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コード・レス・ドレス・コード 今日の自分を奮い立たせる古着たち

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洋服が好きだ。特に古着。きちんと編集され整えられたヴィンテージショップもいいけど、玉石混合のロードサイド系リサイクルショップもいい。どこで売られていても、「前に持ち主がいた洋服」はかわいい。

コード・レス・ドレス・コード 今日の自分を奮い立たせる古着たち

前の持ち主と出会って別れた洋服たちはどこかへ流れていこうとしている。

すれ違った瞬間に縁深さを感じて呼び止めるのは、旅先で少しだけ自分に似ている他人を見かけて離れがたくなる現象と似ている。
この人はどんな人生を歩んだのだろう。この服はどんな人生を包んできたのだろう。

前の持ち主がいた世界のことを考える。そして自分のいたい世界のことを。


特別な予定がある日――例えば、訳もなく元気がない日。ずっと迷っていたことに白黒つけると決心した日。本当のことを言わなければならない日。そんな日のために、自分のクローゼットから古着を三着選んだ。

三着の前の持ち主の人生を勝手に想像し、その人生を包んでいたパワーを借りてみようと思う。

■元気がない日は「ぎらぎらのスカート」

前の持ち主の想像図

前も後ろも金色のスカート。なんというか、ぎらぎらである。
一方で妙にコンサバな形をしている。人間の大人のふりをしているんだけど全然擬態できていないドラゴンのようだ。

このスカートを履いていた女性を妄想する――。

80年代、同僚がこぞってパワーショルダーのジャケットを引っかけているのを尻目に、彼女はふにゃっとしたシャツを柔らかく着る。肩のラインがなだらかだったとしても、彼女の野心には何の影響もない。

スカートと同じくらいまばゆく光る屈強な精神で、彼女はオフィスをかつかつ歩く。

今の私のコーディネート

そのスカートは巡り巡って今私のクローゼットに吊るされている。
私はこのぎらぎらを夜遊びのときに着る。夜遊びと言っても、もっぱら散歩である。

夜の繁華街を徘徊するのが好きだ。
仕事に行き詰るとなるべくワルそうな装いで出かけていき、遊んでもいないのにイキって歩く。

大阪なら中津から十三大橋を通って十三の飲み屋街へ。淀屋橋から北新地を冷やかし大阪駅へ。鶴橋から酔っ払った大学生を掻き分け難波へ。

東京なら銀座から新橋を抜けて麻布十番へ。やっぱり新橋を通過して赤坂へ。

ぎらぎらの服を着ていると誰も話しかけてこない。一時間くらいイキりながらうろつき、疲れたら電車で帰る。
ネオン溢れる車窓にスカートを映しながら、この金色の鎧の、前の持ち主を思う。アフターファイブのナイトアウトにもこのぎらぎらは最適だ。ミラーボールの光をさぞ反射したことだろう。

最寄り駅に着く頃には、悩んでいたことはどうでもよくなっている。

■白黒つけたい日 は「水玉のワンピース」

前の持ち主の想像図

水玉模様の胸にひだ飾りがついている。素晴らしいフリルの頂点に四角い襟が端然と立ち上がる。

今時珍しいほどノーブルに作られたワンピース。この服はかつて、私の友達のお祖母さんの持ち物だった。

私はこの衣装の持ち主に一度も会ったことがない。

数年前の夏、友人の家族が避暑のために使っていた家に泊めてもらい、お祖母さんが着なくなった服を譲っていただいたのだ。若者のためのドレスから大人用の外套まで、あまり使われていないらしい広い和室に、さまざまな年代の服がかけられていた。


連れてきてくれた友人の背中にワンピースをこっそり当て、彼女の目鼻立ちを手がかりに、見知らぬひとりの少女を想像する。

無限に並べられた服の分だけ、脈々と時間が流れていくみたいだった。

今の私のコーディネート

春夏シーズンの婦人服売り場で買い物をしたことがある人ならわ分かると思うが、夏、白い水玉模様、ぱりっとしたフリル、……といえば、まあ、マリンなのだ。だから大抵、紺色や群青色が使われる。

しかしこんなに楚々とした佇まいでありながら、譲り受けたワンピースは真っ黒だった。

今まで曖昧にしていた決断を迫られる日、妙な頑固さを借りたくて私はこの服を着る。転職サイトに登録する日。復讐心をあらわにしたメールの送信ボタンを押す日。引越しを決める日。別れを告げる日。大小さまざまな決断が積み重なり、歴史になる。

しゃりしゃりとした生地に手で描いたような有機的なドットが散っている。

「白黒つけながら、時々は揺らいでもいい」と言われているようである。

■告白する日は「お面のセーター」

前の持ち主の想像図

……いや、明らかに変でしょ。フランスのヴィンテージショップの一角で私は困惑していた。

茶色いニットのセットアップ……なのだが、胸と膝にビーズでできたお面が縫いつけられている。

3つのうちふたつのお面が上下逆さまにひっくり返り、頭頂部からこれもまたビーズでできた長い紐が垂れ下がっている。何、この服!

店主のマダムがにやにや笑いながら「それ、日本のだよ」と話しかけてくる。タグにはカンサイヤマモトと書かれていた。

ここで売られているということは、前の持ち主はフランス人だろうか。あるいは、渡仏してきた日本人かもしれない。知っている人が誰もいない土地で、出身地を同じくするデザイナーの活躍に勇気づけられていたのかもしれない。とぼけた顔のお面が3つ、力強くこちらを見ている。

今の私のコーディネート

こんなふざけた意匠は、一世一代の告白をする日にこそ相応しい。

子どもの頃はコクハクといえば恋愛についてであり、そう頻繁に行うものではないと思っていたが、実は愛というジャンルに限らず本当に自分が思っていたことを口に出す機会は結構ある。

意を決して待ち合わせ場所に向かう。今日は一対一で話すので、お面はひとり置いてきた。そのかわりうんと熱狂的な装いだ。日常に終わりを告げに行こうとしているのに、大人しい格好をしていたって仕方ない。

歩くたびにビーズの束が揺れる。緊張に満たされた空気は「何、その服!」という最初の一言によって、いくらか和らぐだろう。

――前に着ていた人もいろいろあったけど、大丈夫。

そう言ってくれそうなお面とともに、私は喫茶店のドアを開けるのだった。

■コード・レス・ドレス・コード ~私らしい、規定のない装い~

突然だが、私はドレス・コードという言葉を聞くと「イ―ッ!」となってしまう。

「かかとが見える靴は娼婦の象徴だから畏まった場には相応しくない」? 

やめてくれ。私のかかとが何をしたというのだ。

と言いつつ、現実問題、結婚式にミュールを履いて行く根性はない。自分の装いのせいでホストが何と言われるかが気がかりになり、大人しくパンプスと忌々しい肌色のストッキングを手に取るのだ。ごめん、私のかかと。そして「娼婦」と揶揄された女性たち。

ミュールに限ったことではない。

オフィシャルでないものも含めると、知らないうちに決められていたルールは私たちの暮らしの中にたびたび登場する。

デニムで仕事に行かない。

デートの時はスカート。

暑くてもネクタイを締める。etc、etc。


それらに対抗して、私も勝手にドレスコードを作ろうと思う。「code」、規定というにはゆるいかもしれない。

いつかの誰かのストーリーを借りて、今日の自分を奮い立たせる、コードのないドレスコードを。



Text・イラスト/はらだ有彩(@hurry1116

DRESSでは7月特集「”私らしさ”をつくる人」と題して、ファッションの分野でモノづくりをする方たちの仕事や想いをお届けしていきます。

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DRESS編集部

いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。

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