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専業主婦には年金を受け取る権利がないのか?

年金の掛け金を支払っていない専業主婦の年金支給を、従来の半額にするという議論がなされていることが注目を集めています。専業主婦も社会を支えていると認めつつ、女性が働きやすい環境に向けて、企業や制度が変わっていく。そういう方向に社会が進んでいけばいいなと思います。

専業主婦には年金を受け取る権利がないのか?

先日、「マネーポスト」の記事がネットで大きな話題になりました。年金の掛け金を支払っていない専業主婦の年金支給を、従来の半額にするという議論がなされているというのです。

なぜなら、働く女性から「自分で掛け金を支払っていないのは不公平だ」という不満の声があがっているから。その記事では、パートタイマーなどと区別する意味で「無職の専業主婦」という言葉が使われていました。

そこから「#働く女性の声」「#無職の専業主婦の声」というハッシュタグで、ネット上でも議論が盛り上がりました。

■専業主婦は三食昼寝付きで楽な暮らし?

私がまだ20代の独身会社員で、残業続きで疲れていたとき、仕事をやめて専業主婦になった友人にうっかり、こんなことを言ってしまったことがあります。

「専業主婦はいいね。会社に行かないで三食昼寝つきなんてうらやましいよ」

その瞬間、それまで笑っていた友人の表情が凍りつきました。戸惑う私に、彼女は少し怒ったように言いました。

「ねえ、主婦もそんなに暇じゃないよ」

その後、私も子どもを産み、産休中にはランチさえ自分の都合で食べられない忙しい毎日を送る中で「あの発言はなかった……」と反省しました。

まるで、妻の苦労をわかろうともせずに、自分の仕事の大変さばかりを主張して嫌われる、古い男たちのようだったと。

以来、専業主婦の仕事は立派な労働だと思っています。家事や育児を通じて次世代につながる社会を支えているのです。なのに、保険料を支払っていないから、老後の年金が減らされるなんて。単に減らす以外の方法はないものかと考えてしまいます。

■女性を巡る環境は少しずつ改善されてきている

今回の話題化をきっかけに勉強して初めて知ったのですが、私たち女性の環境は、実は少しずつ良くなっています。恵まれた今だけを生きていると矛盾も感じますが、制度を変えるよう動いてくださった先輩たちに感謝です。

たとえば、1985年に「第3号被保険者制度」ができて、専業主婦が国民年金に強制加入となる前は、夫婦ふたり分の受給があったのにもかかわらず、その名義はすべて夫のものだったのだそうです。

老後の心配から、実際には6割以上の専業主婦が国民年金に任意加入をしていたようですが、残り4割の人は自分名義の年金がありません。夫には定年があっても、妻は死ぬまで家事労働。たとえ離婚したくても、生きていくためには結婚生活を続ける以外の選択肢がなかったわけです。

図表作成/著者

なお、新制度の開始とともに、厚生年金の保険料率が引き上げられました。つまり専業主婦はタダ乗りではなく、妻の家事労働を認めた上で、保険料分は夫に上乗せされたともいえます。

ただ、正確には第2号被保険者全員で負担をしているので、「夫がすべて払ってくれている」とも言い切れず、働く人たち皆で少しずつ支えています。専業主婦の皆さんには、そこも少し理解してほしいです。

2007年には、離婚時の厚生年金の分割(3号分割制度)ができ、離婚をしたとしても結婚期間中の厚生年金分の半分を、妻が受け取れるようになりました。専業主婦は無職ではなく、家庭の収入はふたりで作ったものと認められたわけです。

こういった経緯を考えると、マネーポストが「無職の専業主婦」という言葉を使ったことに対して、批判が高まったのも当然でしょう。また、働く女性は、実際にはそんな不満を訴えていないという声もあがっています。

■「専業主婦の年金半額」の裏を考えてみる

今回話題になった第3号被保険者制度ができたのは、今から34年も前になります。

第3号制度ができる前は、戦後の高度成長期に「男を企業戦士としてがむしゃらに働かせ、女に家事や育児で男を支えてもらう」家庭をモデルにし、サラリーマンと専業主婦の組み合わせが有利になる制度を作ったのでしょう。

高度成長期が一段落したところで、女性の人権への配慮もあって3号分割制度ができました。そして少子化が急速に進み、生産人口の減少が社会の成長を妨げようとしているいま、「女性をいかに労働力とするか」という課題が出てきたわけです。

そんな中で「専業主婦に強いインセンティブが働く制度は、いまの世の中にはそぐわない」ということになったのではないでしょうか。

「専業主婦の年金半額」案の裏には、国として女性に外で働いてもらいたい、という考えの変化があるのでしょう。ネットで騒がれているような「国が年金を溶かしたから責任を押し付けている」という理由だけではないのかもしれません。

■企業や私たちにもできることがあるのかも

専業主婦も、子育てが一区切りすると多少の余裕が生まれてきます。そういう主婦に家を出て「労働」してもらうには、企業側にも柔軟さが求められると思います。

自宅勤務や短時間勤務が認められ、働きたいときに働きたいだけ働くことが可能になれば、年金の掛け金を支払うくらいの収入は得られるはずです。

専業主婦だった友人が働き始めたものの、自由な勤務形態を望むため、ずっと派遣社員です。派遣3年ルールがあるために、業務のスキルが上がっても3年おきに職場が変わりキャリアが積めません。フルタイムで働くのは、まだ時間の関係で難しいそうです。子育てや家事の時間を減らせば働けるのでしょうが、家庭の事情、人による価値観はそれぞれなので、強要するようなことではありません。

一方で、働く女性には年金以上の収入や貯蓄ができる可能性があるし、専業主婦を選ばないメリットが大きければ不公平感も和らぎます。特に老後の基礎年金の額が減っていくことが目に見えているいま、条件が合えば働きたい人も多いのではないでしょうか。

理想論だけでは経営ができないことはよくわかっていますが、専業主婦も社会を支えていると認めつつ、女性が働きやすい環境に向けて、企業や制度が変わっていく。そういう方向に社会が進んでいけばいいなと思いますし、声をあげ、努力もしたいと思います。

Text/蜷川聡子

蜷川 聡子

株式会社ジェイ・キャスト 執行役員。 インターネットメディア協会 理事 1972年生まれ。商社系マーケティング会社を経て、2002年入社。2006年の「J-CASTニュース」創刊時には営業部長として、創成期のウェブメディ...

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