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「生理大変だよね、わかるよ」なんて簡単には言えないけれど

わたしはわたしの味方でいられているし、わたしはわたしの味方が作れている。でも、わたしは、誰かの味方になれているのだろうか――。女同士だからといって「わかるよ」という言葉に甘えずに、想像力を養いたい。コラムニスト・ものすごい愛さんの寄稿です。

「生理大変だよね、わかるよ」なんて簡単には言えないけれど

以前に比べて、少しずつではあるが男女平等の風潮になりつつあるように思う。

少なくともわたしが見ている世界では、女性の社会進出が進み、男女差による職業の隔たりが小さくなった。

わたしの周りでは、奥さんが外でバリバリ働き、旦那さん主導で家事を切り盛りしているご夫婦や、子どもが産まれたあとに育児休暇を取得した男性がいる。

「保健体育の授業は男女共修を進める流れになってきている」と、小学校教師の友人が言っていた。

女性特有の生理や妊娠、出産、それに伴う心と体の変化に柔軟な考え方を持てる人が増えてきて、隅々まで守れる社会を創ろうとしている人の声も聞こえてくるようになった。


とても、いい傾向だと思う。
多くの女性のために、声を上げて立ち上がってくれた、勇者たちのお陰だ。
ちょっとずつだが、確実に変化している。少なくとも、変化すべきところが目に見えるようになってきているから、考えたり受け入れたりできる。

でも、全然完璧じゃないし、未だに苦しんでいる人は多くいる。

■わたしは、誰かの味方になれているのだろうか。

わたしは心も体も女性だが、ありがたいことに「女性だから」という理由で不当な扱いをされたこと、道が閉ざされたこと、諦めなくてはいけなかったことがなかった。

比率は若干女性の方が多いものの性別に関係のない職種に就いたし、頑張った分だけ、相応の評価をしてもらっていたと思う。
それこそ、枕営業だのセクハラだのの噂を耳にしたことすらない。

親からも、「女の子なんだから」という理由で家事ができるようになっていなくちゃだめだとか、男性を立てられるようになりなさいとか、嫁に行くことが女の幸せだとか、何かにつけて女性性を押し付けられたことはなかった。
あくまでも、ひとりの人間として生きていけるだけの教育とスキルを与えられただけ。

学生のときから今でも仲の良い男友達がいるが、彼らもわたしのことを「女だから」ではなくひとりの人間として付き合ってくれているし、性の対象にされたこともない。

夫との結婚生活も、今はわたしが外で働いていないため家事はわたし主導であるものの、共働きのときは「お互いの得意分野をやれるときにやりましょう」というスタンスで生活していた。

まだ子どもはいないけれど、育児休暇に関してはそのときの状況に合わせてどちらが取るか、もしくはどちらも取るか考えましょう、と話し合って決めている。


生物学的な理由での区別はある。
男性より肉体的に劣っている部分、たとえば筋肉量が男性より少ないから重い荷物を率先して持ってもらうだとか、夜ひとりで出歩くのは危険だから家まで送ってもらうだとか、そういう助けられ方はあった。

男性、女性という生物学的性質を考慮し、一個人としての得意不得意を踏まえた上で、人間として尊重された付き合いしかしてきていないのだ。


その上、わたしは主義主張をはっきりと言葉にできるし、その言葉を強くすることだってできた。

初潮は周りと比べて早い方だったが、クラスの男子に「うわ! お前生理かよー! 股から血流してんじゃん!」とからかわれても、面と向かってキンタマが潰れる呪咀を吐いてやり返せた。

バーでたまたま隣り合わせた男性に「女なんだから酒がなくなったらお酌ぐらいしろ、煙草を加えたら火ぐらいつけろ」と要求されても「だれがタダ働きなんかすっかよ! 他人からのちやほやがほしいなら金を払って相応の場所に行け!」と切り捨てられた。

以前勤めていた会社のマニュアルで、生理休暇制度は2カ月前に申請しなくてはいけないという文字を見たときは「オイ、もう平成が終わることを知らないわけはないよな? このルールは奈良時代に作られたんか?」と上司に立ち向かえた。

今生理だから、こういう症状が出てて、こんな風につらいとか、このイライラはたぶんPMSだと思うのでどういう風に接してほしいだとか、目の前の相手に伝えられる。

だから、わたしはわたしの味方でいられているし、わたしはわたしの味方が作れている。

でも、ふと不安になる。
わたしは、誰かの味方になれているのだろうか。

ここまで、強気な持論を述べてきてなんだけれど。
知らず知らずのうちに、誰かを傷つけてしまっていないだろうか、誰かの敵になってしまってはいないだろうか、と不安になるときがある。

■手放しで「わかる」「たいへんだね」とはもう言えない

30歳が目前になってくると、少しずつ人生に違いが出てくる。

恋愛、結婚、セックス、妊活、出産、育児、離婚、転職。
世間が勝手に抱いているイメージと戦いながら、誰かと比べてしまって苦しくなりながら、見えない不安から逃げながら、昔思い描いていたビジョン通りではない人生を、必死に生きなくてはならない

「年齢的にそろそろ結婚でしょ〜? って職場の上司に言われたんだけどさ、ほっといてくれって思うよー」と言われたときに、わたしは手放しで「わかる〜」とはもう言えなくなっている。

「結婚したらすぐにできると思ってたけど、なかなかできないから病院に行ったんだよね〜」と言われたときに、わたしは「たいへんだね」なんてわかったようなことは言えない。

「夢を諦めて地元に帰って婚活しようかなって考えてる、親もいい加減結婚して孫を見せろってうるさいし」と言われたときに、わたしは「諦めちゃだめだよ」とも「そうしなよ」とも言えない。

まだなにも知らなかった、ただビジョンを思い描いているだけで良かった頃のように、「あのバンドの新曲めっちゃかっこよくない?」と言われたときと同じように「わかる〜」って、「レポートの提出明日までなんだよね!」と言われたときと同じように「たいへんだね!」って、「好きな人がいるけど脈なしかも……」と言われたときと同じように「諦めちゃだめだよ!」って、絶対に、絶対に言えない。

「あなたは結婚してるからわからないよ」とか「わたしほど子どもが欲しいわけじゃないでしょ」とか「あなたのところは親がうるさくないからいいよね」とか、言われてしまうのではないかと。

彼女たちは優しくて賢いから、たとえ一瞬でも頭の中をよぎったとしても言わない、そもそもそんなことはわたしの思い込みで、どうにかしてほしいわけじゃなくただ単に話を聞いてもらいたいだけなのかもしれない。

■世界みんなの平和のためには頑張れないし、戦えないけど

毎月、決まって生理がくる。
同じ女性同士でも、生理のときの症状やつらさは違う。

お腹が痛いだけじゃなくて、吐き気を催す人や、熱が出る人もいる。
眠気に抗えなくなったり、甘いものを我慢できなくなったり。
些細なことでイライラするだけじゃなくて、気持ちのコントロールができなくなってしまう人もいる。

どんなにしんどくて休みたくても、仕事や子育てで休めない環境なのかもしれない。

わかってくれる人が、近くにいなかったら、悲しいよね。

生理周期が定まってなかったり、薬を服用している人もいる。
少しずつ異なった人生を生きる中で、同じ女性として共通しているイベントだけど、生理ですら一緒くたにできるものじゃない。
比べられないし、比べてはいけない。

女性同士でも、どんなに大切な存在でも、わかり合えない部分があるってことをわかっているから、わたしは言葉を慎重に選びたい。

欲しい言葉はあげられないかもしれないけれど、傷つける言葉を投げないようにしたい。
同じ女性だから気持ちがわかる、なんて言葉に甘えず、想像力を養いたい。
女だから、男だから、他人だから、で片付けたくない。

だってわたしは、彼女たちが自分で自分の人生の責任を取るために、戦ってるのを知っている。
戦って、耐えて、納得させて、立ち向かって、人生を模索している彼女たちの味方でいたい。

わたしは世界みんなの平和のために頑張れないし、戦えない。
でも、愛する彼女たちの心の平和を願っているし、これからもずっと願い続けたい。

昔みたく、大好きな内緒話に始まり、「ねーちょっと聞いてよー」と言ってもらえる存在であり続けたい。


Text/ものすごい愛

Photo/池田博美(@hiromi_ike
Styling/hitomi matsuno(@hitomi_matsuno_) model/土田心愛・杉山史織

3月特集「あの子が来る、今月も。」

ものすごい愛

心身ともにド健康な喧嘩が強い主婦。周囲から「ポジティブゴリラ」「コミュニケーション能力の鬼」と揶揄される。トイレットペーパーはシングル派。AMにて恋愛相談『命に過ぎたる愛なし(https://am-our.com/love/...

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