人生と仕事はイコール。福岡で働く女性の本棚【本棚百景#10】
本棚の中身は、持ち主の脳内や心の中を映し出していることがあります。他人の本棚や読書スタイルというものは、意外に知らないものですが、読む本の変遷は時にその人の生き方さえも表しています。連載【本棚百景】10回目は、福岡在住ミユキさん(仮名)の本棚をご紹介します。
思い思いのスタイルで過ごす読書の時間。本棚の中身は、そのときどきの持ち主の脳内や心の中を映し出していることさえあります。
だからこそ読書とは、もしかすると生きることそのものといえるのかもしれません。連載【本棚百景】10回目は、福岡在住のミユキさん(仮名)の本棚をご紹介します。
■本棚の持ち主 プロフィール
引っ越しを繰り返し、厳選した本。仕事の興味がぎゅっと詰まっている。
会社員(飲食業界)
ミユキさん(仮名)
福岡県在住・女性・36歳・独身・ひとり暮らし
生まれ育った福岡の地は、青々とした田んぼと豊かな山の恵みであふれていた。
幼なじみと一緒に、田んぼの中を暗くなるまで走って遊んで……。日本の原風景の中で、天真爛漫に幼少時代を過ごした。
近所にあった図書館の静かな雰囲気が、なんとなく好きだった。たくさんの蔵書に囲まれて、一冊の本の世界に没頭する。別世界に浸る時間がお気に入りで、たびたび通ったものだ。
状況が一変したのは、中学校に入ってから。学校自体が崩壊し、まともな授業が行われない時期が続いた。
高校は、滑り止めで受けた学校しか受からなかった。やむなく通い始めたその学校は、生徒を立たされたり、椅子に正座させたり。控えめに言っても、実に古風な教育方針だった。
視野の狭い世界で、嫌なものをたくさん目にしてしまった。おかげで、すっかり学校嫌いの人間嫌いに。流行っていた小説や漫画を読んで、現実世界からほんの一瞬でも異空間に行きたかった。
そんな環境のせいか、感情を表には出さない、おとなしい性格になっていった。だからこそ、法律を学ぼう、と思い立った。自分を守るのは自分だけ、そう実感したからだ。
大学は、法学部法律学科に進学。それまでの生活とはがらりと変わった。単純に、平和で楽しい毎日が訪れた。念願の法律系資格取得を目指し、ダブルスクールもした。
しかし、時は就職氷河期、これといった就職先がなかなか決まらなかった。あまり焦らずに卒業後も勉強を続けながら働こうと考え、パート社員を募集していた企業に問い合わせ。
しかし、思いがけず正社員をすすめられて入社が決定。思い描いた方向とはだいぶ違ってきたが、これも経験ととらえて、本社がある東京へ居を移した。
本社では店舗業務や商品企画業務を経験。やがて10年が経ち、東京から福岡の支社に異動になる。
法律とは関わらない人生になったが、さまざまな経験を経て、故郷の地で仕事と向き合う日々を過ごしている。
■学生時代を思い出す本
あたりまえの毎日は、実はあたりまえではないことを教えてくれた。
社会人になって久々に吹いたトロンボーンの教本。
大学生の頃、CHARCOAL FILTERというバンドが好きだった。
当時は、ライブにもよく行ったものだ。10年前に解散してしまったけれど、最近、久々に曲を聴いた。聴き流していた歌詞の意味が、ずしんと心に響き、自分も大人になったのだなあと実感した。
『孤独なレース』は、そのバンドのメンバーが書いたものだ。著者が不慮の事故に遭ったと知り、驚いたが、ずっと無事を祈っていた。
やがて、不幸な事故から数年経ち、この本が出版された。事故後の経緯やリハビリについて書かれていて、何気なく生きていると忘れがちなことを気づかせてくれた一冊だ。
自分を受け入れて、目標を持ち、感謝を忘れず……。一つひとつの物事に真摯に向き合うことの大切さを、この本から教えてもらった。
中学生の頃、吹奏楽部でトロンボーンを吹いていた。社会人になり、会社でトロンボーンを吹く機会があり、必要に迫られて慌てて買った教本が『トロンボーン入門』。
ブランクがあったので、本を読んだところで下手は下手のままだったけれど、懐かしく楽しむことができた。
■仕事の基礎力をつけるために読んだ本
社会人になってからは、ビジネス書ばかりを読むようになった。接客、店舗運営、経営、マネジメント……。実践の場で足りない知識を、ビジネス書がたくさん授けてくれた。
『リッツカールトン 一瞬で心が通う「言葉がけ」の習慣』は、その中でも何回か読み返す一冊。接客をしていると、時として行き詰まることがある。
会社の方針や自分自身のコンディションも含めて、お客様の要望すべてに応えられるわけではない現実。
そもそも、接客に苦手意識がある自分にできることを模索していた頃、たまたま手にした本。業種は違えど、お客様に喜んでもらうためのプロ意識や真摯な姿勢は、本当に勉強になった。
ドラッカーは、もしドラなどが流行った数年前にもいろいろと読んだ。今でも読み返すのがこの2冊。
■読書とは自分の可能性を広げてくれる相棒
休日は自分を解放。テラス席でスイーツを楽しむ。
梅の花が好き、初春の匂いを感じるから。
晴れた休みの日は、近くの公園に足を延ばす。開放的なテラス席でスイーツを食べることも。ひたすらのんびりと過ごす。
毎年楽しみにしているのは、梅の花見。桜のほうがメジャーだけれど、梅のほうが初春を感じる。芳しい可憐な香りに誘われると、もうすぐ春だなあと心からワクワクする。
最近は、「仕事するために生きている」気がしないでもない。知らないことを知る醍醐味は、仕事でしか味わえないものがある。しかし、その仕事が楽しくなってきた頃に、たいてい違う部署に異動になってしまう。
30代後半になって、結婚も考えないわけではない。結婚や育児をしていない自分は、人間的に半人前のように感じるときもある。
仕事と結婚や出産……両立してみたいけれど、そうしなければいけないような世間の風潮。今の日本社会は、正直、少し生きにくさを感じる。
まずは、目の前にある仕事に、ちゃんと向き合う自分でいられたら、それでいいと今は思っている。
自分にとって読書とは、自分の可能性を広げてくれるもの。
自分ひとりの狭い視野や価値観を、いろいろな角度から補ってくれる。仕事を始めてから特に感じるけれど、まだ見ぬ可能性を広げてくれる、相棒のような存在だ。
迷うことはあるけれど、今日も素直に一生懸命に働く。人生と仕事は、まさにイコールだ。