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「女性の質が男性や子ども、国の質を決定する」。中国SNSでの炎上発言を考える

中国SNSで11月に起きた炎上事件をご存知でしょうか。実業家の俞敏洪が「女性の質が男性や子ども、ひいては国の質を決定する」といった意味の発言をしたのを引き金に、女優の張雨綺(ZHANG Yuqi)がSNSで彼に対し、痛烈な批判の言葉を投稿しました。本件を整理すると共に、発言の真意を考えます。

「女性の質が男性や子ども、国の質を決定する」。中国SNSでの炎上発言を考える

中国のSNS「Weibo」で、実業家俞敏洪(YU Minhong)が、「女性の質が男性や子ども、ひいては国の質を決定する」といった意味の発言をし、炎上した騒動がありました。

彼は女優の張雨綺(ZHANG Yuqi)により痛烈な批判を受けました。騒ぎのもととなった発言の詳細と周囲の反応を紹介しながら、彼が発言に至った背景を考察します。

■新東方CEO俞敏洪と、女優 張雨綺

まずは、今回の事件に登場する主要人物2名を簡単に紹介します。

俞敏洪は1962年生まれ、江蘇省出身の男性で、北京に本社を構える「新東方教育集団」の創始者であり、現在も代表を務めています。同社は2006年にニューヨーク株式市場に上場し、教育業界では中国でも全国的に知られた組織です。

俞CEOは北京大学のスペイン語学科を卒業後、同校で講師を務めていました。数年後に辞職し、1993年に新東方学校を創業します。

2009年には中国国営放送局のCCTVで経済界の「今年の人物」に選出されたり、2012年には中国で最も影響力のあるリーダー50名にも選ばれたりするなど、今日に到るまで成功の道を辿っています。

彼の今回の問題発言にいち早く痛烈な言葉を発したのは、山東省出身の女優、張雨綺(ZHANG Yuqi)。1986年生まれの32歳。

2006年周星馳監督の『長江7号』で主演を務めたほか、数々の作品に出演、香港映画祭で最優秀新人賞を取るなど受賞歴も多い女優です。昨年中国で、本年日本で上映された日中合作映画『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』にも出演しています。

■「女性の堕落により国が堕落している」発言を一部擁護する人も

俞CEOは20118年11月18日のとあるシンポジウムで、「物事に対する評価の方向性が、教育の方向を決める。それは女性の男性に対する評価基準が男性の行動を左右するがごとくだ」と発言。

「女性が男性を選ぶ基準に『お金さえあれば心は関係ない』と言ったとすると、男性は良心を軽視し、金稼ぎにだけ精を出すようになるだろう。今、女性がダメな基準を持っているから、中国という国家は堕落している」

これに対し、女優の張雨綺は「女性の価値とは、両性の平等な関係とは、そして平等とは何か……。北京大学での教育も、新東方の事業の成功も、あなたにそれらをわからせることはなかったんですね」というコメントをWeibo上で公開。俞CEOにメンションを飛ばし、親指を下に向けた絵文字を文末に添えました。

この投稿には、騒動から10日経った11月28日時点で、81.5万件のいいね!がつけられています。

18日20時半にされた張雨綺の投稿を受けてか、同日22時頃、俞CEOはWeiboで謝罪文を掲載しました。

謝罪の言葉に続き、以下のように持論を再度展開します。

「女性のレベルは国家のレベルを表すということを言いたかった。女性の質が高ければ、母親の質が高いということになり、子どもの質も高くなる。男性もまた、女性の価値観に左右される生き物といえる。つまり、女性が理知的な人に対し高い評価を与えるなら、男性は賢くなろうと務めるだろう……女性の強さが男性の強さにつながり、ひいては国家を強くする」

さらに後日、この出来事に対し、「彼は女性に謝る必要はない」と擁護する発言をし、物議を醸したのは、ECサービス「当当」創業者兼CEOの李国慶です。

李CEOは「自分の観点を主張できるというのは風通しのいい社会の証左だ」「意見のぶつけ合いは、特定のロジックがどの範囲に適用されるのかをはっきりさせてから行うべきである」と主張します。

その上で彼は「(今回俞CEOが例に挙げた女性の影響力の話は)その範囲を家庭内として話しているのか? そうであれば今回の表現(女性が男性をダメにする)というのは間違いではないだろう。しかし国家という規模では……その表現には無理がある。社会や国家の堕落は、エリートの堕落により起こる」と表明します。

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■まとめ。背景には女性の発言権の大きさ? 目指すは男女同権、他者を尊重する社会

今回、俞敏洪CEOは実際に女性を軽視、愚弄しているのでしょうか? 筆者はそうは思いません。彼は因果関係として女性と男性と国家の関係を説いており、むしろ女性の影響力の大きさが浮き彫りにされています。また、女性はこうふるまうべきだといった主張をしているわけでもありません。

確かに、現在の国の堕落の責任の発端が女性にあるかのような言い方にはいささかの疑問を覚えます。一方で、そうであるならば、そんな堕落した基準に乗ってしまう男性もまた、しょうのない生き物であり、女性同様、堕落した存在といえるのではないでしょうか。筆者には、女性だけを馬鹿にした発言だとは、どうしても思えないのです。

実際に、中国の家庭における女性の発言力の大きさ、決定権の大きさは、筆者の知る限り日本よりも大きい場合が多いです。「結婚するならば男性が家と車を用意しなければならない」という言葉は、筆者が中国と関係を持ち始めた10年以上前から今も変わらず聞かれる言葉です。夫婦間で妻から「これは決定事項なので、あなたの提案は聞かない」との言葉をかけられたと聞いたこともあります。

また、中国で男性に経済力を求めない女性を寡聞にして知りません。日本よりもずっと社会保障の不安定な中国では、多くの困りごとを身内で処理する必要があり、こういった事情もあってか、日本以上にお金を稼ぐことを大切に考えているように筆者は思います。

こういった背景を考えるに、女性の家庭内における発言力の大きさや、男女関係における男性に対する影響力の大きさが、ひいては国全体に影響を及ぼしかねないと件のCEOが考えるのも、想像には難くないと思えてくるのです(実際のところ、彼がどういう経緯でこの例示に辿り着いたのかは不明です)。

むしろ、筆者はこれを受けて親指を下に向ける絵文字を使ってしまった女優の張氏の振る舞いにこそ落胆を覚えます。彼女が女性を代表して抗議するのであればこそ、男性や女性といった区分にとらわれず、彼がそのような論理を展開する理由を冷静に問い詰めてほしかった。

そうはいっても、彼女は「全中国の女性を代表して」発言したわけですらありません。自由な発言ができることがSNSの醍醐味でしょう。筆者は女性ですが、同じ性別に振り分けられていても感じること、考えることはいろいろだということを痛感しました。

この世の中、同じ性質の人はいないと思います。同じ性別であっても、ひとつの事象に対する感じ方はさまざまです。性質の異なる人々が幸せに暮らしていける社会、そして人間関係を実現するには、一体どういった振る舞いが必要なのか……そのような視点で物事に向き合う人が増えれば、世の中は少し生きやすくなる、そんな考えが頭に浮かびます。

今回は「女性蔑視」と騒がれた出来事を追いましたが、結果として「多様性」を考えるという、思ってもみなかった着地点に到達しました。言語も習慣も異なる人々の感性を観察できるSNSはまったく面白いものです。

画像/Shutterstock

山浦 雅香

85年生まれ茨城育ち。事実婚の夫、小学生の息子と東京で生活中。就職2年目の27歳で出産退職、子育て専業2年、再就職、フリーランスを経て、インバウンドメディアの編集部に。大学時代の1年間の北京留学経験を活かして、翻訳・執筆も。

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