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“ママじゃない私”を守るためのMame Kurogouchi【私のドレス #2】

忘れられない服。ここぞという日に着る服。自分を変えてくれた服。「私のドレス」は、そんな思い入れのある服を“ドレス”と名付け、その服にまつわるエピソードを綴るリレーエッセイです。第2回はライター・編集者、小沢あやさんのドレス。

“ママじゃない私”を守るためのMame Kurogouchi【私のドレス #2】

■ママになったら、おしゃれができなくなる?

「子どもがうまれたら、好きな服なんて着られなくなるよ〜」

妊娠中に検索したら出てきたし、知人からも耳にしたフレーズたち。
「ヒールなんて履けません!」
「出産前に髪を切っておいて大正解でした! 美容院になかなか通えなくなります」
……覚悟はしていたものの、やっぱりそうなの? 自分に割ける時間が減るのはわかるけど、そんなにもなの? と困惑した。

着こなせているかどうかは別として、服が好きだ。学生時代はアパレル販売のバイトをしていたし、社会人になってからも、ずっと服装指定がない企業で働いてきた。
「自分のために装う楽しみがなくなってしまうのか」
出産後、自分が飛び込むことになる未知の世界に、戦々恐々としていた。

妊娠6カ月頃から、いつものワンピースが着られなくなった。
うっかり15kg近く増えてしまった体重、むくみっぱなしで象のようになった足首。

お腹の子は可愛い。それでも、妊娠中だんだん変わっていく身体に震えていた。出産後、赤ちゃんがスポーン! と出てきたらさすがに落ちるかと思い、病院内で浮かれながら体重計に乗ったものの、まったく変わっていなかった数値に絶望。
結局、体重を戻すまでに1年近くかかった。

■子持ちになっても「ママみ」と「わたし」を両軸で保ちたい

つい最近「忙しくても、ママ感出してかない!」「”ママに見えない”が最高のほめ言葉(はぁと)」のコピーを打ち出した女性誌が物議を醸していたが、「ママに見えない」と言われたい気持ちはわかる。

出産後、知人や職場の同僚に「すっかりママだね」と言われることがあった。
紛れもなく、わたしはママである。
それでも、今まで「ママ」として扱われなかった場で、いきなり「ママ」の部分ばかりをフィーチャーされると戸惑う。もともと、包容力ある世話焼きキャラでもなかったのに。

なんだろう、この違和感は。
「わたし」の中に「妻」や「ママ」がいるのは確かなのだけれど。

■繊細なレースが素敵なMame Kurogouchiのワンピース

振り返って見ると、いつのまにか「楽だから」「汚れてもいい」基準で買った服が増えていた。全体的にもっさりしている。あんなに服が好きだったのに、「これを着たい!」と自発的に選んだ服は、ほとんどなかった

まずは装いを見直そう。
思い切って、ワードローブを入れ替えてみることにした。ここらへんで気合いを入れたい。

そこで手にしたのが、Mame Kurogouchi(mame)のドレス。ずっと気になってはいたものの、「着る機会も少ないだろうし、家で洗濯できない素材を買うのもなあ」と躊躇していた。

人気のアイテムは、発売開始後にすぐに売り切れてしまう。「子どもと一緒の日には厳しいけど、かわいいなあ。どうしようかな」なんてのんびり考える時間はない。

少し迷ったけれど、
「着る機会、作ろうじゃないか!」
「子どもが生まれても、ひとりの時間を確保するためのアイテムになりそう!」
そう考えながら会計を済ませたのを覚えている。

■単独行動の時間を彩る装い

mameの服には、だいたい繊細なレースがあしらわれている。抱っこ紐や赤ちゃんのスニーカーなど、マジックテープ式のものをひっかけてしまうと、一発でアウト。
決して安くはないし、ひっかけたら泣きたくなるので、単独行動の日を楽しむためのワンピースだ。

純粋に、丁寧につくられた国内ブランドの服に袖を通すのは楽しい。
気分が高揚して、そのまま写真家さんに「宣材写真を撮ってもらえませんか」と連絡をした。ライターは基本的に裏方だが、たまに顔を出す取材や登壇の依頼が来る。どうせなら、好きな服を着た笑顔の写真をプロフィールに添えたいと思ったのだ。

撮影後、早速SNSのアイコンを変更して、仕事依頼フォームを更新した。すると、早速新たな仕事が舞い込んだ。
因果関係はわからないが、これは縁起がいい。


シルエットが細身だから、太ったら背中のファスナーが上がらなくなってしまう。そう思うと、自然と気が引き締まるし、華やかなので仕事着としても活躍する。
袖を通すときの高揚感がたまらなく気に入ったので、今ではシーズン毎の新作を欠かさずチェックしている。

好きな服が「ママ」と「わたし」の切り替えをしてくれるようになった。


子どもがいても、できるだけ好きな服を着たい。「この服を楽しめる生活」と逆算していくと、求めるライフスタイルもなんとなく組み立てられる。
今は夫と家事育児を分担し、入れ替わりで飲みに行ったり、レイトショーに出かけたりして、仕事以外のひとり時間も確保している。
出産前に抱えていた「子どもが生まれたら自分の時間なんてなくなるのでは」という不安はどこかに消えていった。


もちろん、子どものために「動きやすい服」「汚れてもいい服」を選ばざるを得ない局面もある。“ママ感出してく”も、ひとつの正解だ。
それでもわたしは「ママじゃない自分」のこともきちんと守りたいし、これからも自分の時間は諦めずに楽しみたい。

「ママ」の顔だけで生きるのは、寂しい。
「ママ」「妻」「ビジネスパーソン」「女友達」。それこそ服を着替えるように、さまざまな自分をシーンによって使い分けたい

mameのドレスは、その想いを叶えてくれるのだ。


Title design/めいめい(@meimay_yoshioka

リレーエッセイ『私のドレス』のバックナンバーはこちらから

小沢あや

編集者 / ライター。音楽レーベルで営業PR→IT企業を経て独立。ハフポスト日本版、Dybe!、ウートピ等で執筆。Engadget「ワーママのガジェット育児日記」連載中。豊島区長公認の池袋愛好家でもある。

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