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わたしの小さな力でも、子どもや親の未来を救えると知った【犬山紙子×紫原明子】

大切なのは、「こんなにたくさんの人が、子どものことを思ってます」という気持ちが伝わること。

わたしの小さな力でも、子どもや親の未来を救えると知った【犬山紙子×紫原明子】

2018年3月2日、東京都目黒区で両親から虐待を受けて亡くなった、船戸結愛ちゃん。

彼女にまつわるニュースが流れる度に、やりきれない気持ちになり、憤りや悲しみを感じるとともに、具体的にどうすればいいのか、自分になにができるのかわからず、そのたびに無力感に襲われた。

今この瞬間も辛い思いをしている子どもがいる。なにかしなければいけない。そんな思いが募る一方で、日々の仕事や生活に追われていく中でだんだんとその気持ちが薄れていくのを感じていました。

結愛ちゃんが亡くなってから約8カ月、「私たちにできることがありました。 #こどもギフト #こどものいのちはこどものもの」というタイトルとともに投稿された犬山紙子さんの記事は、そんな情けない自分の中に、かろうじて残っていた「子どもたちのためになにかしたい」という気持ちを再生させてくれる、寄付型プロジェクトの開始を告げるものでした。

今回は、「#こどものいのちはこどものもの」を合言葉に、社会的養護啓発プログラム「こどもギフト」でクラウドファンディングを展開中のイラストエッセイストの犬山紙子さんと、育児中の母親へあたたかな視線を向ける「WEラブ赤ちゃんプロジェクト・泣いてもいいよステッカー」の企画者で、作家の紫原明子さんに、子育てする女性を取り巻く環境と、その支援について対談いただきました。

【こどもギフトとは】

社会的養護を必要とするこどもたちに対して、クラウドファンディングで支援を届けるプログラム。児童養護施設や、自立援助ホームといった6つの施設・団体への支援をただいま募集中。

社会的養護啓発プログラムこどもギフト

【WEラブ赤ちゃんプロジェクトとは】

紫原明子さんの呼びかけウーマンエキサイトが立ち上げた「WEラブ赤ちゃん」プロジェクトは「泣いてもいいよ!」と書かれたステッカーをスマホやパソコンに貼ることで、赤ちゃんの泣き声を温かく見守っている人たちが居ることを可視化する試み。

WEラブ赤ちゃんプロジェクト │ 赤ちゃんを温かい目で見守りたい

■育児中だからこそ、自分の「好きなもの」を大切にしてほしい

編集部(以下、――):犬山さんはもうすぐ2歳になるお子さんが、紫原さんには中学1年生と高校2年生のお子さんがいらっしゃいますが、いま自分たちの周りに根付く育児環境をどう思いますか?

犬山紙子(以下 犬山):ちょっとずつ意識は変わってきているとは思うけど、まだまだお母さんたちは背負いすぎかなと思います。

紫原明子(以下 紫原):社会で子どもを育てていこうっていう意識が、日本は突出して低いって言われていますよね。子どもを育てるのはお父さんとお母さんだけ。社会の人は無関係というような空気がある。

犬山:母親が家事も育児もすべてひとりでできて当たり前、という風潮がまだあるんですよね。「自立」って、自分ひとりの足で立つことだと思われているけれど、本当はそうじゃない。自分が大変なときに、誰かに助けを求められること。そして、自分が誰かを助けられるときにきちんと助けてあげられる、この両方ができることだと思うんです。

けれど、これまで「人に迷惑をかけるな」って教育をされてきたから、みんな「助けを求める力」を持てないでいる。

犬山紙子:1981年、大阪府生まれ。イラストエッセイスト、コラムニスト。大学卒業後、仙台の出版社でファッション誌の編集を担当。2011年、美人なのに恋愛で負けている女子たちの生態に迫った『負け美女 ルックスが仇になる』で、デビュー。『アドバイスかと思ったら呪いだった』(ポプラ文庫)など著者多数。雑誌、テレビ、ラジオなどでも幅広く活躍中。 Twitter ID:@inuningen

紫原:人に助けを求めることができずに孤独を感じてしまうことは、自分が人を助けないことと表裏一体ですよね。だから、恋愛して急に親密になった瞬間、相手に100%依存してしまったりもして。

犬山:それわたしもカウンセラーの先生に言われてます(笑)。夫だけじゃなく、友達にもっと本心を見せて甘えて、もうちょっと分散しなさいって。自分的には、友達にもずいぶん甘えてるつもりだけど、まだまだらしい。

紫原:彼氏に40%、家族に30%、友達に30%、みたいにいい具合に分散できたらいいですよね。

紫原明子:エッセイスト。1982年福岡県生。13歳と11歳の子を持つシングルマザー。個人ブログ『手の中で膨らむ』が話題となり執筆活動を本格化。著書に『家族無計画』(朝日出版社)『りこんのこども』(マガジンハウス)。 Twitter ID:@akitect

――育児も、友達や地域に分散することで、母親の孤立を防げるんですね。おふたりは、実際にどう実践されていますか。

紫原:わたしは当初、ママ友を作ることが怖かったんですよね。公園デビューなんて面倒くさいし、人間関係が怖いという話を聞いていたこともあって。

――ママ友同士の関係をいかにも嫌な感じで描いているドラマなんかもありますよね。

紫原:だから、なるべく誰もいない時間に公園に行ったりとか、「赤ちゃんで、まだなにもわからないから、友達はいらないかな」とか言い訳をして、ずっとつながりを避けていたんです。それが東京に来て、幼稚園に入れることになって自然とママ友ができたら、すごく楽しかった。

犬山:ママ友、世間の怖いって印象と違うって私も思いました!

紫原:インターネットでは特に子育てとか夫婦関係、ママ友関係がテーマになると、ネガティブな情報が発信されるしウケやすいじゃないですか。だから繋がりが怖いものだと思ってしまうのかもしれません。その結果、私の場合は自分から孤立を選んでましたね。

最近、特に40代以上の女性からは、「友達ができない」という相談をよく受けます。どういうことなのか話を聞いていくと、趣味という趣味がない場合が多いんですね。もしくは旅行が趣味だったりするけど、観光がメインで、旅先で人との繋がりを作るという感じでもない。

犬山:一緒にいたいって思える友達を作るって実は難しいですよね。

紫原:そうなんですよね。だから読書会とか、ボランティアなど、近所のサークルに参加してみるのもいいんじゃないのかなって思います。私もそうだったように、専業主婦の人なんかはどうしても孤立しがちなので、家庭の外に、意識してひとつ居場所を持てるようにしてみる。PTAとか、お稽古ごと、スポーツジム、なんでもいいので、家庭の外に居場所があれば、孤立から脱するきっかけになるのかなって。

犬山:でも、ワンオペ育児をしている人って、それまでの人生の中で大切にしてきた趣味とか好きなものを知らず知らずのうちに手放してしまう。これって母親が趣味を手放さなきゃいけない社会の圧と現状のせいだと思っていて、この圧、すごく問題だと思っています。だからこそ子育て中だとしても、自分が心から楽しめるものを、意識的に大切にした方がいいと思うし、父親や周りも気にかける必要があると思う。

犬山:あとは行政の支援に誰もがアクセスできないといけない。けれど、やっぱり今も敷居が高い。

紫原:たしかにわたしも全然利用できなかった。最初の子どもを生んだときはまだ10代で、自分が若い母だったこともあり、「きちんとした育児ができていないんじゃないか」っていう目で見られてしまうのでは……という恐怖があったんです。公共の場にいくたびに、怒られたらどうしようって、いつもビクビクしていました。育児ポリスに捕まって「湿疹ありますねぇ!」とか口うるさく指摘されたらどうしようって。そもそも、福祉施設って、病院と同じようなイメージが私にはあって、近寄りがたい気がしていたんです。

――それがハードルの高さですよね。犬山さんはいかがですか。

犬山:わたしはシルバー人材センターにお願いして、週に3日、2時間ずつ家事をやってもらっています。家事代行サービスを使うよりも安いんですよ。掃除洗濯料理をやってくれるんです。うちはもともと、夫に家事を全部やってもらっていたけど、さすがに子どもが生まれてからは彼の負担が大きすぎるなと思って。わたしなりの家事分担として、お金を出して人に来てもらうようにしています。

全国シルバー人材センター事業協会

紫原:どうしよう、なにかしなきゃ、って思った気持ちを、お金でなんとかするのはありですよね。

犬山:「家事や育児をアウトソーシングをしたほうがいい」って、最近はよく言われるようになったけど、「いうてもお金かかるじゃん」って人もけっこういます。

だけど行政やNPOの無料のサービスもたくさんあって、その情報は持っていたほうがいいですよね。例えばわたしは、渋谷区の住人じゃないんですけど、渋谷区のLINEに登録しているんです。「今度こんな親子イベントがあるよ」とか「風疹の注射が無料になりますよ」とか絵文字付きで届いて、すごく便利。日本全国、すべての市町村で、これをやってくれって思いますね。LINEならば若いママも気軽に登録できるし「行ってみよう」とか「こういうバックアップがあるんだ」って気づけますよね。

紫原:妊娠した人が、LINEを登録するみたいな窓口があればいいですよね。

犬山:そう。登録して、ずっと切れ目のない支援が続いていけばいいなって思います。

■親への支援、子どもへの支援、どちらも必要

――適切な支援を受けることができずに孤立してしまい、結果として子どもに暴力をふるってしまう可能性は誰しもゼロではない。だからこそ、虐待という問題はわたしたちにとって無関係ではないのだと思います。「こどもギフト」には、虐待をしてしまった親への支援もありますよね。

「親子への未来ギフト」12月14日時点での公式サイトのキャプチャより。「育てられず悩む女性や妊婦を24時間救える「いのちのドア」継続へ」と「子どもの笑顔のために 虐待に至った親たちの回復を支えたい」のふたつがある。

犬山:虐待に至った親たちへの支援って理解されにくいんですが、とても大切なんです。やっぱり虐待をする親自身も傷ついていて、自分が虐待被害者のケースもあるし、社会に傷つけられていることもある。夫のDVもすごく多かったり、両親との兼ね合いが悪くて、誰の手助けも得られないこともある。


紫原:ほかにも生活が困窮するとか、仕事で追い詰められたりとか、外的要因によって、子どもに適切な接し方が出来なくなる可能性は誰にでもあると思います。

犬山:今、わたしは虐待していないですけど、夫が急に暴力をふるい始めたり、お金がなくなったりしたら、どうなってしまうか全然わからない。人の心なんて簡単に壊れてしまいます。だからこそ、虐待問題の支援から、親へのバックアップを切り離してはいけないんです。

紫原:家庭の外から子育て中の親をサポートすることが虐待を未然に防ぎ、子どもを守ることにもつながる。起きてしまっている虐待を止めることも大事だけど、予防することの大切さも周知されなければと思います。

犬山:予防が大事というのはまさにその通りだと思います。虐待を防いで子どもを守ることもそうだし、予防できたら費用も抑えられる。でも、予防するための支援は理解がされにくい。

――子どもへのケアはどういうものが必要なのでしょうか。

犬山:子ども自身が虐待を受けてしまったり、酷いことをされたとき、「辛かったね、でもあなたはそんなことされていい人間じゃないからね」って寄り添って代弁してくれる存在が必要です。

そういう寄り添いがないと、その子どもは未来を楽しみにもできないしその先、「こういうときは自分も暴力をふるうしかない」とか「やり方がわからないから叩いてしまおう」とか、今度は加害者側になってしまう可能性もある。そうならないための根本治療は、子どもの心に寄り添うことだと思います。

紫原:結愛ちゃん事件のあとに、有識者の方々が中心となって「こどもセーフティラボ」という、子どもの安全を守るための勉強会を開催してくださっています。そこに参加させていただく中で知ったのですが、虐待で命を落とす子どもの中で最も多いのが生後0日死、つまり生まれたその日に亡くなってしまう赤ちゃんなんです。

これは、多くの場合、望まない妊娠が招く不幸なので、男女ともにきちんと避妊を意識して、望まない妊娠をしないように心がければ減らすことができます。

だから、虐待の予防のためにも、子どもたちへの性教育はとても大事だそうなんです。ところが、日本の性教育はとても遅れていると言われていますね。子どもたちに避妊について教えると、避妊をすればセックスをしていいと教えることに等しい、と考えて性教育に猛反発される方がいらっしゃるようで。

犬山:当たり前だけど女の子は「避妊して」と言える教育が必要だし、それ以上に男の子は自分からちゃんと「避妊する」って言えないと、セックスをする資格はないことが教育されてほしい。けど、女の子側に、自分から避妊してっていうと、嫌われてしまうって考えがまだある。

紫原:友人の中学や高校の先生に話を聞くと、子どもたちの間でも最近、デートDVが少なくないそうです。

犬山:実際に産んですぐ、赤ちゃんを殺してしまったお母さんの話を読んだことがあるんですが、圧倒的に自己肯定感が低かった。まず相手からの要求に「ノー」と言えない。それから、誰かに依存しなければ生きていけない。だから妊娠を目的としないセックスは、男性側から避妊をすることがマストであってほしい。そういう状況で妊娠したので、誰にも助けを求めることができず、産んでこっそり自分の家で殺してしまった。

――自己肯定感の低さはどういったところから生まれるのでしょうか?

犬山:親の育て方などさまざまな原因があるとは思いますが、社会全体的に女性が自己肯定感を高められる雰囲気ではないってこともあります。その結果、「相手を求めてくれているのに、わたしごときが『避妊して』なんて言えない」となってしまう。ダヴ(Dove)のCMに「あなたは自分が思うよりもずっと美しい」というものがあるけど、こういうことって日本ではなかなか言われないですよね。

■小さな力でも、子どもや親の未来を救うことができる

――支援の話とも繋がってくるのですが、チャリティすることって、自己肯定感を高めてくれる気がします。「人のためになにかをできる自分」というのを確認できたり。

犬山:そうなんですよ。わたしは落ち込んだときに寄付することがあります。なにかあって自信を喪失していたり、失敗したって落ち込んでいたり、人を傷つけること言っちゃったってへこんでいるときに、高額じゃなくても、寄付することでと気持ちが上がって一週間くらい気分よくいられる。すごくいい薬です。

紫原:いいですね。貢献感って、生きていく上ですごい必要ですよね。

犬山:そうなんですよ。わたし自身がチャリティすることに救われているところがあります。

紫原:今以上にもっと社会の役に立つことを「やりました感」が出る方法もあってもいい気がしますね。……例えばチャリティパーティとか。

犬山:実はチャリティパーティの話もでたんですけど、日本だとまだ受け入れにくいんだろうなって…。どうしても華やかなセレブが着飾ってチャラチャラしてって印象があるじゃないですか。だけど機が熟したときにやりたいです。というのも、わたしが「こどもギフト」の活動をしているのは、海外文化の影響を受けているところもあるからなんです。

――アンジェリーナ・ジョリーがたくさんの里子を育てていたり。

犬山:そうです。海外の人たちはチャリティを当たり前にしているんです。自分が影響力を持ったらチャリティやるよね、くらいの感覚。そうやって著名な方が発信することで「こんな活動があったんだ」「わたしも寄付してみよう」という連鎖が起きたりする。だからチャリティパーティもそうだし、チャリティすることが、売名とか偽善とか言われなくなって、みんながどんどんやり出すと、文化は変わっていくのかなって思いますね。

紫原:いま過渡期な感じしますよね。だんだんと、チャリティを偽善と笑ってる人のほうがダサい、というような空気になってきている。なんといってもその行動でサポートできるものがあるわけですからね。

犬山:それから「チャリティをする人は、マザーテレサみたいな人」というイメージを変えたいんです。そういった型へのはめ込みがチャリティへのハードルを高くしていると思っていて。

わたしだって、好きな洋服は買うし、旅行にも行きます。人の悪口を言ってしまうこともあるし、お金が欲しいって思うんです。けど、そういう人だってチャリティをしてもいい。ハードルが高くなることで、なにかしたいっていう気持ちが摘まれてしまうのはもったいない。それに、自分に対して無理な高いハードルを求めてしまうと長続きもしないですものね、継続することが大切だと思うので無理をしないは本当に大切だと思ってます。
大切なのは、「こんなにたくさんの人が、子どものことを思ってます」という気持ちが伝わることだと思っています。「こどもギフト」に寄せられたたくさんの応援コメントを見て、施設や子どもたちが、「こんなに応援してくれてる」と喜んでくれた姿を見て思いました。

――支援とともに送られる応援メッセージが、子どもたちまで届くんですか?

犬山: それはプロジェクトの方が子どもに伝えるかどうかではありますが、事実は子どもたちにも伝わります。大人に裏切られてきた子どもたちが「あれ、大人って裏切るだけじゃないんだ」ってことを、少しでも感じてくれたら、それが虐待のニュースを聞くたびに何かしたいと思っていた人のできることのひとつだと思う。

紫原:必要な施設が足りないとか、十分な予算がないとか、なんとなく知ってはいたけど、具体的にどこに、何がどれだけ足りないかは見えていなかった。だから何かしたくても手をこまねいていたところがありました。それを「こどもギフト」は、表に出してくれましたよね。具体的に示してあって、すごくわかりやすい。

犬山:寄付は、どんな少額でもいいんです。小さくても、たくさん集まることできっと大きな力になるので。

「こどもギフト」では、1000円から寄付をすることができます。

すでにすべてのプロジェクトが目標金額を達成しておりますが、こうした子どもや親への支援には、継続性が大切です。どうか、あなたのお力をお貸しください。

社会的養護啓発プログラムこどもギフト

大泉 りか

ライトノベルや官能を執筆するほか、セックスと女の生き方や、男性向けの「モテ」をレクチャーするコラムを多く手掛ける。新刊は『女子会で教わる人生を変える恋愛講座』(大和書房)。著書多数。趣味は映画、アルコール、海外旅行。愛犬と暮...

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