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生理休暇は“負け”じゃない。理不尽なアイツ(PMS)と、私は今日も闘う

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20代になってから深刻なPMS(生理前症候群)に悩まされるようになり、自宅や出先で倒れたことは数知れず。十数年の“腐れ縁”を経て会得した、生理との付き合い方とは。文筆家・岡田育さんによる寄稿です。

生理休暇は“負け”じゃない。理不尽なアイツ(PMS)と、私は今日も闘う

会社勤めの頃から現在に至るまで、積極的に生理休暇を取得している。きちんと休まないと仕事にならないからだ。

そして、原因不明かつ治療法も確立されていない諸症状に苛まれながら、「なんか毎月寝込んでない(仮病では)?」と勘繰られるのに、疲れ果ててしまったからでもある。

〈労働基準法第68条:生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。〉


できることは全部やって、それでも無理なら、私は私の身体を休ませないといけない。昔、globeが喫煙行為について「法律で許してくれてるものだし」と歌っていたけれど、生理休暇だって、そうなのだ。


10代までは生理痛と無縁だったのに、20代に入って深刻なPMS(月経前症候群)を自覚するようになった。

PMSとは、生理の数日前から始まって月経開始とともに終わる諸症状を指す。イライラ、頭痛、パニック、無気力、眠気ないし不眠などなど、現代の医学をもってしてもメカニズムが解明できていない、あの「だるさ」全般だと言えば、身に覚えのある女性も多いはずだ。

私の場合、子宮内膜が剥がれる際の緊張が全身に伝わるのだろう、ひどい自律神経失調に襲われる。漢方を続けても低用量ピルを試しても治まらない、婦人科にかかっても診断名は下りないので、自分では「例の発作」と呼んでいる。

「お腹が痛くなるだけでしょ?」と人は言う。

そうだね、毎月毎月、路上で昏倒して救急車を呼ばれるくらい、お腹が痛くなるだけだよ。

■22歳、ほぼ裸に近い状態で運ばれる

今まで何度か救急搬送されたうち、二度の交通事故を除くと、ほとんどがPMSだった。

最初は22歳のとき、朝の満員電車で気分が悪くなり、途中下車してホームの地べたに倒れ込んだ。
胎内に突然ブラックホールができたような激痛。あらゆる内臓がぱんぱんに膨れては狭い腹中で押し合いへし合い、見えない掃除機でぎゅうぎゅう吸い込まれるのに、どこへも排出されない。

めまい、動悸、大量の発汗、手足末端の痺れ、全身がぶるぶる不随意に痙攣して立ち上がれなくなり、呼吸に精一杯で、うめき声しか出せない。
衣服が肌に当たる感触が不快で不快で、すべて脱ぎ散らかしながら意識を失い、ほぼ裸に近い姿のまま担架で駅務員室に運ばれた。

ところが「今にも死にそうな女性がいる!」との通報から病院到着までの1、2時間で、汗は引き、悪寒や吐気も消え、体温も平熱、まっすぐ立って歩けるようになっていた。

筋腫かガンかと身構えていた診察担当医が「なぁんだ」と拍子抜けした表情になったのが忘れられない。精密検査の結果も異常なし。

本人にしてみれば永遠とも感じられる長さだし、人に見せれば大騒ぎとなるが、医者にかかるには至らない、心因性不定愁訴(※)。

(※)「体調が悪い」という自覚症状の訴えがあるものの、検査をしても原因となる病気が見つからない状態

それが自分でもいたたまれず、次第に大声で助けを呼べなくなった。
救急車は要りません、呼んでもどうせ無駄なんです。

駅ビルのトイレで数時間籠城したことも、志望企業の面接会場へ辿り着けなかったことも、出張先の宿で倒れて飛行機に乗りそびれたこともある。自宅の風呂場で倒れ、全裸でのたうち回って部屋中を水浸しにしたこともある。

明け方に眠りが浅くなったところで激痛に飛び起き、2時間ほどの地獄が落ち着くと、今度は憔悴しきって十数時間ほど昏睡してしまう。目覚ましが鳴っても、着信が何十件入っても起きられない。気を失う症状に「血管迷走神経反射」という名称があることをつい最近知った。

半日経って経血が下り始め、だるい腹を抱えて寝床から各方面へ電話してドタキャンを詫びる。

また信用を失った、死にたい、この苦しみから逃れるには死ぬしかない、内臓を全部引きずり出せばラクになれるじゃないか。台所の刃物で衝動的に腹をカッさばきそうになる。

この鬱々とした錯乱状態まで含めて「症状」なのだと悟るのに、何年もかかった。

■十数年を経て体得した「悪魔祓いの儀式」

汗だくで絶叫しながら七転八倒するあの姿、世が世なら悪魔憑きの魔女だといって火炙りにされていたことだろう。
とはいえ十数年の腐れ縁ともなれば、私にだって悪魔を退ける知恵がつく。

かかりつけの婦人科で定期検診を怠らず、身体を冷やさぬように常温の水をたくさん飲み、生活リズムを改めて、それでもやってくる発作には、長年の経験で磨き上げた「悪魔祓いの儀式」で迎え撃つ。

主戦場は自宅のバスルームになることが多い。下痢や嘔吐を併発するので、ベッドよりトイレが安心できる。

毛足が長い大判のバスマットをなるべく清潔に保っておき、発作が来たらそれを敷いて、便器の下に寝転がる。身体を締めつける服は脱ぎ、開架の棚から何枚でもバスタオルを引っ張り出して、大量の脂汗を吸わせながら体温を奪われないようにする。

うずくまった位置からでも手が届く洗面台収納には、頭痛に効く市販の錠剤を大量にストックしておく。あれこれ試した結果、どこででも買えるようなありふれた薬に行き着いた。

私の場合、この薬を飲めば、だいたい1時間で効く(※)。救急車を呼ばれ火炙りに処されるほどの症状がすんなり消えるのは、鎮痛成分以上に、プラシーボ効果も高いだろう。「いつもこれで治る」という成功体験を繰り返し叩き込み、習慣化してきた成果だ。

(編集部※)薬の効果・効能には個人差があります。服用される場合は、医師へ相談し適切なチェック、指導、処方をしてもらうようお願いいたします。

ブラックホールが消えるまで、幼少から歌い慣れた童謡などを口ずさむ。記憶を頼りに穏やかなメロディーを歌うと気が紛れるし、余計なことを考えずに済む。小学校の下校放送に使われていたグノーの「アヴェ・マリア」がとくに効く。

産みの苦しみを免れた無原罪の聖母が、生理に伴う痛みを緩和してくれるとは面白い。古来こうやって神頼みの風習が作られたのだろうなと思いを馳せるうち、人類の叡智の結晶である鎮痛薬が効いてくる。

信仰と科学の両輪だ。悪魔め、参ったか。

どうにか起き上がれるようになったら、ぐっしょり濡れた衣服やバスタオルをすべて洗濯カゴへ放り込み、まっさらな寝間着に着替え、新しいバスタオルを敷いて寝る。この「脱皮」が儀式のグランドフィナーレだ。

すべての予定を翌日以降へ送り、目覚ましをかけずにたっぷり眠ることを自分に許し、起きたら元気になった自分を手放しで褒めてやる。

悪魔のようなアイツはいつも、時が経てば必ず去っていく。
だから、死にたくなるほど己を恥じたり倦んだりすることはない。

■今日休むことは「負け」じゃない

平成27年度雇用均等基本調査によると、女性労働者が生理休暇を請求した割合は0.9%。
めちゃくちゃ少ない。
でもこれは、生理に苦しむ勤め人が0.9%、という意味ではない。

現代日本においても月経にはケガレの意識がつきものだし、「男の上司と生理の話なんかできない」「人事部に排卵周期まで知られたくない」と、一般病欠扱いにする女性が多いのだ。
かつては私もそうだった。

あるとき職場の同僚に、「昨日また朝の会議すっぽかしたんだって?」と軽く笑われた。
つまり私は「なんだかよくわからない言い訳で毎月寝坊する人」と思われていたのだ。

「いやー、生理ですわ生理! 死ぬほどしんどくて特別休暇が要るんです!」
と、その場で怒鳴り返すことができなかった。

同性からさえ「たかが生理で休むなんて、ズルい」と言われる。「されど生理で、私ばかりが貴重な有休日数を削られてたまるか」とも思う。

それで認識を改めた。私用や病欠とは別に、生理日は生理で休もう。
法律で、許して、くれてる、ものだし。

もちろん本来は、男性を含めた万人が、あらゆる「就業が困難な日」に休暇を取得できる労働環境が理想だろう。
死に体で出勤してダラダラ作業するより、きちんと休んで元気な日に集中して働いたほうがいい。それは、女の体も男の体も変わらない。

人類が本調子を発揮して働ける時間は、我々が夢見る以上に少ないのかもしれない。実態のない「人並み」を目指して頑張りすぎると、その分の疲労やストレスが、さまざまな形で自分に跳ね返ってきてしまう。

今はもう、毎月のように苦しむことはなくなった。それでも数カ月に一度は「例の発作」が起こる。うまく治められたとき、布団に潜り込みながら、心密かに高らかに、私は勝利宣言を掲げる。

今日休むことは「負け」じゃない。まるで感じる必要のない絶望や羞恥に「勝った」のだ、と言い聞かせる。

原因不明で治療法もなく理不尽極まりないアイツと、なんとか折り合いをつけながら、そうして勝ち越していきたい。

身体に心が、心に身体が、振り回されないように。

■産婦人科医の言葉

激しいPMS症状とともに、かなり強い月経痛が伴い、日常生活が困難なレベルに達していらっしゃいます。治療を考える際には、「根本的な解決を図ること」と「即効性のある対症療法」を併用することが大切だと考えます。

ピルや漢方薬は効果がなかったということですが、それらは元々、即効性のある治療ではありません。

すぐに効果が感じられなかったとしても、月経周期をコントロールしておくことは、症状に対しての心の準備にもなります。最近では「ヤーズフレックス」のような120日間の継続内服ができる新しい治療方法もありますので、もう一度婦人科で相談されてみてはいかがでしょうか。

月経痛に対しては即効性のある治療が重要です。鎮痛剤の種類によって、月経痛への効き方も異なりますし、内服薬よりも坐薬の方が効果を早く得られます。

また、ブスコパンという薬剤には鎮痙作用があり、月経による子宮の筋肉の収縮運動を和らげることができますので、鎮痛剤と併用することで、その痛みをより緩和することも可能です。

PMSの精神症状については、ピルでは効果が出にくい方もいらっしゃいます。その場合には、必要に応じて安定剤など、心に作用する薬を処方することもあります。

症状の出方はお一人おひとりで異なりますので、こういった治療を適切に複合的に行うことが大切だと考えます。

医療監修/山中智哉(オリーブレディースクリニック麻布十番院長)

Photo/池田博美(@hiromi_ike
Styling/hitomi matsuno(@hitomi_matsuno_) model/土田心愛・杉山史織

3月特集「あの子が来る、今月も。」

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岡田 育

文筆家。東京出身、NY在住。著作『ハジの多い人生』『嫁へ行くつもりじゃなかった』『天国飯と地獄耳』『40歳までにコレをやめる』。

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