旅するように読む。ワーママ・イラストレーターの本棚【本棚百景#8】
本棚の中身は、持ち主の脳内や心の中を映し出していることがあります。他人の本棚や読書スタイルというものは、意外に知らないものですが、読む本の変遷は時にその人の生き方さえも表しています。連載【本棚百景】8回目は、北海道在住ヒトミさん(仮名)の本棚をご紹介します。
思い思いのスタイルで過ごす読書の時間。本棚の中身は、そのときどきの持ち主の脳内や心の中を映し出していることさえあります。
だからこそ読書とは、もしかすると生きることそのものといえるのかもしれません。連載【本棚百景】8回目は、北海道在住ヒトミさん(仮名)の本棚をご紹介します。
■本棚の持ち主 プロフィール
夫と共通の本棚、ジャンル別に分けている。
手描きやPCで絵を描くスペース。外が見える位置に机を置いている。
子ども用の本棚、息子も絵本が大好き。
イラストレーター
ヒトミさん(仮名)
北海道在住・女性・35歳・既婚・夫と2歳の息子と同居
人見知りで、自分の意見をハッキリとは言えない子どもだった。幼児期は勝ち気な女の子にいじめられた思い出もある。
だからかもしれないが、絵本が大好き。ひとりで読んだり、寝る前に母に読んでもらったりするのが日課でもあり、楽しみだった。
好きだった絵本は
『だるまちゃんとてんぐちゃん』
『ぐるんぱのようちえん』
『たんたのようちえん』
など。
周りにわかってもらえない不安な状況で、がんばることにより最後は報われて安心できる……。そんなストーリーが好みだった。
読み聞かせをしてくれた母親と一緒に、ほっとしながら「よかったねぇ」と言い合った。今でも覚えているくらいだから、主人公たちに自分を投影していたのかもしれない。
美術史を学ぶ大学を卒業した後は、和菓子屋に就職。店長職にも就いたが、好きだった絵の勉強をしようと一念発起。
最初の就職から4年後、当時はまだ恋人だった絵画修復の勉強をする夫について、イタリア・フィレンツェへ1年間の留学を決めた。絵画技法とPhotoshop、そして語学を学び、絵に対する興味や情熱はより大きくなった。
帰国後、アルバイトをしながらイラストレーターの道を歩み始め、やがて結婚。長男を授かり、現在は在宅でイラストの仕事を請け負っている。
■小中学生の頃に読んだ本
マンガ用本棚の一角。
小・中学生の頃は、地元の塾で常に一番上のクラスに在籍していた。感覚的に勉強をしていて、偏差値に見合っているからという理由で高校は進学校へ進む。しかし、勉強がよくできるクラスメイトたちに囲まれているうちに、気づけばすっかり落ちこぼれになってしまった。
その頃、現実逃避もあってか、古い少女マンガにハマった。現代のマンガにはない、独特の雰囲気や文学性にすっかりシビレてしまい、深くのめりこんだ。
マンガの中に書き込まれたメッセージを読み取ったり、当時の作家同士の交友関係を知って、さらに別の作家の本を探す。昔の作家は情報が少ない。だからこそ、知ることで世界がどんどん広がっていくような気がして、楽しくてたまらなかった。
古本屋を巡って、好きな作家の絶版本や昔の雑誌を発見する。その高揚感とワクワクは、他では得られないものだった。
それと同時に、『詩とメルヘン』という雑誌を、毎号欠かさず読んでいた。好きな詩に合わせて絵を描くことも、レトロなマンガを読むことと同じくらい好きだった。
■大人になってから読んだ本
旅先で味わった料理を再現するためのレシピ本や、世界の料理に関する歴史の本。
イタリアで購入した絵本や児童書。
やがて、美術史を学ぶ大学に進学する。その頃に通っていた絵画教室で、現在の夫と知り合った。
昔のマンガの話が通じたり、好きな絵本の趣味が合い、とても仲良くなった。待ち合わせの場所は本屋にすることが多かった。
大学時代の思い出のひとつに卒論製作がある。
ある幽霊図が描かれた理由を探る内容に決めたが、幽霊や妖怪に関する本や江戸時代の文献をたくさん調べた。少しずつ明らかになっていく謎解きのような作業にワクワクしたものだ。
和菓子屋に就職後は、仕事の勉強として、熨斗や日本の伝統文化に関する本・接客本などの実用書を多く読んだ。
やがて、絵の勉強のためにイタリアに行くことになった恋人に同行することが決まる。
事前の勉強の延長線で、日本のマンガのイタリア語版、絵本や料理本のイタリア語版を手に取った。イタリアの装丁はとてもおしゃれ。読めないのにジャケ買いしてしまった本も多くある。
■自分にとって読書とは、人生を旅するプラットホーム
旅先や留学先で買ったかたつむり、にわとりなどの置物を食器棚に飾っている。
手作りパンケーキ。2歳の息子はアレルギー持ちなので、料理にはいろいろと工夫している。
イタリアでの生活は、国と自分の感覚が合っていて心地よい日々だった。そもそも、イタリア語の会話は、リズムがまるで歌のよう。話していてとても楽しかった。
帰国後、ほどなくして結婚。趣味の合う義母とマンガの貸し借りをよくしている。義父母の家に泊まるときは、義母のマンガ本棚の中でまだ読んだことがない蔵書を、少しずつ読み進めるのが楽しい。
子どもが生まれてからは、絵本の読み聞かせを楽しんでいる。絵本は夫との共通の趣味だったが、子ども目線で探すと、今までとは違う絵本に出会い、気づかなかった絵本の良さがわかるようになってきた。
あいかわらず好きなことは、料理と旅。旅の楽しみポイントは、おいしいものに出会うこと。旅先で出会った料理を、自分の家で再現。家で回想して楽しむことまで含めて、旅と料理はふたつでひとつだ。
自分にとって読書とは、いろいろな世界を旅するようなもの。自己投影も現実逃避もできて、時代や国を超えての冒険もできる。
迷いながらも何らかの答えやアドバイスがもらえる、人生のプラットホーム。それが読書の時間。