月3万円って払いすぎかも? 知っておきたい生命保険の話
いつか誰かと共に暮らす予定の人も、しばらくはひとりでいいかな、という人も、「お金と住まいの教養」を少しずつ身につけていきませんか? 『学校では教えてくれない! 一生役立つ「お金と住まい」の話』著者、寺岡孝さんの連載【お金と住まいの教養を持つオンナ】#3(前編)では、生命保険について解説します。
目次
前回、前々回では住まいに関係する話、例えば住まいは「購入」か「賃貸」か、購入する場合には住宅ローンはどのくらいの金額が目安なのかなどをお伝えしてきました。
今回は、住まいの話から少し離れて、日常の生活で気をつけたいお金のお話。中でも「生命保険」を詳しく扱います。
知っておきたい保険の話
人生で支払う大きなお金には住宅の購入費用や教育費用がありますが、そのほかに保険に対して支払うお金は意外に大きいものです。
まず保険の基礎的な知識についてお話しましょう。
健康保険(医療保険制度)
日本では、1961年に国民健康保険法が改正され、国民皆保険体制が確立されました。
これによって、国民すべてが何らかの医療保険制度に加入し、病気やけがをした場合に医療給付が得られるようになりました。
医療保険制度は、大きく「国民健康保険(国保)」と「健康保険(被用者保険)」のふたつに分けられます。
「国民健康保険(国保)」は、自営業者や無職、非正規労働者や農家が加入する医療保険で、市区町村が運営する地域保険です。保険料で給付費の50%を賄い、残りの43%が国庫負担、7%が都道府県の負担となります。
原則として医療費の3割が自己負担ですが、3歳未満については2割、70歳以上については1割となっています。
「健康保険(被用者保険)」は、会社に勤務している正社員などが加入する保険です。
運営者は協会健保、または各社会保険組合となります。
認定範囲内の親族を扶養することができ、扶養者が何人いても保険料が変わらないのが特徴です。被用者保険の場合、「従業員と会社で保険料を折半」するシステムになっており、扶養範囲内の親族が多ければ多いほど、国保に比べて得であると言えます。
定年になって会社を辞めると無職となりますから、それまで被用者保険に加入していた人もやがて国保扱いとなります。
ご存じのように高齢化が進む日本では、社会保障費がうなぎ上りに増え、それにしたがって国の借金も増え続けています。2017年9月末現在、日本の国の借金は、総額で約1080兆円(財務省調べ)で、これは国民ひとり当たりに換算すると約840万円となります。
毎年国債の発行でそれを賄うという、借金体質に陥っています。日本経済にとって一番の大きな問題が、少子高齢化とそれに伴う人口の減少です。
少子高齢化にストップがかからない限り、日本が財政破たんを避けるには、「消費税や所得税などを中心にした増税」と「社会保障費のカット」は不可欠になってきます。
明るい老後、せめて人並みの老後を送りたいと考えるのであれば、公的年金に頼らないライフプランを現役としての年月が残されているうちに考えて準備しておくべきでしょう。
生命保険
公的な社会保険制度のすき間を埋めるのが、民間の保険です。
「生命保険」とは人に対する保険で、例えば、人の死亡または定められた年齢までの生存に対して、一定の金額を支払うことを約束する保険があります。
一般には、私保険によるものだけを「生命保険」といい、日本では民間保険会社で営まれています。
もしものときに残された遺族が困らないように、一家の大黒柱が加入するケースがほとんどで、最近では、いわゆる掛け捨ての保険が基本になっています。
医療保険
「医療保険」は病気やケガで入院をした場合や所定の手術を受けたときに、給付金が受け取れる保険を指します。公的な医療保険制度の補完を目的としています。
注意すべき点は、病気などの長期入院等で高額な医療費がかかった場合、高額療養費制度という国の制度で医療費の自己負担軽減を図っています。しかしながら、平成29年8月から段階的に70歳以上の人を対象に、現役並みの収入のある人は国の負担額を減らすという方針になりました。
ですから、いつまでも国から療養費が支払われるとは限りません。
つまり、国はいつまでも個人の面倒を見てくれないと考えておくべきで、そうした場合の自己防衛策を取っておく必要があります。
損害保険
「損害保険」は主に物に対する保険で、例えば、偶然の事故や自然災害などにより生じる損害を補償するための保険があり、私たちに身近な「火災保険」「自動車保険」などがあります。
最近では、自転車の運転で歩行者と衝突する事故が多発しています。中でも、自転車との衝突で歩行者が死亡したケースでは、賠償金が4億円という事例も出ているため、こうした保険の加入は必須になります。
住まいに関して言えば、「火災保険」「地震保険」「家財保険」が特に重要です。
団体信用生命保険
「団体信用生命保険」とは、民間の生命保険のひとつ。住まいとお金には欠かせない保険ですので、説明しておきましょう。
これは、住宅ローンを利用する際に、融資側である銀行などを保険金の受取人とし、融資を受けるローン利用者、つまり債務者を被保険者とする生命保険制度です。
住宅ローンを利用している人が死亡または高度障害状態になったときに、生命保険会社が融資側の債権者に保険金を支払い、債務の返済に充当し住宅ローンを完済するというものです。
ローン利用者に万一の事が起こった際に、残された家族がローンの残債に追われずに安心して自宅に住み続けるための仕組みで、この団体信用生命保険に加入することが住宅ローンを組む際の必須条件となっています。
以上が概ねの保険に関する基礎知識になりますが、次に皆さんにとってもう少し身近な生命保険について詳しく見ていきます。
生命保険は常に見直すべき
皆さんは、生命保険の保険料を年間どれくらい払っているでしょうか?
生命保険文化センターが実施した平成28年の「生活保障に関する調査」(個人調査)によると、年間払込保険料(個人年金保険の保険料を含む)は男性で平均22.8万円、女性で平均17.4万円となり、平成27年度の「生命保険に関する全国実態調査」(世帯調査)調査では、1世帯当たり年間で38万5000円、月に3万2000円を保険料として支払っています。
世帯当たりで月に3万円を超えているということは、結構な保険料を支払っているというのがわかります。
私は、何らかの相談に来られた皆さんに、「生命保険の見直しをされては?」とお話しています。
それは、先ほどのデータからでもわかる通り、皆さんはそれなりに高い保険料を支払っていることがうかがえます。
そうであれば、見直しをして掛け捨ての保険商品に変えるなど、保険料を抑えて別の出費に回すことを心がけるべきです。教育費であるとか住居費、貯蓄などに充てることで家計が楽になります。
生命保険の見直し方法
生命保険の見直しにはいくつかの方法があります。
まず、今の生命保険をどうしたいかを考え、それに応じた見直しを検討することになります。
「保険金額が高い」と思ったら、解約、減額、払い済みという3通り、「保障を増やしたい」と思ったら中途解約・増額、別な新規契約という2通り、「保険の種類を変えたい」と思ったら新規の契約、既存の契約転換という2通り、「保険料を安くしたい」と思ったら解約、減額、払い済み保険、延長保険というような見直し方があります。
ここでそれぞれの見直し方法を解説すると、
・解約は契約している保険をやめること
・減額は保険金額を減らすこと
・中途解約・増額は契約中に保険金額を増やしたり減らしたり、あるいは特約を加えること
・新規契約は新しく契約すること
・契約転換は今の保険を使って同じ保険会社で新しい保険に契約し直すこと
・払い済み保険は保険料支払いを止め、保険内容を小さくすること
・延長保険は保険料支払いを止め、期間の短い保険に変えること
というような内容になります。
見直しの目的は保険料の支払いを減らすことが第一と考えがちですが、保障も減らしてしまう場合があるので、そのときの年齢や家族構成の変化に応じて見直し方法を検討する必要があります。
生命保険は貯蓄になる?
もうひとつ、ここで述べておきたい内容は保険の貯蓄性についてです。
よく貯金の代わりに生命保険に加入している人がいますが、実際にはどうでしょうか。
保険の貯蓄性を見極める簡単な方法は、満期の際に受け取る保険金と満期までに払い込んだ保険料の合計を計算すれば、すぐにわかります。
学資保険
いちばんわかりやすい事例は簡保の「学資保険」です。
親御さん(契約者)が28歳男性、子供(被保険者)が0歳男性とし、全期間払込学資祝金付18歳満期の保険金額500万円、各入学時の祝金が合計150万円とした場合、払込保険料総額は688万円、満期までの受取総額は650万円となり、払った保険料の方が満期の受取総額よりも38万円多いということがわかります。
つまり、これは元本割れを起こしているので、保険での貯蓄性は薄いということが理解できます。
個人年金保険
もうひとつ、貯蓄性のある保険に「個人年金保険」というのがあります。
これは、お金を積み立てして老後にもらうという保険商品で、貯金と思われがちですが保険です。
個人年金の商品パンフレットには、60歳以降が戻り率103%と記載されていますが、この戻り率はパンフレットにこう記載されています。
「戻り率とは累計払込保険料に対する受け取り総額の割合を示しています」とあり、実質利回りとは違うことになります。
例えば、月1万円で30年間の個人年金に加入するとした場合、30年トータル360万円積み立てると31年目以降の10年間で総額372万円の受け取りができる内容です。
しかし、利回り計算すると0.12%程度の利回りで銀行の定期預金の利回りを下回る感じです。
30年間コツコツ保険料を支払ってもそれほど増えないことがわかります。
生命保険の貯蓄性には限界も
また、保険料の仕組みを知ると生命保険の貯蓄性には限界があると理解できます。
保険セールスの人から「掛け捨ての保険は損である」とか「もったいない」という話を聞いたことがあるかと思いますが、現実はどうなのでしょうか。
生命保険の種類でいわゆる「掛け捨ての保険」と「貯蓄にもなる保険」のタイプがありますが、この2通りの保険料は下記の通りになっています。
●掛け捨て保険の保険料
付加保険料(保険会社運用のための費用や保険会社の儲け)+危険保険料(1年間の死亡率によって決まる)
●貯蓄にもなる保険の保険料
付加保険料+危険保険料+生存(貯蓄)保険料(満期金・ボーナス・お祝い金など)
こうしてみると、貯蓄にもなる保険は掛け捨て保険の保険料にプラスして保険料を計上しているので、貯蓄といえども過少な貯蓄しかできません。したがって、掛け捨て保険は損ではないことがこのしくみから理解できます。
このように、今のマイナス金利という時代背景と保険料の仕組みなどを見ていくと、生命保険は貯蓄代わりにはならないということがよく理解できます。
(後編につづく)
Text/寺岡 孝(てらおか たかし)
1960年東京都生まれ。アネシスプランニング株式会社代表取締役。住宅コンサルタント。住宅セカンドオピニオン。 大手ハウスメーカーに勤務した後、2006年にアネシスプランニング株式会社を設立。住宅の建築や不動産購入・売却などのあらゆる場面において、お客様を主体とする中立的なアドバイスおよびサポートを行っている。これまでに2,000件以上の相談を受けている。 東洋経済オンライン、ZUU online、スマイスター、楽待などのWebメディアに住宅、ローンや不動産投資についてのコラム等を多数寄稿。著書に『不動産投資は出口戦略が9割』(クロスメディア・パブリッシング)がある。
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