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排卵誘発剤は妊娠率を上昇させるのか? 誤解と使用時の注意点【知っておきたい、体外受精の基礎知識#4】

体外受精という不妊治療が一般的に知られるようになった昨今。不妊症に悩むカップルは6〜10組に1組と言われる今、体外受精を受けている方は珍しくありません。この体外受精という治療について、山中智哉医師が詳しく解説する連載、4回目では排卵誘発剤を一般的な不妊治療で使う際に知っておきたいことを取り上げます。

排卵誘発剤は妊娠率を上昇させるのか? 誤解と使用時の注意点【知っておきたい、体外受精の基礎知識#4】

一般的な不妊治療である「タイミング法」や「人工授精」よりも高度な医療技術が用いられる「体外受精」。治療過程において、排卵誘発剤を使用する機会は多くなります。

体外受精で排卵誘発剤を使用する場合、有効な卵子を複数個採取するために、排卵誘発剤の独特な使用方法があります。一方で、体外受精よりもタイミング法や人工授精の方が、排卵誘発剤を使用するにあたって、注意が必要な一面もあります。

■タイミング法や人工授精で、排卵誘発剤を使うとき知っておきたいこと

前回の記事「排卵誘発剤を使うと起きること」で、品胎(三つ子)以上の妊娠は、排卵誘発剤を使用した自然妊娠による例が多いことをお話ししました。

排卵誘発剤の使用量や、治療を受けられる方の薬剤に対する反応性にもよりますが、通常、排卵誘発剤を使用すると、2個以上の卵胞が形成され、それぞれの卵胞から卵子が排卵される可能性があります。そして、2個以上の卵子が排卵され、それぞれが受精し子宮に着床すると、双胎以上の妊娠という結果になります。

現在の産科や新生児医療においては、双胎妊娠でも母児ともに健康に出産に至る例は多くあります。しかし、それでも、双胎妊娠には妊娠高血圧症といった母体の合併症や、早産となる可能性、長期の管理入院など、さまざまなリスクを考慮した妊娠管理が必要となります。

したがって、医療的な面からは、双胎妊娠はできる限り避けようという考えになります。体外受精では、子宮の中に戻した胚の個数がわかります。そして、現在、日本産科婦人科学会の指針では、移植する胚は原則1個という方針が決まっています。
 
排卵誘発剤を使用し、卵巣に複数の卵胞ができた場合でも、体外受精では、「採卵」によって、すべての卵子を体の外に取り出すことができます。しかし、「タイミング法」や「人工授精」においては、すべての卵子が「排卵」によって卵管内に入り、受精し、受精卵となって子宮内に到達する可能性があります。

つまり、タイミング法や人工授精を行なう際に排卵誘発剤を使用する際には、体外受精で排卵誘発を行なうときと比べて、「有効な卵胞が1個、多くとも2個となるようにコントロールすること」がより重要となります。

■「排卵誘発剤=妊娠率が上がる」ではない

不妊外来をやっていると、時々患者さんから、「妊娠しやすくなるように、排卵誘発剤をください」という言葉を聞くことがあります。

おそらく、排卵誘発剤の作用がどのようなものかをご存知ではなく、「排卵誘発剤=妊娠率が上がる」という認識だけではないかと思います。

確かにそれは、あながち間違いではありません。

排卵される卵子のすべてが受精して胎児になれるわけではなく、例えば、卵子の質などが影響して、精子と出会っても受精できなかったり、受精卵になっても育つためのエネルギーが足りなかったり、染色体異常などが生じていたり、胎児となれる卵子は限られたものだけとなります。

そう考えると、排卵される卵子が1個よりも2個、3個、あるいはそれ以上排卵される方が、もしかしたらその中に胎児となれる卵子が含まれる可能性が高くなり、妊娠の確率は上昇するといえます。

しかし、それには多胎妊娠のリスクを伴うことは先にお話しした通りで、妊娠率の上昇は、数の上での優位性でしかありません。

個々の卵子の妊娠率が上昇するわけではない――そう考えると、元々、排卵障害がない方が安易に排卵誘発剤を使うのは控えるべきことで、使用した際には、必ず超音波検査で排卵しそうな卵胞が何個あるのかを厳重に管理する必要があります。

次回は、体外受精における排卵誘発剤の使用についてお話ししたいと思います。

山中 智哉

医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本抗加齢医学会専門医 現在、東京都内のクリニックにて、体外受精を中心とした不妊治療を専門に診療を行なっています。 不妊治療は「ご夫婦の妊娠をサポートする」ことがその課題となりますが、...

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