみしさを感じていると考えられます」(晴香さん)
晴香さんによれば、「さみしいという感情は、人類の生存確率を高めるための素晴らしい機能」とのこと。言わば、今日の生活はさみしさのおかげで成り立っているというわけです。
とはいえ、過度なさみしさに苦しめられている人もいるのではないでしょうか。その原因については、僧侶の大慈さんが話す仏教的な視点を取り入れるとクリアになるかもしれません。
どんなに恵まれた環境にいてもさみしさが拭い去れない。そんな人は、なにかを“求めすぎている”ということなのです。
生存本能として私たちに備わっている、さみしいという感情。しかし、安全に暮らすことができる現代でもなお、それを感じ続けるのは、私たちが現状に満足することなく、常に新たは変化や刺激を求めているからとも考えられそうです。
■人はさみしさを感じるからこそ、誰かにやさしくなれる
このさみしいという感情が強く続いてしまったら……。私たちの心身にはどのような変化が訪れるのでしょうか。
それを防ぐために、定期的に友達やパートナーと会うことが解決策のひとつとして考えられますが、もう少し踏み込んだ、根本的な解決策としてあげられるのが「さみしさをネガティブに捉えすぎない」ということ。
さみしさは進化の過程で得た機能でしかない。そんな風に開き直ることで、自分を追い詰めてしまうことから避けられるかもしれません。
また、一方で、さみしさがポジティブに働くこともあるそう。
晴香さん、大慈さんが声を揃えるように、「ひとりで過ごす時間=さみしいと感じる時間」もとても大切なもの。自分を見つめ、好きなもの、大切にしたいもの、譲れないものなどを知ることは、まわりまわって、誰かへの思いやりにつながります。つまり、さみしさは人を成長させるということ。さみしいからといって、闇雲に誰かと過ごすことばかりを選んでいては、大きく成長する機会を損失しかねないのです。
■さみしいときの対処法。さみしさを放っておくと楽になる
それでも、うまくさみしさを処理できないときもあるはず。他人と自分とを比べて、「私はすごくさみしい人間なんだな……」と落ち込む夜だってあります。こればかりは、いくらさみしさについて理解していても、仕方がありません。
では、もしもこの先、耐えられないくらいのさみしさに襲われてしまったとしたら、私たちにはなにができるのか。
そして、大慈さんもこう続けます。
ひとりを悪いこととも良いこととも見なさない。そして、『私はひとりなんだ』とも見なさない。いまの状態にレッテルを貼らない生き方です。さみしければさみしいまま、ただ認識して放っておく。1を2や3に膨らまさない。そんな心の習慣を身につければ、ぐっと楽になるでしょう。そうすれば、限りなく自由で、執われのない、寂(しず)かな本来の自己だけが残るはずです」(大慈さん)
おひとりさまに貼られがちな「さみしい」というレッテルを、心理学と仏教の双方から分析してみました。さみしいは決してネガティブなものではない――。それを知れば、明日からは「自分の意志」を大切に、ひとりの時間も誰かといる時間も、その両方を心の底から楽しめるはずです。
Text/五十嵐 大
晴香葉子さんプロフィール
作家・心理学者・心理コンサルタント。企業での就労経験を経て心理学の道へ。研究を続けながら、さまざまな角度から情報を提供。執筆、講演、監修などの活動を続けている。メディアでの心理解説、監修実績も多数。著作・寄稿は30冊を超え海外でも4冊出版。孤立不安に関する出典:『人生には、こうして奇跡が起きる』(青春出版社)
大慈(だいじ)さんプロフィール
曹洞宗副住職。東南アジア某所にて上座部仏教短期出家。仮面系お坊さんYouTuber、お坊さんQ&Aサイト「hasunoha」回答僧など、従来の枠に囚われず活動を展開している。
いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。