体外受精という不妊治療が一般的に知られるようになった昨今。不妊症に悩むカップルは6〜10組に1組と言われる今、体外受精を受けている方は珍しくありません。この体外受精という治療について、山中智哉医師が数回に渡って詳しく解説します。
体外受精を始める前に考えてほしい3つのこと【知っておきたい、体外受精の基礎知識#2】
体外受精という不妊治療が一般的に知られるようになった昨今。不妊症に悩むカップルは6〜10組に1組と言われる今、体外受精を受けている方は珍しくありません。この体外受精という治療について、山中智哉医師が詳しく解説する連載です。
通常、体外受精は、「自然妊娠することが困難な方」に対して行われます。では、「自然妊娠することが困難」とは、どういう状態なのでしょうか。
■自然妊娠が難しいとは、どんな状態を指す?
女性側が自然妊娠が難しい場合
体外受精が行われ始めた当初、その対象は「卵管性不妊」つまり「卵管が詰まっている、あるいは子宮外妊娠などにより卵管を切除した方」でした。
体外受精は、体の外で「卵子」と「精子」を受精させ、受精卵(胚)となったものを、子宮に戻す方法です。それは、本来、卵管の中で起きている現象です。
つまり「卵管性不妊」の場合、卵巣と子宮の機能が正常であれば、体外受精が卵管のバイパスの役割を果たすので、体外受精はとても効果的な方法となります。
そして現在では、体外受精を受ける方の対象は広がっています。
例えば、「抗精子抗体」という精子の動きを悪くしてしまう抗体を持っている方の場合、はじめから体外受精が推奨されるケースもあります。
また、最近では「自然妊娠ができない原因が不明」のまま、体外受精を行うことになるケースもありますし、「年齢的に妊娠を急ぐ必要がある方」も体外受精の対象となっています。
男性側が自然妊娠が難しい場合
ここ数年、「不妊症の40~50%に、男性の因子も関わっている」ということが言われるようになりました。「男性不妊」といわれるものです。
この因子には勃起不全や腟内射精障害などの機能性のものも含まれます。
実際に、男性の因子によって、御夫婦に体外受精が必要になる割合は、体外受精を受けているご夫婦の20~30%ほどで、中にはご夫婦ともに何らかの問題を抱えている場合もあります。
■体外受精を受ける前に考えてほしい3つのこと
前回のコラムでお話ししたように、体外受精の40年ほどの歴史の中で、自然妊娠と比較して異常の発生率に明らかな差はないとされています。とはいえ、まだ追跡調査中のことなども含め、未知の部分があるのも事実です。
1.「ステップアップ法」も治療の候補に入れてみる
そのあたりも考慮して、最初から体外受精を選択するのではなく、「ステップアップ法」という「自然妊娠」→「人工授精」→「体外受精」と治療の段階を踏んでいくという考え方は、体外受精が一般的な治療となりつつある現在においても有効なものといえます。
また、体外受精に至るまでに妊娠できれば、身体や費用面の負担の軽減にもつながります。
2.体外受精は万能な治療ではない、と知っておく
それからもうひとつ、「体外受精」はすべてを解決してくれる万能な治療ではないことも、知っておく必要があります。
体外受精はあくまで「卵子と精子を受精させること」が主目的で、受精卵が子宮に着床し、妊娠が順調に経過し、無事出産に至るまでには、体外受精では解決できないことも起こり得ます。
日本産科婦人科学会の報告書を見ると、体外受精の妊娠率は、治療方法によって若干異なりますが、20~30%前後となっています。これは、治療を受けた方の人数に対して妊娠した方の人数の割合です。そのため、一人ひとりの妊娠の可能性を示しているわけではありません。
中には、体外受精が効果的に働いて、1回で妊娠される方もいらっしゃれば、何度繰り返してもなかなかよい結果が得られない方もいらっしゃいます。
3.体外受精が自分にとってどれくらい有効か考え、調べてみる
そう考えると、もし『DRESS』読者の方の中で、体外受精を受けるかどうかを考える場面に直面された場合には、一般的な妊娠率だけではなく、「自身にとって体外受精はどの程度有効なのか」ということを考える必要があります。
それについては、血液検査など事前の検査によって、ある程度推測することができます。私のように、不妊治療を担当する医師としても、その視点から、「1回の治療に対する一人ひとりの妊娠の可能性や確率をどう上げるか」を大切に考えています。