イタリアメンズファッションの粋 〜ミラノ通信#38
イタリアメンズファッションが素敵なわけ、こちらに来てから事あるごとに頭に浮かんでいた疑問でした。
特にファッションに関心がある、あるいはお金をかけているわけではない、普通にその辺を歩いている人々が実に、素敵なのです。
彫りが深いといっても誰もがハンサムではなく、イタリア人のイメージであるちょっとくせ毛の長めの髪が風にたなびくたてがみのような人は、意外といない。
なぜなら、ある程度歳を重ねると、甘いマスクの美少年もいつのまにかゴツい親父に変貌するから。30代から40代の変貌は、驚くべきものがあります。
ちょっと話が逸れましたが、美しい青年ではなくなっても、髪が少なくなっても、それでもその佇まい、歩く姿はどこか人を惹きつけるのです。
それは一体、なぜか?
今回は、それを探っていきたいと思います。
■ピッティ・イマジネ・ウォモは、今年で30周年
イタリアでは、年に2回のミラノファッションウィークの他に、1月と6月にピッティ・イマジネ・ウォモという、世界最大級のメンズファッション国際見本市がフィレンツェで開催されます。
今年は30周年を迎え、およそ1240ものブランドが出展(海外からの出展は45%)、4日間で来場者が3万人を超え、その内バイヤーは2万人と言われています。
ここで発表されたものは、ここに集うイタリア人のファッションスナップやインタビューと共に、世界のメディアに発信され、モーダの世界に新しい動きを作っていくのです。
ここに集うのは、ファッションかメディア関係者がほとんど。ビシッと決まっている人々ばかりなのは、当たり前といえば当たり前。
ミラノに戻り、取材開始。
ドゥオーモ近辺には、イタリア全土に展開しているカジュアルブランド、そしてモンテナポレオーネやスピーガ通りには、世界的に有名な高級ブランド店がひしめいています。
イタリア人はどこで服を買うのか、というと、最も多いのは信頼している長い付き合いのセレクトショップや、仕立て屋であるサルトリア。
ミラノでは、観光客がひしめく中心地からちょっと離れた高級住宅街にそんなセレクトショップが点在しています。
この度、話を聞いたのは、ミラノ東西に自身の店を構えるおしゃれ番長二人。
まずは、ミラノ屈指の高級住宅街に店をオープンして33年の「ジェニアーリ(GENIALI)」
DJからファッション業界に転身したという陽気なダンディー、マリオがオーナーであり、全てを仕切っています。
数年前に改装して、シックな内装にディスプレイが映える、配置も考え抜かれた空間です。奥にはゆったりしたス・ミズーラ(採寸して注文仕立て)の部屋、さらにもう一つの部屋の奥には趣味で設えたバーカウンターまで!
自らが服と出会ってから、何を大切にしてきたか、というと、いつの時代もクラシックをリスペクトし、そこにスポーティー、エレガンスなどのエッセンスを加えて新しいクラシコを追求すること。
流行は意識しつつも、トラディショナルなミラノスタイル、独自の創造性で作り上げる自分のスタイルを大事にすること、と語るマリオ。
その上で、好きな組み合わせを楽しむ。
オリジナルのラインも作り、あるブランドには次のコレクションの生地や形をはじめ、アドバイザーとしても活躍しているそう。
夕刻になってくると、一杯飲む? とバーカウンターの奥へ。
ボトルを開けて乾杯。
そして、ファッションからカクテルの話に移り、前回はカンパリシェケラート、今回は「これが流行っているんだよ、知ってる?」とカクテルを店の隣のバールに注文。
アペリティーボのおつまみと共にデリバリーされるカクテルを飲みながら、ファッションから人生まで色々の楽しい時間は閉店時間過ぎまで続くのでした。
もう一軒も、閑静な住宅街に店を構える「アル・バザール(AL BAZAR)」。
こちらも46年の歴史を持つ老舗セレクトショップ、日本の雑誌「レオン( LEON)」などでおなじみのリーノさんが、満面の笑みで迎えてくれます。
自身のスタイルブック(小冊子)、壁に所狭しと飾られた、世界中から送られた肖像画やイラスト、自ら店の中を案内してくれる気さくな紳士リーノさんの人気のほどが伺えます。
ジャケットやパンツは床から天井まで素材や色別に、カジュアルからエレガント、ビジネスからリゾートまで、様々なシーンやライフスタイルをカバーする圧巻の品揃え。
こちらでも、クラシックの重要性、そしてそれを踏まえたエレガンスについて、リーノさん流のファッション談義を伺いました。
アル・バザール店内
■イタリアメンズファッションが素敵な理由
時代の変化とともに、服に対する意識や向き合い方が変わっていく中、
ディテールにこだわりエレガンスを忘れないスタイルが重要であり、伝統(クラシコ)に根ざしたカジュアルという新定義を大切に、自分のスタイルを持ってコーディネートや組み合わせを楽しむこと。
インタビューした二人に共通した考えであり、これが、イタリアメンズファッションの肝、生活に楽しみや豊かさをもたらすのがイタリア流である、と確信したのです。
服作りにしても、小さな仕立て屋工房(サルトリア)が圧倒的なイタリアで、長い歴史と培われた高い技術の職人技は、素晴らしいのひと言。
生地から作り、パターン、縫製など素材から製品まで一貫生産すること、今では希少なやり方を継承しているのです。未だファミリービジネス中心のイタリアで、「服作りは生き方そのもの」と言われる所以です。
街のイタリア人の着こなしが素敵なのも、ベーシックスタイルを守り、絶妙なアレンジでシックに、決してやり過ぎないこと。
服で主張しすぎないバランス感覚を大切に、あくまで人が主役なのです。
そして、最後に、イタリア人を見ていて気付いた大事なことは、
褒められて育っているから、自己肯定感が強く、自分に自信があること。
体型が恵まれているだけでなく(胸板が厚く、肩幅もがっちり、足は細い)、ビシッと姿勢がいいこと。
だらだら前傾して歩かず、体をまっすぐに、綺麗に歩く。
身に付けるもののサイズ感がジャストフィットしていること、ブカブカは論外、ゆるいのもNG、スーツやシャツなどはオーダーメイドが基本であり、既製服でもとにかく自分サイズに直して着用する。
以上、イタリアメンズファッションが素敵な理由でした。
■GENIALI
Via Vincenzo Monti 7 ,20123 Milano
Tel.02-462605
■AL BAZAR
Via Antonio Scarpa 9, 20145 Milano
Tel.02-433470