家事をしない夫、息子への影響は? 男の子の親3人の本音座談会
我が子には「男らしく」に縛られず、のびのび育ってほしい。でも、親が気づかずに男らしさを求めてしまったり、前時代的な男らしさに影響されてしまったりすることもあるかもしれません。今まさに子育て中の3人に、普段気をつけていることや不安に思っていることを聞きました。文末には専門家からのアドバイスも。全3回の座談会です。
「男らしく」って何? 「女らしく」って何?
ディズニープリンセスだって、お姫様を夢見るのではなく、自分の意志を大切にする時代。
私たちの世代が生まれ育った時代とは、ジェンダー観が大きく変化しつつあります。
男の子がピンクの服を着たがったっていいし、消防士になりたい女の子がいたっていい。
男らしさ、女らしさに縛られず、“その子らしく”のびのび生きていくために、親ができることはなんだろう。
今回は、男の子を育てるお母さん、お父さんに今考えていることを話してもらいました。
第1回は「“女は家事、男は仕事”という価値観を植え付けないためにどうすればいいか」を語ります。
参加者プロフィール
■家庭での家事分担、両親からの影響はある?
――最初に、ご夫婦での家事分担について教えてください。
田中:うちの場合、主人が「家事は女がするもの」という考え方で、主人は台所に入ることもゴミ捨てに行くこともないです。家事・育児を全部ひとりでっていうのは大変ですね……。
飯田:我が家は完全平等です。主人は家事も料理も好きで、お互い「手が空いている人、気づいた人がやればいい」って考え方。とはいえ、私が気づいていて向こうが気づかないこととか、その逆もたくさんあって、譲れないところはお願いしたりもします。
田中:保育園の送り迎えも分担?
飯田:送りは毎朝主人の担当。私は仕事のシフトを早めにずらして朝8時から仕事をして、お迎えの時間に間に合うように行っています。
薗部:我が家は、「男は台所に入らない」とか、そういう価値観に真っ向から逆らったやり方をしていて、僕の方が家事も育児もやってます。というのも、自分は自営業で妻は会社員。自分の方が融通がきくので、朝はルンバと食洗機を回してから仕事、夕方は夕飯の支度をしてからお迎えに行く。1週間やるとさすがにバテちゃうので、土日は妻も一緒に。
――家事や育児の分担は、それぞれが育った実家の環境が影響する部分もいくらかはあるのかなと思います。そのあたりはどうでしょう。
田中:もともと主人のご両親も亭主関白な考え方。私もどちらかというと男尊女卑が激しい地方の出身で、家族や親族のご飯は全部おばあちゃんが作る、嫁は出産して1週間も経たないうちから台所に立つ、みたいな家でした。東京では男女の差をなくそうという風潮が強いけど、田舎ではそういう文化は続いてるんじゃないかな。
田中「主人も私の実家も、『家事は女性がするもの』という考え方です」
飯田:うちの両親は母が専業主婦でいわゆる昭和っぽい考え方でした。一方で主人の方はお母さんが働きたい人で、お父さんは「家のことをきっちりやった上だったら働いてもいいよ」というタイプ。それで苦労されたお母さんを主人は見てきたというのもあって、分担しようという考え方なのかも。
薗部:母が専業主婦で、いわゆる昭和的な考え方の家庭でした。自分もそれが普通と思ってたんですが、妻が産後鬱になったこともあり、持続可能な関係を続けていくためには僕が働き方を変えるのがいいと思ってフリーランスになったんです。はじめは違和感もあったけど、数カ月で慣れました。
■お正月の台所は神聖 女性は入っちゃダメ!?
――田中さんがおっしゃったように、地域差もなかなか大きそう。
薗部:うちの場合も、茨城の父の実家は封建的なところがありますね。女の人は家のことをとにかく何でもしないといけない。急な来客対応も、お客さんへのお酌も。あと、これは我が家だけかもしれないけれど、男がキッチンに入るのはお正月だけ。それ以外のときに入るのは恥、とされていて。
飯田:お正月だけ?
薗部:女性は穢れているという考えから、三が日は女の人が台所に入っちゃいけない。地域の伝統なのかうちの親戚だけかわからないですが、祖父の実家ではそうでした。僕も正月は早く起こされて、お雑煮のためのお餅を焼いて。
――神聖だから女性はダメ。土俵みたいですね。
田中:薗部さんはそういう環境の中で育って、家事を自分がやることに抵抗はなかったですか?
薗部:最初は、なんで自分がやるんだろうって思ったことはあります。でも考えてみたら、夫だから妻だからって役割を固定するのって酷だなと。仕事も家事もどっちも内容が違う大変さがあるから、大変さで競わないようにしました。食洗機の導入でだいぶ楽になったな。食器を入れるのも面倒なときはあるけど(笑)。
飯田:うちの場合は、私も主人も都内出身。お互いの父は団塊の世代なので、話が通じないのはもうしょうがない。「男の子なんだから」みたいなことを口走るのは流すようにしてます。ただ、長い時間一緒にいるとよくない影響を受けそうなので、泊まりで1週間一緒……とかはしない。
――まだみなさん、お子さんは小さいと思いますが、お子さんが家事のお手伝いをすることはありますか?
飯田:5歳の長男には2~3歳頃から洗濯物をたたむのを簡単なものから一緒にやってもらってます。たたみ終わったらしまってもらう。「ママとどっちが片付けるの早いかな」とか言いながら。やっていたら習慣になりました。
■息子から学んだ「心の中にあるご褒美」
――お手伝い好きになるコツはありますか?
飯田:東南アジアにいたときは、暑いから着るものがTシャツと短パン、パンツだけ。3種類しかないから、たたむのも片付けるのも簡単だったっていうのもあるかな。3種類だと置き場所も迷わないから、ぽいぽいってスムーズに片付けられる。
あと、長男は『カーズ』が好きなので、「このお手伝いしたらピストンカップ(※優勝杯)10個分」って言うんです。実際にもらえるわけではないんだけど、10個分のいいことをしたって自分で思ってる。この間、「今いくつ持ってるの?」って聞いたら「200個。ママは何個?」って(笑)。
飯田「5歳の長男は、お手伝いが大好き」
――心の中に200個の優勝杯を持ってるんですね。
飯田:そう。実際のご褒美はなくてもいいんだっていうのを彼から学びました。
薗部:うちの場合は、僕が料理したり買い物したりする姿を見せています。大人になったときに「男の子はやらなくていい」っていう風にはなってほしくなくて。ただ、僕自身が洗濯物をたたむのが苦手だったりするんですが(笑)。
田中:うちの場合、同じ2歳の双子でも男女で成長の差を感じます。女の子は自分からお手伝いを始めるけど、男の子はぼーっとしている。この時代、男の子でも家事できないのは心配だからやらせたいなと思っているけれど、やっぱり性質の差はあるんじゃないかな……。
薗部:性差は保育園でも感じますね。女の子を見ていると、お人形遊びをしながら日本語で喋ってる。男の子の行動はまだ原始的で、わーっと叫んだり、走ったり。
――そのあたりの男女差や、本当は男女差がそんなにないかもしれないことについて、次回は聞いてみたいと思います。
Text/小川たまか(@ogawatam)
■専門家・大崎麻子先生に聞きました
座談会で出た疑問や悩みについて、ジェンダー専門家の大崎麻子先生に聞きました。
家庭内での家事・育児分担、両親からの影響はどれくらいある?
親がどのような言葉を使い、どのように行動しているか、どのように他者とコミュニケーションをとっているか。言葉で直接伝えることだけではなく、親の普段の言動からも子どもたちは学んでいます。
家事・育児は、子どもにとって、一番身近な「ワーク」(労働・仕事)です。それを「人間が生きていく上で、価値のあるもの」として捉えるのか、それとも、「負担」として捉えるのか。夫婦でその責任を「分かち合う」のか、「押し付け合う」のか。得意不得意や、合理的な判断ではなく、「性別」に基づいて分業するのか。
子どもにとっては、親が一番身近なロールモデルではないでしょうか。
家事をまったくする気のない夫。子どもを同じようにしないために、どんなことを教えればいい?
パートナーさんは、もしあなたがいなくなったら、どのように生活していくのか心配です。家事は男女問わず、人間が生きるためのスキルです。妻に先立たれた男性が、食事の準備もできず、自分の薬がどこにあるかもわからず、地域の繋がりもなく孤立し、健康を損ねてしまう、というケースが日本各地で報告されています。
人生100年時代を生きる子どもたちにまず必要なのは、「生活力」。今は、学校でも家事は男性も女性もするものだと教えていますが、家庭が実践の場ですから、子どもたちにどんどん手伝ってもらえば良いと思います。
ゲーム感覚で、洗濯物をたたむのにタイムを測ってみたり、「今日はお店やさんごっこ」と称してウェイター・ウェイトレス役をしてもらったり。親の気持ちと時間に余裕がないとなかなか難しいかもしれませんが、上記のように工夫してみると良いでしょう。
女の子は家事が得意って本当? 性差は何歳ぐらいからあるの?
中学時代、私は家庭科が苦手で、五段階評価でいつも「2」でした。家事の得意・不得意に性別は関係ありません。ただ、親が日常的に「娘にだけ」家事を手伝わせる家庭が多ければ、社会全体で見たときに「男の子よりも女の子の方が家事が得意」という傾向が出てくるでしょう。それは生まれ持った男女間の性差ではなく、周囲からの期待によって生み出された、スキルと経験値の差です。
ちなみに、私は家庭を持ってから実践を重ね(?)、料理も掃除もその他諸々の家事も人並みにできるようになりました。社会人になった息子も、子どもの頃から手伝ってもらっていたので、生活スキルはもちろんありますし、私や娘や彼女に料理も振舞ってくれますよ。
大崎麻子さんプロフィール
ジェンダー専門家。
1971年生まれ。上智大学卒業。米国コロンビア大学国際公共政策大学院で国際関係修士号を取得後、国連開発画(UNDP)に入局。世界各地で女性のための教育、雇用・起業支援、政治参加の推進などのプロジェクトを手がけた。大学院在学中に長男を国連在職中に長女を出産し、子連れ出張も多数経験。
現在は、フリーの専門家として、国際機関、政府関係機関、NGOなどを通じて、国内外で幅広く活動中。グローバル人材の育成にも携わり、全国の大学、高校で講義や講演を行なうと同時に、PTA会長や学校評議員等を務めるなど、地域での教育活動にも取り組んでいる。
著書『女の子の幸福論 もっと輝く、明日からの生き方』(講談社)、『エンパワーメント 働くミレニアル女子が身につけたい力』(経済界)。
▼第2回はこちら
息子にピンクを着せたら保育園で怒られた。男の子は青じゃなきゃダメなの?【男の子の親座談会】
https://p-dress.jp/articles/9471「家事をしない夫、息子への影響は?(第1回)」に続き、男の子を育てるお母さん、お父さんに今考えていることを話してもらいました。全3回の座談会、第2回です。
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