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人生の新しいステージに行きたくて、子どもを持とうと決めた

子どもの人生に組み込まれることなく、もっと能動的に、自分のために子どもを持つ人生を選択することはできます。私たちは子どもを持つかどうかを、もっと自由に選択できるのです。

人生の新しいステージに行きたくて、子どもを持とうと決めた

女性が妊娠を望む理由には、外的要因が大きく関わっていることがあります。でも本当はもっと能動的に子どもを望んでもいい。

そしてそれは本能によってだけではなく、人生のステップを変えることを視野に入れた上での願望だっていいはずです。

髙嶌梓さんは、結婚生活からのフェーズチェンジを考えて妊娠・出産に臨んだと言います。

■結婚2年目、「飽きない未来」を模索して

ーーnoteに書かれていた「結婚しているというフェーズに飽きたことが、子どもをつくる動機となった」という一節がとても印象に残りました。

子ども時代から、20代後半まではいろいろなイベントが続きます。受験、新しい学校生活、大学生活、就職活動、社会人生活、転職、結婚など……。

こういったイベントがひと段落して、あれ、これから先って子どもがいないとイベントが全然ないのかな? と思ったんです。

そんな中で、結婚2年目。夫とは10年の友人関係の末に結婚したこともあり、なんとなく落ち着いてきたなあ……というタイミングがあって、じゃあそろそろ子どもかな? という心境になったんです。

人生の新しいフェーズに行きたいな、と。

――刺激がほしい、というのはわかります。例えば、仕事などの面でそれを満たすという選択肢はなかったんでしょうか。

仕事は、ベンチャー企業の会社員をしています。それ以外に、副業としてウェディングアクセサリーのネットレンタル事業と、古着のECショップ事業を細々とやっています。

ただ、先ほどお話した人生のイベントという意味では、仕事がそういった人生のイベントを新しく生み出すイメージが、その当時はあまりなかったんです。

子どもを産んだら、15年くらいはきっと子どもが成長していくこと一つひとつが、人生のイベントになるのかなあと思っていました。

――でも仕事と違って、出産・子育てって途中でやめることができないですよね。

そうなんですよね、それで妊娠してからすごく不安になりました。お酒を飲みに行くのが大好きだったんですけど、当たり前ですが妊娠中はそれもできなくて、家の中にずっといるのが普通になって。

夫ともよく外食してコミュニケーションを取っていたんですが、お酒を絶ってからその機会も少なくなりました。

家にいるとなんとなく会話が弾まなかったりして、このまま会話のない夫婦になってしまうんじゃないか……。そんな不安がムクムクとわいてきました。

――妊娠中はなかなかポジティブな気持ちにはなれなかった?

はい。とにかく“失敗”するのが怖かったんです。

――失敗ですか。

上に兄がふたりいるのですが、その影響もあったかもしれません。末っ子って、上の兄弟が何をしているか見て、失敗していたら、それを回避しようとする部分ってあると思うんです。

「できるだけ世間的に失敗とされることをしないように」、無意識に行動してしまっていました。

でも、妊娠や出産、子育てって、そういうわけにいかないじゃないですか。初めてのことだらけだからネットを検索しても、すごく怖いことばかり書いてあるし。

大変な思いや、失敗をしたくない、と思っているのに、産後ママはめちゃくちゃ大変だ!とか、産後クライシスとか、そんな情報ばかり溢れていて、そうなりたくない、という思いが強い妊娠生活でした。

■テレビを捨てた理由

――そんな不安を抱えたまま出産。いかがでしたか。

無痛分娩だったので、そこまで体にダメージはありませんでした。でも、行けるかな? と思って、産後1カ月で子どもを連れて行った香港はなかなかハードでした。

――1カ月で香港! それはすごいことをやってのけましたね。

今思うと結構無謀なことをしたかな、とも思います。小さい赤ちゃんを連れて飛行機に乗って……。でも、そのときは、子どもを産んだ自分が大変じゃない、と思いたかったんだと思います。

――それは、失敗したくないという気持ちからつながっているのでしょうか。

そうですね、意地もあったのかもしれません。それからもうひとつは、子どもが生まれたことで、夫にネガティブな感情を持ってほしくなかったんです。

もし私が男性だったら、妊娠も経験せずに突然目の前に赤ちゃんが現れても、かわいい自分の子どもだ、愛しくて仕方がない、ってすぐにはならない気がしたんです。

そんなことはないに決まっていますけど、子どもが生まれてきたことを後悔させてしまわないように私がフォローしないと、という気持ちがありました。

――旦那さまへの気遣いが伝わってきますが、とても大変だったでしょう。

そうですね……結構大変だったかもしれません。子どものお世話が大変だったというより、世の中にあふれる、大変な産後生活、産後クライシスになりたくない! という自分の気持ちが先立ってしまって、自分で自分をしんどくしていたような気がします。

現実には、夫はちゃんと理解を示してくれたんですね。私がてんやわんやする前に、先回りして安心する言葉をかけてくたり、私がてんやわんやしないようにするには、夫がどうすればいいか考えて行動してくれていたように思います。

産後3カ月くらいからは、少しずつ気持ちも楽になっていきました。

――恐れていた夫婦の関係性の変化については、いかがでしたか?

もともとすごく仲が良くて、その関係が壊れてしまうことがすごく怖かったんです。外でお酒を飲みながらいろいろな話をすることもできなくなってしまいましたから。やっぱり産後すぐは、なかなか深い会話ができなかったように思います。

そこで荒療治じゃないですけど、テレビを捨てました(笑)。まあそれだけが理由ではないですが、産後しばらくするとふたりとも赤ちゃんのいる生活にも慣れて、生活リズムも整って、関係も良い方向へ変化していきましたね。

■家族として生きる幸せ

――それは家族になれた、ということでしょうか。

そうですね。ふたりでひとつのプロジェクトを遂行しているように感じられるようになってきました。子どもの成長や、子どもの一つひとつの行動を同じレベル感で感じて、喜べる相手がいるって、すごく嬉しいことだな、と思って。

子どもが生まれて強く感じるのは、「こんなにすべてが新しいことって大人になってから経験したことがなかったな」ということ。昨日できなかったことが今日突然できるようになる様子を見ているだけですごく新鮮です。

それをひとりじゃなくて、シェアできる夫がいることが嬉しい。

――とても幸せな家族の姿が目に浮かびます。反対に、不自由に感じていることってありますか?

めちゃくちゃあります! 会社は育休中ですが、副業のふたつは海外に行くことが結構あります。 そこに制限がかかってしまうことは少し残念です。

人に先を越されていくような、焦りもすごくあります。将来的には自分の好きなことだけを仕事にして食べていきたいと思っているのですが、身軽に動けないというだけでリスクに感じてしまうこともあります。

――子育て1本に絞るという選択肢はないのですね。

私に関してはそれはなさそうだな、と今のところは思っています。自分の母親への反面教師という面もあるかもしれません。

――お母さまは専業主婦をされているのでしょうか。

母自身専業主婦ですし、私に対しても、結婚した時点で「仕事をやめて家庭に入り、妻としてきちんと家を守りなさい」と言っていました。

なんでせっかく楽しいことを仕事にしているのに、家庭に入らないといけないんだろう? と疑問を持っていました。

家庭にいることが一番幸せな人はそうすれば良いと、心から思います。ただ、私はそうでないのだから、それなのに家庭に入ってしまうと、きっと幸せじゃないと思うんです。

幸せそうじゃない母親を子どもに見せるよりも、楽しそうに好きなことをやっている母親を見せたいなと思います。

――今後は子育てをしながら、自分の夢を追いかけて生きていくというビジョンが明確なのですね。

今のところは……そうですね。今子どもがようやく9カ月になり、少しずつお世話も楽になってきました。

そうは言っても母親業って結構大変で、1日が終わるとぐったりしてしまって、これがあと10年以上は続くのか……とネガティブに思うことも多々あります。

それでも、夫の口癖「そんな日もあるよ」という言葉が勇気づけてくれるんです。そんな毎日を乗り越えながら、子どもに楽しそうな姿を見せていける母親でいられたらいいな、と思います。

(編集後記)
“人生のフェーズを変えるために妊娠する”という考え方に、最初はとても特殊な印象を持っていました。でも動機が何であったとしても、妊娠が不安だったり子育てに悪戦苦闘したりするのはみんな一緒。そして“子どもに自分の人生をすべて預けることはしたくない”という思いは、働く女性なら誰しも思うことだったのです。現在子育てと仕事の両立にあがき続けている筆者の心も、少しだけ楽にしてくれたインタビューとなりました。

Text・Photo(髙嶌さん近影、手元写真)/波多野友子

5月大特集「人それぞれな子どもの話」

https://p-dress.jp/articles/6759

5月特集は「人それぞれな子どもの話」。「子どもを持つ・持たない」について、現代にはさまざまな選択肢があります。子どもを持つ生き方も、持たない生き方も、それぞれに幸せなこと、大変なことがあり、どちらも尊重されるべきもの。なかなか知り得ない、自分とは異なる人生を送る人のリアルを知ってほしい。編集部一同そう願っています。

髙嶌梓さん
1986年東京生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒。2017年8月に女の子を出産。
ベンチャー企業に勤務する傍ら、ウェディングアクセサリーのネットレンタル事業と、ヴィンテージのECショップ事業を運営する。

ウェディングアクセサリーレンタル「Az.tokyo」
instagram:https://www.instagram.com/az.tokyo/
website:http://a-z.tokyo/

ヴィンテージECショップ「ooak vintage」
instagram:https://www.instagram.com/ooak.vintage/
website:http://ooak.tokyo/

note:https://note.mu/azusa

DRESS編集部

いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。

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