夫や子がいても私は私。自立して生きる、ぬいぐるみ作家の本棚【本棚百景#9】
本棚の中身は、持ち主の脳内や心の中を映し出していることがあります。他人の本棚や読書スタイルというものは、意外に知らないものですが、読む本の変遷は時にその人の生き方さえも表しています。連載【本棚百景】9回目は、東京在住ユウコさん(仮名)の本棚をご紹介します。
思い思いのスタイルで過ごす読書の時間。本棚の中身は、そのときどきの持ち主の脳内や心の中を映し出していることさえあります。
だからこそ読書とは、もしかすると生きることそのものといえるのかもしれません。連載【本棚百景】9回目は、東京都在住のユウコさん(仮名)の本棚をご紹介します。
■本棚の持ち主 プロフィール
ぬいぐるみを作る作業台。
ただ、かわいいだけではない。味わいのあるぬいぐるみ作りが得意。
小学生の娘は、超・アクティブ。本棚は娘の本に占領されつつある。
ぬいぐるみ作家
ユウコさん(仮名)
東京都在住・女性・42歳・既婚・夫と娘と3人暮らし+猫1匹
幼稚園や小学校の頃、図工で何かを作るたびに賞をもらった。
賞をもらうと、周りが褒めてくれた。褒められると単純に嬉しくて、「絵描きさんになるんだ」と周囲に言っていた。褒められることで、自分はこれが得意なんだと暗示にかかっていたような気がする。
中高生になると、働く家族の影響から、女性であっても経済的に自立できる職業に就きたいと考えるようになる。高校時代に少し不登校になった時期もあって、人の心に寄り添う医療的な職業に興味を抱くが、本当にやりたいことを掘り下げようと、自分自身をよく見つめ直した。
幼いころから好きだったこと……それは絵を描いたり、ものを作ったりすること。手に職をつけて、資格を取っていける進路へと、受験直前にシフトチェンジ。大学は芸術系の建築学科に入学が決まった。
卒業後、住宅会社や設計事務所に勤務。2級建築士を取得して、住宅設計や建物内部のデザイン業務に携わる。
20代で結婚を決めたが、パートナーに依存する気持ちはあまりなかった。結婚しても親になっても、人というものは最後はひとり。自分が楽しめる何か、自立できる何かを持ち続けているということは、生きていく上できっと強みになると思っていた。
結婚後も仕事を続けることにしたが、自分の体力や将来のことを考えて、もう少し柔軟で自由に働けるスタイルを模索することに。
設計デザインをする中で、自分で何かを生み出していきたいという気持ちが強くなり、新たにバッグのデザインをフリーランスで始めようと決めた。
たまたま、バッグと一緒に作った立体物の評判が、とても良かった。顧客のニーズを考えて、バッグからぬいぐるみの製作・販売にといつしか変化していった。
■大学時代に読んだ本
大学時代から持っている、建築や美術関連の本。
学生の頃はたくさん旅をした。
大学時代は、建築関係や旅関係の書物を読んだ。写真集や建築雑誌、特にガウディが好きだった。
長期休みに住み込みのアルバイトをしながらお金を貯めて、よく海外を旅した。そのせいか、沢木耕太郎の深夜特急は自分自身と重ねて読むことが楽しかった。
さまざまな国の文化、歴史、生活、色見の違いを楽しんで観察したり、帰ってきてはその国のことをまた調べたりを繰り返す。いつしか、旅の体験が学校の課題作品に反映することがわかり、双方を楽しみながら創作に励んだ。
旅をすると、トイレ事情に関しての違いが気になった。本より現地の方が当然リアル。これは行ってみないとわからないと思ったものだ。
■大人になって読んだ本
倫理・起源……。目に見えないものの中に深遠な真理を感じる。
小学校の頃、近所の方から借りた倫理の本にはまった。
とても分厚かったけれど、ぐいぐい引かれて一気に読んだ。さまざまな心の中のことに、大きく興味が湧いたのを記憶している。生きていく上での真理を見つけたような気持ちになった。
倫理の本との出会いは、物事の原点、人間の根幹、心の元を知りたいと思っている自分の性格を掴むきっかけとなった。それは大人になってからも変わらない。
結婚・出産後は、乳幼児の発達心理が気になった。子供がかみついたり、叩いたりするようになると、暴力の起源を調べた。母乳は本当にやめてよいのかなど……。好奇心の赴くままに、調べながら過ごしている。
そのせいか、ジャンルとしては新書が好きだ。多種多様なジャンルのノンフィクションを、よく買って読んでいる。
■読書とは、ふっと湧いた疑問への答えを与えてくれるもの
家族でキャンプにいったときに見えた富士山。
海が見えるカフェで癒されるひととき。
夫と娘とたまにキャンプに行く。節約で始めたつもりが、現地はセレブキャンパーでいっぱい。世はグランピングブームであることを体感した。いずれにせよ、単純に自然の中にいると、やっぱり心地よい。
不妊治療の末、出産に至った。それまでは都会大好き派だったが、子育てをしていると自然の大切さが身に染みるようになってきた。子育ては楽しいことばかりではない。ごくたまに、実家がある静岡県に帰って、昔行ったことがある海の見えるカフェに行くと、自然と心が安らぐ。
ぬいぐるみ製作のワークショップで、お年寄りから「楽しかった」と言われることがある。既成のやり方にとらわれない、ラクで楽しいやり方の提案を心がけているから、ゆるく楽しむものづくりの醍醐味をわかってもらえると、本当に良かったなと単純に思う。
自分にとって読書とは、湧いた疑問にあらゆる方向から答えをくれる指南役。たとえば、物語は甘くておいしい飴だったり、ミステリーは、時にまずいおかずだったり。変幻自在な形で知識を与えてくれる。
創作も子育ても、人生はときに苦しい。だからこそ、心の中に湧いてくる疑問に自ら答えを見つけるために、読書はどうしたって欠かせない。