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「売れ残らないように急がなくちゃねぇ」

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10連休のリレーエッセイ企画「忘れ得ぬあの人の言葉」。かつて好きだった人から受け取った、忘れられない言葉の想い出を振り返ります。「クリスマスケーキ理論」を覚えている方は、平成から令和に移行する今、どれくらいいるでしょうか。漫画家の愛内あいるさんが23歳の頃、元彼から言われた、ひどいけれど、今となっては懐かしい言葉とは。

「売れ残らないように急がなくちゃねぇ」

「クリスマスケーキ理論(※)」をご存知でしょうか。最初にご存知ない方へに簡単に説明しますと

※女性の年齢をクリスマスケーキにたとえて、女性の結婚年齢をお節介的に言い表した言葉。バブル期に20代だった人にはおなじみかもしれません。
例)女の24歳=クリスマス・イブでケーキ定価販売真っ盛り
女の25歳=クリスマス本番で一番旬な時期
女の26歳=クリスマスが終わった売れ残り時期


当時23歳だった私はその理論でいうと、まさにこれからの旬女。要するに「婚期逃して売れ残っちゃわないようにね」という、私からしたら余計なお世話理論。

今でこそ平均初婚年齢が30歳近くになっている昨今、その理論はちょっと時代錯誤感があるかもしれませんが、約10年前は「25歳までにはお嫁に行けたらいいよね」みたいな風潮がまだうっすら残っていた頃です。

私は学生時代にずっと教室の隅っこで、友達と漫画を描き合いっこしてた女の子でして、恋愛には壊滅的に奥手でした。

1軍にいた男の子にずっと片思いしたり、好きな人に少女漫画のような憧れを抱いたりして、目が合えばそれだけでその日1日が幸せな気持ちで世界が輝いて見える! そんな女の子がそのまま社会人になりました。

■毎日がバラ色だった、23歳での恋愛

当時勤めていた会社に出入りしていたルート営業(既存顧客向けの営業)さんは、私がお付き合いした人のひとりです。6歳年上で身長が175センチくらい、見た目がソース顔で身だしなみには気を遣っていた第一印象はちょっとチャラい感じの男性。

でも、会話の引き出しが多くて、話してみるととても楽しかったです。取引先の社長の息子さんで、ビリヤード台やドラムセットがある豪邸に住んでいる、というのは後で知りました。

車はロードスターなどのスポーツカーを頻繁に乗り換えるタイプ。ロードスターなどのスポーツカーを頻繁に乗り換えるような人で、プライドが高く見栄っ張りだったのかなと、今となっては思います。

営業に来た際に「飲み会して」とお願いされて、その後、2〜3度食事をしてから付き合うことになりました。彼に頼まれて、会社にはふたりの関係を内緒にしていましたが、毎日がバラ色でした。

■「付き合った女の中で、一番結婚してもいいかもって思った相手なのに」

「別れよう」。付き合って2カ月くらい経った頃、彼の自宅で急に別れを切り出されました。

昔付き合っていた相手で、今は友達のひとりとして関わっている男性にメールをしたことを、私が何の気なく話したのが引き金になったようでした。

「なんで前の男と連絡を取るの? 信じられない。君は軽率すぎる」

彼は怒りました。私は彼のことが大好きだったし、元彼のことはただの友達で、もちろん恋愛的な好意はなかったので、彼が怒りを顕わにするのを見てびっくりしました。ただ、彼にとって良くないことを言ってしまったのだな、とは思いました。

彼は言葉を続けました。急なことでテンパって、何を言われたのかあまり覚えていませんが、「もっとお前が成長してから会いたかった」「傷つきたくない」あたりだったような気がします。

さらに別れ際、「今まで付き合ってきた女の中で、一番結婚してもいいかもって思った相手なのに」と自称100人切りの彼は言いました。

■愛想笑いでなんとか自分を守った日

その彼氏とよりを戻したくて、別れた後すぐにバイクの免許を取りました。というのも、彼が当時、一番熱を上げていたのがバイクだったから。彼と少しでもバイクの話をしたかったんです(ちなみに免許の試験には1回落ちて追加料金を払った。切ない)。

やっとの思いで免許を取って、カワサキのエストレア中古を30万円現金一括払いで買った頃でした。ある日のお昼休憩中、女子更衣室に向かうと、元彼と事務の女性の先輩が「クリスマスケーキ理論」の話をしていました。

元彼の脇を通ったときのことです。

「愛内さんって23歳だよね〜? 良い時期じゃん! 売れ残らないように急がなくちゃねぇ」

付き合っていた相手からこんな風に他人事のように言われた私は、突然殴られたような気持ちになり、すごく悲しくて今にも泣き出しそうでした。でも、愛想笑いでヘラヘラすることでしか、自分のことを守れなかったんです。

この後に仕事があって、目を真っ赤にするわけにはいかず、女子更衣室内でもグッと堪えるしかありませんでした。残業を終え、帰路に涙を流しながら、自転車をカッ飛ばして帰りました。

当時の私はそこまでひどい言葉を言われても、やっぱり未練があったんです。「傷ついて泣くなんて面倒くさい女」。そう思われないように我慢した背景もありました。とにかく我慢することが美徳だと勘違いしていた時期だったと思います。

■本当は元彼も寂しかったのかもしれない

今思えば、「クリスマスケーキ理論なんてバカヤロー! ってかお前が言うなー!」です。別れた後に言われた言葉ですから、少し皮肉めいた言葉にもとれます。

今も昔もまだまだ足りない部分がたくさんある私ですが、元彼の言動の端々から、「もしかしたら彼はこういう気持ちだったのかもしれない」など、今はだいぶ俯瞰的に考えられるようになりました。

私は今、漫画家として仕事をしていて、自分の恋愛に関して思い返す機会があったとき、ソース顔の彼のことをふと思い出します。

付き合っていたときの何気ない会話やバイクや車などのモノが溢れる環境、彼のたくさんの友達、そして自称100人斬りってどういう気持ちだったのかな。

そんなあれこれを頭に浮かべると、直感的に「寂しさ」を思い、なんとなくではあるけど、本当は元彼もずっと寂しかったのかな、と考える今の私がいて、あの頃をとても懐かしく思うのです。

Text/愛内あいる
漫画家。愛知県出身。生きづらい葛藤と解放の記録を描いた著書『自分の顔が嫌すぎて、整形に行った話』(KADOKAWA)発売中。ただいま新連載準備中。ツイッター(@aiuchi_airu)Instagram(@aiuchi_airu

画像/Shutterstock

10連休特集「忘れ得ぬあの人の言葉」

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DRESS編集部

いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。

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