映画『私は、マリア・カラス』トム・ヴォルフ監督インタビュー! ディーヴァと呼ばれた女性の切ない人生の真実。
日本でも多くのファンを持ち音楽史に永遠に輝くオペラ歌手、マリア・カラス。【シネマの時間】第50回は、魂で歌い、愛した世紀の歌姫の切ない人生の真実が紡がれた映画『私は、マリア・カラス』をお送りします! 未完の自叙伝、未公開映像・音源、封印されたラブレター初解禁! 2018年12月21日(金)よりロードショー!
こんにちは。アートディレクターの諸戸佑美です。
歌劇『蝶々夫人』で歌われる「なんて美しい空!」(作曲/プッチーニ)や『椿姫』の「さよなら、過ぎ去った日々よ」(作曲/ヴェルディ)、『トスカ』の「歌に生き、恋に生き」(作曲/プッチーニ)など、オペラに馴染みのない方でも世紀の歌姫マリア・カラスの名を聞いたことがあるのではないでしょうか。
唯一無二の歌声と、演じるキャラクターが憑依する女優としての才能、さらにエキゾチックな美貌と圧倒的なカリスマ性で音楽史に永遠に輝く星となったオペラ歌手、マリア・カラス。
スターの座に上り詰めた彼女の名は、自分にも他人にも妥協を許さない、完璧を求めるスタイルや自尊心が高いゆえの周囲との衝突、世間を騒がした恋愛など数々のスキャンダルによってさらに広まりました。
【シネマの時間】第50回は、1977年に逝去したオペラ歌手マリア・カラスのドラマチックな人生を紐解くドキュメンタリー映画『私は、マリア・カラス』をトム・ヴォルフ監督のインタビューを中心にお送りします!
監督のトム・ヴォルフは、マリア・カラスの歌声に惚れ込み、3年に及ぶ「真のマリア・カラスを探す旅」の中で、マリア・カラスの未完の自叙伝や封印されてきたプライベートな手紙、秘蔵映像、音源などを入手。
自宅でリラックスする様子や友人たちとクルーズを楽しむ姿を収めた8ミリ映像、16ミリのプライベートフィルム、熱狂的なファンが無許可で撮影したパフォーマンス映像、お蔵入りとなったテレビインタビューなど、作中の半分以上が初公開素材で構成。
これまでモノクロでしか見られていなかった映像も写真をもとにカラー化しています。
未完の自叙伝で綴られる言葉や、友人、愛する人に宛てた手紙は映画『永遠のマリア・カラス』でカラス役を演じたファニー・アルダンが朗読。
マリア・カラス本人の歌と言葉だけで綴られる真実の告白は、アーティストとして真摯に高みを目指そうとする姿や、ひとりの女性として結婚や出産、幸せの間で揺れ動く姿など観る者に多くの共感を呼びパワーを与えるでしょう。
12月21日(金)より日比谷のTOHOシネマズ シャンテや渋谷のBunkamura ル・シネマほか全国で順次ロードショー!
ぜひ、映画館でお楽しみください!
■映画『私は、マリア・カラス』あらすじー初めて自らの言葉と歌だけで綴る、ディーバと呼ばれた女性の切ない人生の真実。
■トム・ヴォルフ監督インタビュー
ーーポスター、とても素敵ですね。
ありがとうございます。フランスやアメリカのポスターとは違う日本のポスター、すごくいいなと思っています。同じ写真で作っていますが、仕上がりが違っていて楽しませてもらっています。あのマリア・カラスの写真は、随分長いあいだ観ていますが、未だに魔力を感じるんです。目が離せないんですね。
ーーそうですね。映画も鑑賞させていただいたのですが、とても素晴らしく惹き込まれました。マリア・カラスのことをより身近に感じ、さらに好きになりました。12月にいよいよ日本で公開ですが、今のお気持ちをお聞かせください。
ものすごくハッピーです。ドキドキしています。言葉になりません。
5年かけて製作したのですが、とても大変でしたし、まさか40カ国で公開されるなんて思ってなかったです。
一国でも公開されるかわからなかったんです。
非常に複雑で時間のかかるプロジェクトで、一体どこに行くかわからない旅でした。
特に日本で封切られることに非常に喜びを感じています。
というのは、私と日本の間にはとても個人的な関係がありまして、14年前に初めて日本へ来て、その時に本当に日本文化に完全に恋に落ちました。
当時、富士山に登ったんですけれども富士登山の経験というのが、自分の人生を変えてしまったんです。
マリア自身にとっても日本というのは、とても意義深い国だと思います。
舞台に立ったマリアの最後の公演が、日本だったのです。
40年以上経って日本にまた再び来れたことは、彼女にとっても意味のあることだと思いますし、日本の観客の皆さんとマリア・カラスのラブストーリーがまだ続いているように思うのです。
ーー日本にもたくさんのファンがいて、これまでにも数々のマリア・カラスの映画が製作されましたが、今までにない作品だと思います。没後40年経った現在、マリア・カラスの映画を撮ろうと思ったのはなぜですか?
もともとオペラのこともマリアのこともあまり知らなかったんですが、このような形でマリアの映画を創ることになったのは宿命的なものがあったのかと思います。
初めてニューヨークのメトロポリタンオペラでイタリアのオペラを聴いて、いろいろ調べていたらマリア・カラスのレコーディングの声を聴きまして、あまりにも素晴らしかったので、もっと知りたくなったんです。多くが関係者が語ったもので、彼女の人生の中には、今なお語られていない素晴らしいストーリーがあることがわかったんです。
彼女自身の言葉ではまだ伝えられていなかったので、新しいアプローチで映画にするといいんじゃないかと思いました。
ーー宿命的に感じたんですね。直感ですね。
はい。マリア・カラスのことをまったく知らないところからスタートして、いろいろ調べてリサーチしました。
彼女については、本当にたくさんの本やTV番組があるのですが、いつも他の人の言葉なんですね。
そのことに私はとてもフラストレーションを感じて、本当は彼女はどういう人だったのか真実を伝えたいと思いました。
もし私がこのプロジェクトができたなら、他人の言葉でなくマリア・カラス自身の言葉で語りたいと思ったのです。
というのは、私自身がマリア・カラスのことを知りたいという気持ちもありましたし、観客に一体彼女は本当のところどうだったのかということを他の人の言葉でなく彼女の言葉で知ってほしかった。
ーーなるほど。監督のプロフィールを読むと、優れたインタビュアーでもあり、その気持ちは私もよくわかります。
3年もの時間をかけて世界中をまわってマリア・カラスの友人たちを探し出し、未完の自叙伝や400通を超える手紙を探し求め、監督の並々ならぬ情熱を本当に素晴らしいと思います。この間の心に残るエピソードを教えていただけますか?
舞台裏のエピソードですね。
世界中をさまざまなマテリアルを求めて旅したのですがとても大変な旅でした。
全部を彼女自身の言葉で製作したかったので、世界中に散らばった材料を見つけるのが大変だったのです。
材料を見つけ出してから次に難しかったのは、それを編集することなんですね。
バラバラのパズルをどう編集するか。
集まったいろいろな材料でひとつのクリアな絵を創らなければいけないのが、とても大変でした。
編集作業をしている時に、富士山を登山したことを思い出していました。
6カ月くらい編集してたんですけれども、本当に同じ大変さで、あの聖なる山を登るのと同じような気持ちでした。
つまり力も必要だし、忍耐力も必要だし、愛と尊敬が必要だと思いました。
ーー山登りは、お好きなんですか?
実は、そんなに好きじゃなかったんです(笑)。
富士山で初めて登山体験をしました。
2度目の登山がこの映画です。
私は実は登山が好きなのかもしれない。
こういう映画を創れたのだから(笑)。
ーー世界中をマリア・カラスについての資料を探して本当に素晴らしい情熱だと思います。
監督は、マリア・カラスのどこに特に惹かれたのですか?
私は、全然オペラのことを知らなかったんですが、一番最初に彼女の歌声を聴いたときに感じた感情が、今までにないものでそこに惹き込まれました。
また、彼女の人生や宿命、悲劇的なもの、彼女がそういったすべてを超えて歌にしてアートにして、またそれがレガシーとなって、未だに世界中の人々の心を動かしているところに惹かれたんです。
ーーそうですね。すごいパワーだと思います。
音楽史に永遠に輝く才能と絶賛されたマリア・カラスですが、一方でいろいろなアクシデント、パッシングにもあっています。
28歳年上の男性との結婚、大統領やセレブも駆けつけたローマ歌劇場の舞台を第一幕で降りたことへのパッシング、メトロポリタン歌劇場の支配人とのバトル、ギリシャの大富豪オナシスとの大恋愛、そしてそのオナシスが元ケネディ大統領夫人ジャッキーと結婚したことを新聞で知るという、とても切ない衝撃の顛末などドラマチックな人生でまさにオペラの中の主人公のようです。
監督は、マリア・カラスのような女性の生き方を男性としてはどう思われますか?
私は、この映画を彼女の視点で創りました。
つまり女性の視点で創ったということで、自分の視点というのは全部取り除いて、彼女の視点を観客へ伝えるためのいわば媒体、メッセンジャーになったのです。
自分の視点はまったく排除しているんです。
彼女が自分自身として女性としての自分、アーティストとしての自分、キャリアを持っている自分。
そのいろいろな面から見た彼女を全部映画で表現しました。
女性の人は非常に共鳴できると思います。
特に50〜60年代、あれだけのキャリアを持っていたということは、女性としてはとても大変だったと思うのです。
より強くならなければならなかった。
ーーなるほど、メッセンジャーなのですね。
確かにプロフェッショナルな歌姫としての姿に感動しましたし、あのような繊細で可愛らしい面があったのだということもわかってより身近に感じました。
はい。この映画を創ったポイントはまさにそうなんですね。
マリア・カラスの偉大なアイコンであり、伝説の歌姫のもうひとつの顔が、素晴らしく美しい人間であったということを観せたかったんです。
この映画を観ることによって皆さんが、マリア・カラスを身近に感じると共に、人間的な面が理解できたからこそ、アーティストとしての彼女をより愛せるようになるという風になれば良いと思います。
つまり彼女の人間としての脆さを理解することによって、彼女は神と言われていたわけなんですが、そうではなくて人間なんだ。人間が天に近づこうとしてもがいていたことを、理解していただけたら嬉しいです。
ーー手紙の語りの部分も個人的に語られてるように感じられて、あんなに筆まめな方だったんだなということにも驚きました。
そうですね。たくさん手紙を書いていますよね(笑)。
携帯もメールもない時代で、伝達の手段が手紙でした。
手紙というのが私たちにより親密さを感じさせるわけです。
手紙の中に書かれている感情は、特別に親密なもので、ある意味彼女の内なる声だと思います。
ーー監督自身が一番好きなシーン、そして今回劇中でさまざまなオペラを聴くことができるのも見所ですが、特に好きな楽曲を教えてください。
そして最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。
まずは、歌劇ノルマの「清らかな女神よ」(作曲/ペッリーニ)がやっぱりすごいなと思うのですが、58年の彼女の絶頂期の場面をフルカラーで観ることができるのもワクワクします。
でも同時にトスカも良いし、カルメンも良いし、ひとつのシーンを選ぶのは難しいですね(笑)。
観ていただいた方が、彼女の内面から見た人生から何かを感じていただけたらと思います。
マリア・カラスは、歌に生きた特別なアーティストであり、恋に生きたひとりの女性であったわけなんですけども、彼女の宿命・人生といったものを内側から経験していただいて、より理解することで素晴らしい伝説的なアーティストの人間というものをありのままに感じていただければと思います。
ーー貴重なお話をありがとうございました。映画のご成功、今後のご活躍を心よりお祈りしております!
■トム・ヴォルフ監督プロフィール
ロシア、サンクトペテルブルク生まれ、フランス育ち。
2006年に映画作りを始める。カメラマンとしても活躍。
ファッション広告、国際的組織や企業のPR映像、オペラをテーマとする短編映画などを製作。
シャトレ座ではオーディオビジュアル・コミュニケーションを3年に渡り担当し、さらに、プラシド・ドミンゴ、スティング、デヴィッド・クローネンバーグなどの数々の偉大な人物や作家のインタビュアーとしても活躍。
2013年にニューヨークに移り、マリア・カラスの歌声に感銘を受け、マリア・カラスを探求するプロジェクトを開始。
3年間にわたり世界中を旅し未公開の資料や映像、音源を探す。
またカラスの近親者や仕事相手にも会いに行き、60時間以上のインタビューを実施。
そこで得た貴重な情報や素材が初の長編監督映画となる『私は、マリア・カラス』(原題:Maria by Callas)、3冊の書籍、2017年9月パリで開催した展示会などで公開。
■映画『私は、マリア・カラス』作品紹介
映画『私は、マリア・カラス』2018年12月21日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、Bunkamura ル・シネマほか全国で順次ロードショー!
公式サイト:https://gaga.ne.jp/maria-callas/
原題:Maria by Callas
監督:トム・ヴォルフ
製作:トム・ヴォルフ
朗読:ファニー・アルダン
製作年:2017年
製作国:フランス
配給:ギャガ
上映時間:114分
映倫区分:G
©2017 - Eléphant Doc - Petit Dragon - Unbeldi Productions - France 3 Cinéma
■映画『私は、マリア・カラス』登場人物
アリストテレス・オナシス(海運王)
バティスタ・メネギーニ(実業家・夫)
エルビラ・デ・イダルゴ(ソプラノ歌手・恩師)
ジャクリーン・ケネディ(元米国大統領夫人)
ヴィットリオ・デ・シーカ(俳優・映画監督)
ピエル・パオロ・パゾリーニ(映画監督)
ルキノ・ヴィスコンティ(映画監督)
オマー・シャリフ(俳優)
ブリジット・バルドー(女優)
カトリーヌ・ドヌーヴ(女優)
グレース・ケリー(女優・モナコ公妃)
レーニエ3世(モナコ大公)
エリザベス・テイラー(女優)
ウィンストン・チャーチル(元英国首相)
エリザベス女王
マーガレット・ローズ(エリザベス女王の妹)
ジャン・コクトー(作家)
フランコ・ゼフィレッリ(映画監督・オペラ演出家)
ジュゼッペ・ディ・ステファノ(テノール歌手)
ルドルフ・ビング(メトロポリタン歌劇場支配人)
エドワード8世(ウィンザー公爵)
ウォリス・シンプソン(ウィンザー公爵夫人)
【シネマの時間】
アートディレクション・編集・絵・文=諸戸佑美
©︎YUMIMOROTO
本や広告のアートディレクション/デザイン/編集/取材執筆/イラストレーションなど多方面に活躍。