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亡き祖母との思い出 天草の鯛茶漬け【あの日あの味 #3】

忘れられない味、と聞いて頭に浮かぶのはどんな味ですか? 「あの日あの味」は、フードコーディネーターの音仲紗良さんが、いつか食べた“あの味”をエピソードと共に紹介する連載コラムです。今回は、帰省のときに料理上手の祖母がふるまってくれた、熊本県天草市の鯛茶漬け。

亡き祖母との思い出 天草の鯛茶漬け【あの日あの味 #3】

わたしにとって、“思い出グルメNo.1”と言っても過言ではないのが、今は亡き祖母がよく作ってくれた「鯛茶漬け」だ。

都内で「鯛茶漬け」というと、日本料理店や料亭などちょっと高級で品の良い印象だけれど、熊本県天草市のそれはまったく違う。

無骨で素朴で、「インスタ映え」からはほど遠いルックス。
それでいて、五臓六腑に染みわたる味なのだ。

毎年お彼岸には、親戚の皆が祖母の家に集まった。
食べることと飲むことが好きな一族ゆえに、集まると毎日宴会になった。

料理上手の祖母は、ありとあらゆるご馳走をふるまってくれた。
釣りたてのタコ、関東ではあまり食べられないきびなごやイカの刺身、ブリ大根、酢レンコン、旬野菜の煮しめ……。
中でも特に、鯛を使った料理は絶品だった。

まず、近くの魚屋で大きな鯛を一匹買ってくる。
身は刺身用にさばき、頭や骨などのアラは昆布・酒・水とともにゆっくり沸かしてダシをとり、薄口醤油で味を整え、豆腐と刻んだ長ねぎを加えてお吸い物にする。

そして余った鯛の刺身は、晩のうちに、九州特有の甘く濃厚な醤油とたっぷりのすりおろし生姜に漬けておく。

翌朝、それを炊きたてのごはんにたっぷりのせて、熱々の湯をかけて食べる。
トッピングは、熊本の名産のひとつである高菜漬け、それと白ゴマだけ。

これが私にとって究極の「鯛茶漬け」だ。

鯛の刺身からおいしいダシがたっぷり出るから、日本料理店や料亭のように、昆布や鰹で丁寧にダシをとることはない。

漁港の近くで新鮮な魚が手に入るからこそ、食材の良さを存分に楽しめる、贅沢な一品なのかもしれない。


お彼岸の季節になると、毎年祖母が作ってくれた鯛茶漬けの味を思い出す。
今年の春は帰れそうにないから、東京の家でひとり再現してみることにした。

天草の鯛茶漬け

材料(1人分)
【鯛の漬け】
鯛の刺身:8~10切れ
甘口醤油:適量
関東の醤油だとしょっぱくて鯛の漬けには向かないので、 九州の甘口醤油やさしみ醤油を。

生姜すりおろし:1かけ分
ごはん:お茶碗1杯分
高菜漬け:適量
白ゴマ:適量


作り方
1. 鯛の刺身を密閉容器に入れ、甘口醤油をひたひたになるくらい入れる。生姜すりおろしを加えて全体を和え、一晩漬ける。

2. 炊き立てのごはんを丼に盛り、中央をくぼませて1の漬けた刺身を入れ、ごはんをかぶせ蓋をする。

3. 刻んだ高菜、白ゴマをのせて沸かした湯を全体にかかるように注ぐ。量はごはんがひたひたになるくらいでOK。

全体を混ぜていただく。1の漬け汁で味の調整を。

関東の人は、濃い色にぎょっとするかもしれないが、熊本では白身魚にはこの醤油がスタンダードだ。

鯛の旨味を甘口の九州醤油が引き立てる。
辛みのある高菜漬けが味を引き締め、白ゴマの香ばしさがアクセントに。
飲んだ次の日には、特におすすめしたい。

いくつになっても心に残る思い出の味って、意外と素朴で、至ってシンプルだ。
あんなにご馳走をこしらえてくれた祖母はいまごろ、天国で「それかよっ」とがっかりしているかもしれない。


あなたにとって、思い出の味は何ですか?

故郷に帰る人も、帰れない人も。
お彼岸を前に、思い出の味にひたってみてはいかがでしょうか。

音仲 紗良

フードコーディネーター、ライター。株式会社ぽかぽかてーぶる代表取締役

出版社でおもに食と美容の雑誌ページの企画編集を担当したのち、独立。多数メディアで執筆しながら、メニュー開発や店舗プロデュース、PR等幅広く活動中。2016年12月に立ち上げたナッツ専門店「nuts tokyo」は、オープンか...

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